本能の目覚めの兆し

ドットにコントロールされていたオニコさんとアルシノさんを助け出し、ひと安心した僕たちにさらなる危機が襲いかかった。


アルシノさんに取り付いていたセルリアンが今度はエカルさんに取り付きコントロールした。

それだけじゃ終わらず、周りのセルリアンと合体してエカルさんを騎士のような姿に変えてしまった。


僕たちはスタッフカーに乗り込み、ドットたちが行った図書館へ向かった。







〜ジャパリ図書館〜


図書館につき、最初に目に入ったのは泥まみれになった博士とそれを庇うツクヤ、そしてエカルさんと睨み合っている助手だった。


「くっ…フレンズの体を好き勝手に動かすだけでなく力を強めているとは…」

「ふふん…。」


助手がエカルさんと戦っていると、博士を安全なところに避難させたツクヤが戻ってきて助手に呼びかけた。


「助手!!そいつは危険だ、ここは俺がやる!」

「まだ…終わってないですよ…!!ぐぅっ…」


助手がエカルさんを威嚇しながら、戦いの体制を取ろうとしたその時…


「格好つけていられるのも…今のうちだッ!!」

「うぐっ…!!」


エカルさんは容赦なく助手を吹っ飛ばした。

吹っ飛ばされた助手は力なく地面に叩きつけられた。


「剣を使うまでもない…。」

「助手っ!!くっ…俺は二人の手当てをする、なんとか持ち堪えるか…できたら止めてくれ…!」

「わかった…」


ツクヤは博士を担ぎ込み、図書館へ入っていった。

しばらくツクヤと過ごした地下室も、今は懐かしんでいる暇なんてなかった。


「エカルさん…君は僕が助ける、勝負だ!」

「ふふふ、誰が来ても同じだ…。」


お互い戦闘体制を取ろうとした時、横からドットが割り込んで入ってきた。


「そーダよ、ワルキューレは最強だぞ〜?」

「っ!!」


ドットは自慢げに語り出した。


「もとモとその子には戦いのポテンシャル…いわゆる潜在能力が充分にあった…

でも心のどコかにある恐怖心がその潜在能力を邪魔してたワケ。」


そしてドットは僕を指差して続けた。


「さあ、今の力であイつをメタメタにぶっ潰してやれ!!」

「言われッ…なくても!」


エカルさんは剣を抜き、戦いを始める体制になった。

心配したスナネコたちは僕のところまで駆け寄ってきたが…


「ヨウ!」「オレたちも加勢し…」「うわあ!?」

「はい、キミたちは観戦しテな。」


ドットが伸ばした紐…のようなものに捕まって動けなくなった。


「勝負は一対一じャないと…♫」

「長の二人でも勝てなかったアイツ相手にヨウ一人だと…!?」

「くうう、動けない…不安ですね…」

「が…がんばれ〜…」


3人をつかまえたドットは、僕とエカルさんの間に立つと腕を振り上げ…


「そレじゃ、よーい…」


思い切り振り下ろして合図をした。


「スタート!」


僕は相手に先手を取られないように、なるべく早く動くことにした。


「先手必勝!!うおおおっ!!」


流石に武器がいると判断して、赤い剣フェニックスブレードを作り出して突撃しようとした。


だけど…


「っ!!??」


足が動かなかった…。


「どうした?攻めてこないのか?」

「うぅ…うごけ…ない…」


剣をぎらつかせるエカルさんから伝わるプレッシャーは半端なく、『少しでも近づいたらあっという間にやられるかもしれない』という考えが僕の足を固めた。


「それじゃあ…こっちから行かせてもらおうか!!」

「うわぁっ!!」


エカルさんは、僕がやろうとしたように突撃してくると容赦なく剣で斬りつけてきた。

ちからくらべなんかじゃない本物の痛みが僕の体を襲った。


「あぁぁぁっ!!うう…」


エカルさんの剣は僕に深い傷を与えた…


はずだった。







「…?傷が…消えてる…?」


痛みはあったけど、あれだけ深いはずの傷がすぐに消えてしまった。

さらには怪我をした人なら出るはずのものが全然出ていなかった。


「血も…出てない…?」


『体に傷を負ったら血が出る』、それは僕でさえもわかっている当たり前のことだった。

だけど、当たり前のはずのものが一滴も出ないかった。


その代わり、のように僕の体からはキラキラとしたものが出ていた。

これは…サンドスター…?


