Remember You

ドットに投げ飛ばされ、頭から地面に落ちた俺は意識を失った。

そして今、この不思議な空間に立っているわけだが…


「真っ暗で…何も見えないな。」


右を見ても左を見ても真っ暗な空間が広がっているだけ…なんとも気味が悪い…

試しにいろいろと名前を呼んでみた。


「ヨウー!ナミちー!姉さん!スナネコ、ツチノコォ!!…誰も居ないのか。」


しかし、誰も来なかった。


「…ん?」


ここの事を知ろうと思いしばらく歩いて行くと、人影らしきものが見えた。


「おーい、そこに居るお前…ここがどこかわから…なっ!?」


その人影の顔を見た俺はとても驚いた。

そいつは俺と同じ顔をしていたのだから…


「っ!?ドットの部類か…!?」

「違う。」


そいつは俺の言うことをバッサリと否定すると、話を始めた。


「俺はお前、お前の記憶。氷に閉ざされた記憶の答え…その一部だ。」

「記憶…?」


なんとも俺が好みそうな言い回しで、そいつは自分のことを話した。


「お前は思い出したくないか?かけがえのない親友を。」

「思い出したいに決まっているだろ?誰なんだ、それは…」

「もう大体察しはつくと思うけどな。」


そう言ってそいつは歩きだし


「ついてこい。」


とだけ言って俺を導こうとした。

まったく訳のわからない奴だよ…


しばらく歩いていくと、明るい光が見えてきた。

そこで、俺の顔をしたやつは立ち止まって言った。


「さてと…俺が案内できるのはここまでだ。」

「なっ…ここからどうしろと…」

「あとはお前の目で見てこい。」


その言葉を聞いた瞬間、辺り一面を光が包んだ。

そしてアイツはいつの間にか消えていた。





「おい待…て…」





「ん…ここはどこだ…?パークの…外?」


気がつくと、俺はアスファルトの道の上に立っていた。

パークにはこんな住宅街はなかったはず。

そこで俺はドアが中途半端に空いた家を見つけた。


「…覗いていいものかはわからないが…」


半開きのドアから中を覗くと、よく知った姿の人物が立っていた。


「頼む、週4だけでもいいんだ…」

「ダメだね。、うちでは預かれないよ。」


「あれは…父さんと…俺?奥にいるのは…」


父さんが、中年の男に対して何かを必死で頼んでいた。

そして父さんは、中年の男の言葉を聞いて声色を変えて突っかかった。


「なに…?私の息子をけだものだと!?もういい、行くぞツクヤ…」

「残念だったなナオト、ほかの親戚を当たれ!」


親戚…あの男も親戚なのだろうか。

そして当時の俺は…ずっと黙っているな…


「やれやれ…」


父さんが呆れた様子で家から出てきた。

どうやら俺のことは見えていないらしい。


「次に行くか…」


父さんがそう言った瞬間、突然周りが止まった。

まるでビデオの一時停止のように。


[キュキュキュキュキュ…]


そして今度は早送りのように、時間がどんどん進んでいった。


「戻った…」


時間が元の早さに戻ると、今度は田園風景が広がる田舎の民家に着いた。

ここでも父さんは何かを頼んでいるのか?


気になった俺は、今度は堂々と後ろで眺めていた。

どうせ見えないからな。


「お願いだ、おばさん…週4でも…なんなら週3でいいからツクヤの面倒を見てやってくれないか?」

「嫌だよ、こんななんて家に置いてたらあたしが喰われちまうよ。」

「…っ!!人の子を化物のようにいうのはやめろ!」


なんだか雲行きが怪しくなって来たな…

俺を預かる…?