「なんなんだ…?一体…」


僕が自分の体に驚いて焦っていると、エカルさんは少し怒ったように襲いかかってきた。


「何をボーッとしている!!

戦いを舐めてるのか!?」ザシュッ

「ぐわぁあっ!!…このっ!!」ガキンッ


僕も負けじと剣を振り回してみるけど、硬い鎧に少し傷をつける程度にしかならなかった。


「吹っ飛べ!!」

「うわーーっ!!!」


エカルさんは僕を薙ぎ払い、僕は助手と同じように地面に叩きつけられた。

それを見てドットは楽しそうな顔をしていた。


「おーッと、派手に転がっタね。

スモウっていう戦いだったラ負けてるね。

それにしても、剣でぶっ差サないで吹っ飛ばしテるあたり…まだエカルが残ってンのね。」


ドットは『まあそんなことはどうでもいいや』という顔をして元の場所に戻った。


「さて…戦いの続きを…」


エカルさんがセルリアンの鎧を重々しく鳴らしながら近づいてくる。

今やられたら…どうなるか…


その時…


「待て!!」


図書館からツクヤが戻ってきた。

ツクヤもまた剣を手に取り、エカルさんを攻撃した。


『ピシ…』

「ぐっ…クソッ、鎧にヒビが入ったか。」


僕が攻撃したわずかな傷、そこにツクヤの一撃が入りヒビをつくった。

だけど、さっき一対一と言ったドットがこの状況を許すわけがなく…


「一対一のバトルにぃ…入ってクるなぁ!!」


少し本気で怒ったように横からツクヤを殴り飛ばした。


「わぁぁっ!?」

「ツクヤ!!」


ツクヤは、体制を立て直してドットと睨み合った。


「ヨウ、すまない…

それでドット…どうしてお前はそんなに戦いにこだわる?」

「それは…ボクがヨウの心の海ノ底の底にあるものをコピーしたから…かな。」

「何だと?」


…どういうこと?

僕の中にもあいつと同じものが…?


「ヨウは元々…ずっとずっと小さナ頃、誰かを相手に戦うことにワクワクを覚エるタイプだったのさ。」

「馬鹿なことを言うな、ヨウはそんなやつじゃない。」


そうだよ…僕はドットみたいに最低なことをするやつじゃない…


「今は…ね。

成長の過程や周リの環境で少しずつ心の海に沈んでいったのさ。

それをかツてのボクが拾い上げてコピーしたんだ。」


つ…つまり…?


「ヨウも本質は同じナんだよ、形は違えど!

ヨウ!!お前はボクさ!!ハハハハ!!」


ドットはこっちを見て高々と笑っていた。

ツクヤは怒りの表情でドットを見ていた。


「ふざけるな!!ヨウとお前が同じなわけがあるか!!」

「同じだよ!同じジゃなかったらなんでボクはヨウの姿をしてるノさ?」


ドットと…同じ…?

違う、そんなわけない…


「違う…同じじゃない…」

「…。」

「落ち着けヨウ!

あんなもの、ほんのちょっとしたものをタチ悪く増幅させられてるだけだ…!!」


僕の中で流れる言葉では説明できない感情は、マグマのように頭の中を流れていた。


「同じなわけないんだっっっ!!!!!!」


僕は声を張り上げた。

その瞬間、体から何かが噴き出したように感じた。


「おぉ…ふふ、とりアえずボクの見たかったものハ見れた。

後よろしくちゃんっと…」

「何…!?私に丸投げだと…」


ドットとエカルさんが何かを話した…

でも…だんだんと聞こえなくなってきた…




だんだん訳が分からなくなってきた…だけどわかることもある…


『目の前の敵を倒さなければいけない』


という使命感に逆らう理由は特にないと言うことだ。


———————————————————————


怒りの声を張り上げたヨウは、その姿にも変化があった。

体からサンドスターを大量に放出させ、オーラのように体に纏っていた。


そして、地面に映るヨウの影をよく見てみると耳や尾のようなものがついているのが見えた。


はっきりとは見えないが、その耳は翼のように大きく、尾は美しく立派に生えていた。

それはまさに『野生解放』のように…


「ヨウ…?どうしたんだ?」

「たお…す…たおす…!!」


しかしヨウは血相を変えてエカルを睨みつけていた。

どうやら不完全な解放により狩猟本能、あるいは防衛本能に囚われてしまったようだ。


ここで言うのも何だが、俺はこの状態を『本能覚醒状態』と呼ぶことにしよう。


「な…何が起きてるのですかぁ…?」

「あれは…ヨウの野生解放…?」

「でも耳もしっぽもチラチラとしか見えないよ!?」


三人もかなりあたふたとしている。

無理もない、俺も見慣れない光景に少し焦りがあるからな…


「くるるる…」

「何っ…丸腰だと!?

随分と舐めた真似をするじゃないか…」


ドットはヨウの心や記憶を覗いているのなら、ヨウがこうなることも最初からわかっていたのか…?


「何度来ても同じ…ぐうっ!?」


エカルは剣で斬りかかろうとしたが、素早い身のこなしでいなされ回し蹴りを喰らった。


ヨウに関する記憶を取り戻しつつある今ならわかるが、ヨウは武器の扱いも上手いが格闘術もかなりの実力があった覚えがある。


「なんだ…!?さっきまでと全く違う…?」


ヨウは反撃しようとする腕や剣を確実に跳ね返しながら相手にダメージを与えていた。

『鎧の中のエカル』を案ずるあまり生まれる『迷い』が今のヨウにはないと言うことか…?


「くうっ…このっ!」

「ぎゃうっ!」

「っ!?」


エカルが振り下ろした剣を弾き飛ばし、兜に思い切り手刀を振り下ろし、重いチョップを喰らわせていた。


『パカンッ!!』


そのダメージで、兜に姿を変えていたセルリアンは消滅した。


「あっ…があぁぁぁ…!!

コ…コントロールが…


あ…うぅ…こんなことしちゃダメ…です…!!」


兜が取れたことにより、少しエカル自身の人格が戻りつつある…


「うぐぅ…勝手に出てくるな…!!」

「きゅうううっ!!」


ヨウは今度は胴体を攻撃し始めた。

渦巻く本能の中、かろうじて残っている意思が耐えているおかげだろうか…


「クソッ、こうなったら…!!」


エカルは自分の拳でヨウに殴りかかった。

しかしヨウは鎧を壁キックのように蹴って後ろにバク転すると、虹色のオーラを身にまといだした。


『バシュウゥゥゥッ!!』


「なっ…けものミラクル…!?」


「ぎゃうぅぅぅっ!!」ガリガリガリガリ

「うわぁぁぁっ!!!!」


[獅子奮迅・バーンクロー]


『パッカーン!!』


鎧のセルリアンは、完全に砕け散った。

あの燃えるようなラッシュで耐えられるはずもないか…


「ぐうぅぅぅ…うっ…」バタッ

「あ…ああ…」ドサッ


体力を使い果たしたヨウ、セルリアンから解放されたエカルは二人で同時に倒れてしまった。


それと同時に、縛られていたスナネコたちも解放された。

さて、二人の手当をしてやらないとな…



———————————————————————


目が覚めた…。

こんなに気分の悪い目覚めは初めてだ、最悪…。


体のどこからか湧き上がってくるものに逆らえずに、操られていたとはいえエカルさんをズタボロにしてしまったような気がする。

夢であって欲しい。


「ツク…ヤ…」

「おはよう、気分は…悪そうだな。

さっきまでのお前についての推測…聞けるか?」


僕は何も言わず頷いて教えてもらうことにした。


・・・。


「へぇ…本能覚醒状態、か…。」

「お前がさっきまで戦いを止められなかったのは、狩猟本能か防衛本能に逆らえなくなった結果と見ていいだろう…。」


やっぱり頭がいいな、ツクヤは。

そうだ、それも大事だけどエカルさんが…


「う…私…は…」


苦しそうではあるけども目を覚ましていた。

エカルさんは僕たちの顔を見るなり泣きそうな顔になって謝った。


「みなさん…ごめんなさい!!