母さんが居ないから…?俺のせいで…



「とにかく、他を当たりな。」

「わかったわかった、もういい。」


父さんはそう言って家を飛び出していった。

そして、ここでも俺はずっと黙っていた。


「まったくうちの親戚ときたら…誰も彼もツクヤを化物扱いして…

相変わらず頭の古い連中だよ。」


父さんの車の中で、その独り言をボーッと聞いていた。

…と思ったら…


[キュキュキュキュキュ…]




また早送りが始まり、そして再び止まった。

今度は…家の中だ。

でもここはよく知っている…


「俺の部屋だ…」


マイナーなミュージシャンのCD…お下がりの音楽プレイヤー…

部屋のものに懐かしさを感じていると、部屋に父さんと当時の俺が入ってきた。


「ごめんなツクヤ、お父さんの親戚はお前を助けてくれないみたいだ…」

「謝らないでくれ…父さん…全部俺が悪いんだ…」


昔から俺は…ずっと自分を責めていたんだな。

謝る父さん、泣きそうになっている当時の俺…


俺はその様子をじっと眺めていることしかできなかった。


「他にあてはないのか…?」

「そうだな、もう頼めそうな親戚が…ん?

いや、待てよ…?」


父さんは何かを閃いたように手を叩くと、明るい顔でいった。


「そうだっ、親戚にばかり頼っているからいけないんだ…

ツクヤ、って知ってるか?」

「ああ…いざという時には血縁関係のない人の方が頼りになる…って意味だったか?」

「大体そんな感じだ、行くぞ!」


そう言うと、また早送りが始まった。


[キュキュキュキュ…]


早送りが止まると、二階建ての一軒家が目の前に現れた。

庭には向日葵が植えてある。

フレンズの気配もする、ここはパークの中か?


「おーい、ケイ!居るか?」


声のする方を見ると、父さんがインターホン越しに話していた。


「はいはい、今行くよっと…」


スピーカーから、ハキハキとした男の声が聞こえた。

声の主が来るまでの間、色々とみて回った。


「これは…表札?」


ポストの近くに貼り付けられていた表札に目をやると、すごく見慣れた苗字が記されていた。


〔暁〕


「あか…つき…アカツキ…暁!?」


暁って…あの暁か…!?

…と動揺していると、声の主がドアを開けた。


「ごめんごめん、さっきまでパンツ一丁てまさぁ…おっ、久しぶりだねツッくん!大きくなったんじゃない?」


出てきたのは、黒っぽい髪色で真っ直ぐ垂れた髪型の男性だった。

その男性は当時の俺を嬉しそうに撫でていた。


「あの人は…まさか…」


俺も徐々に思い出してきた…

俺にとって、第二の父さんのような存在…



暁京介あかつきけいすけ


俺は『ケイおじさん』と呼んでいた人だ。


「で、ケイ…折り合って頼みがあるんだが…」


と、父さんは頼みの話を切り出そうとした。

だけどおじさんはみなまで聞かずに答えた。


「あー、みなまで言うな。奥さんの事だろ?

…ツッくんのことは任せとけって!いいかい、ツッくん?」

「俺も…おじさんの家がいい…!」


おじさん…本当にいい人だな。

当時の俺も喜んでいるな。


…そして…暁ってことは…?