本当に…取り返しのつかないことを…」


今まで見てきたフレンズさんたち以上に震えた声で謝るエカルさんを見て、耐え切れないほどに辛かった…。


「エカルさん…謝らないで、お願いだから…

君は全然、何も…悪くないよ…。」

「う…うぅ…」


しばらく悲しいムードが続く中、誰かが図書館に駆け込んできた。


「エカル!!」

「あなたは…!」


そこに立っていたのはPPPのプリンセスさんだった。


「話は聞かせて貰ったわ…」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」


床に膝をつけて謝るエカルさんに…


「泣かないで…。」ギュ


プリンセスさんは優しくハグをした。


「…!?

私…ボディーガード失格ですよね…」


それでもまだ悲しい顔をしたエカルさんを、プリンセスさんはなでなでと撫でながら落ち着かせた。


「失格も何もないわ、あなたは立派なボディーガード…いいえ、それ以前に…


大事な大事な友達よ…?」

「とも…だち…?

私と…プリンセスさんが……?」


エカルさんはびっくりして目を丸くすると、また泣き出してしまった。

だけどこの涙はさっきとは違うみたいだ。


「泣かないでエカル…まだ悲しいの…?」

「違いますぅ…違うんです…これは嬉しくって出た涙です…。

あの憧れのプリンセスさんから…友達だなんて…嬉しくないわけが…」


その嬉し泣きを見ていると、僕も不思議と何か力を貰うような気がしていた。

感動って、こう言うものなのかな?



〜しばらくして〜

「それじゃ…私たち帰るわね!

ヨウ、そしてみんな…エカルのことありがとう!」

「ご迷惑をおかけいたしました…」


エカルさんはまだ申し訳なさを残していたけども、さっきみたいな暗い悲しみは感じなかった。


「ヨウさん…」

「ん、どうしたの?」

「応援…してますから、頑張ってくださいね…!」


エカルさんは、僕に話しかけると応援の言葉をくれた。

僕はそんなありがたい応援に、握手で返した。


「うん、頑張るよ。ありがとう…!」ギュ

「あわ…あ、えっと…ではまた落ち着いたらお会いしましょう!」


エカルさんは、少し図書館から離れてしまったプリンセスさんに追いつこうと大急ぎで早歩きしていった。


〜夜・寝室にて〜


僕たちは、大幅に失った体力を回復させるために図書館で休むことにした。


「ヨウ…久しぶりだな、こうやって寝るの。

…聞いてるか?」

「えっ?ああ…うん、聞いてる。」


僕は自分が立たされている状況を理解できずにいた。

血が出ない体に本能の覚醒、頭がパンクしそうだ。


「僕って…なんで怪我がすぐ治るのかな…?」

「…然るべき時がきたらわかるようになるんじゃないか?」

「何、然るべき時って…」

「それは…

俺にもわからない。」


ツクヤ、何かを隠してる気がするのは気のせいかな?

…まあ、今はどうでもいいか。

ものすごく疲れてるし。



…僕の首からぶら下がるあのお守りにいるあの人は…何か知っているのかな…?


「明日はサバンナ地方に行く、アイツを止めるんだ。」

「うん、わかってる…おやすみ。」

「おやすみ。」


———————————————————————

服立てにかけられたお守り、その中に宿る意思は頭を抱えて悩んでいた。

肉体がないので抱える頭はないが。


『ぐぬ…今回は彼の心に語りかけることはできなかったか…。

私の力が失われてさえいなければ…

こんな首飾り、すぐに出て行けるというのに…。』


お守りに宿る意思も、何か苦労があるようだ…。


———————————————————————


夜も深まる、おおよそ午前0時といったところか…

ヨウはとっくに眠っていた。


ヨウは子供のように寝息を立ててすやすやと眠っていた。

可愛げがあるじゃないか…いや、今はそんなことを考えている暇はないか。


「あの翼のような耳…あんな形の動物はそういない…

思い当たるのは…やはりアレか…。」


自覚のないくらいに淡々と独り言を呟きながらも、いつのまにか俺も眠っていた。




〜次回に続く〜

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