おじさんは家の中に向かって、誰かを呼んだ。


「おーい、ツッくん来たぞ〜。」

「えー、なになにー?あっ!ツクヤだ!」


家の中から『ドテドテドテ』と音が聞こえ、無邪気なそれは姿を見せた。

当時の俺は、少し微笑んでその名を呼んだ。


「ふふ、元気か?ヨウ…」

「もっちろーん!イェイ♫」


ヨウ…暁ヨウ…

やっぱりヨウだったんだ、俺の…家族同然ともいえる親友…


「いやー、話が早くて助かったよケイ…」

「いいんだよ、俺とナオの仲だろ?…なんならツッくん、今夜から泊まっていくか?」

「なっ…まさかの…!?…どうするツクヤ?」


父さんに聞かれた当時の俺は、ニヤッとして父さんの車のトランクからスポーツバッグを取り出した。


「いっ…いつの間に!?ふふふ…ちゃっかりさんめ…」

「『遠くの親戚より近くの他人』でピンときてさ、準備してたんだよ。」


当時の俺…今の俺よりも頭が切れてる気がするのは気のせいだろうか…


「さっそく部屋行こう!」

「ああ!」


二人は先に家の中に入って行った。


「…今日は一日休みだったし、一人で家にいるのもなんだから…今日は私も泊まるか。」

「どうぞどうぞ。」


そう言って、父さんとおじさんも家の中に入って行った。

着替えとか持ってるのか父さん。


そして俺も後に続いた。





「…ここがヨウの部屋か。」


家の中に入った俺は、ヨウの部屋の前で突っ立っていた。

そして、中に入ろうとドアノブに手を伸ばした。


「鍵とか…掛かってるのか…うおっ!?」


ドアノブを握ろうとした瞬間、手はドアをすり抜けて行った。


「あー、入れるのか。それじゃあ…失礼しまーす…」


俺はドアをすり抜けてヨウの部屋に入った。

なんだか幽霊になった気分だな。


部屋の中では、ヨウが楽しそうに歌っていた。


「エッビーバディー♫シャッフルしよっせっだーい♫」

「〜♪」


当時の俺もなんだか嬉しそうだ。

…少しずつ思い出してきた。


ヨウとは音楽の趣味がかなり違ったが、ヨウが好きな音楽は俺も好き…そして俺が好きな音楽はヨウも好きになるくらい仲が良かった…


しばらくすると、おじさんが階段を登って二人を呼びにきた。


「さあ日月コンビくん、ご飯の時間だぜ!」

「わーい!食べるぞー!」

「ヨウ…!?走ると危ないぞ…!?」


大喜びでドテドテと駆け下りるヨウ、それに続いて当時の俺が降りて行った。

この時からヨウは子供っぽかったんだな…まあ、かわいらしいから良いか。


ヨウとおじさんは、一番目と二番目に椅子に座った。


「いっちばーん!」

「にばーん!」


やっぱり親子だな。


「はい、私が三番だ。」

「父さんまで!?…俺四番?」


当時の俺、微妙にノッてるな…?

そして最後に座ったのは…


「それじゃ、わたしは五番だね〜。」


…フレンズだ。

ヨウと同じ髪色、そして耳とフサフサの尻尾…


「なんのフレンズだ…?」


これだけはっきりと目の前にいるのに、何故か思い出せない。

まるで、記憶に鍵がかかってるみたいだ。


俺が必死に思い出そうと考え込んでいると、俺と同じ声がどこからか聞こえてきた。


「お前が見ている記憶はほんの一部…まだ完全に思い出すことはできない。

だがすぐに思い出すさ。」


…本当か?

なんかまだ信用できないな。


天の声的なものを聞いていると、もうヨウたちは食事を食べ始めていた。


「おいし〜♫」

「美味い…」


ヨウと当時の俺の二人は、大きなコロッケを美味しそうに食べていた。


「そうだろ?お母さんのコロッケは世界一だ!

だろ?お母さん。」

「いやー、照れるねぇ…みんなが喜んでくれると思うと自然と美味しくできるのかな〜?」


…とても仲が良いな、幸せそうだ。

そうなると、父さんが心配だな…


「ふふふ、相変わらずラブラブだな?」

「そうだろー?…あっ…ごめんな…?」

「ん?どうした?」

「いや、奥さんを亡くしたナオの目の前でこんな…」


おじさんは少し気まずそうに父さんに謝ったが、父さんは笑顔で返した。


「気にするなって、親友!ケイが幸せそうなのに怒るやつがいるか?」

「ナオ…!!」


この二人も親友同士なのか、とても仲が良い…


ふとヨウたちの方を見ると、当時の俺がヨウの母さんにおかわりを貰っていた。


「ツクヤくん、おばさんのコロッケ気に入ってくれたみたいだねー♫」


おばさん…???

とてもじゃないがおばさんって呼べるような姿じゃないぞ…?

お姉さんだろ…?


まあ…本人が呼ばせてるんだから突っ込むのはやめよう。


「二人とも、ご飯食べたあと風呂入るか?」

「うん!」「うん。」



〜そしてご飯タイム終了〜


「ツクヤー、早く早く!四十秒で支度しよう!」

「三分間待ってくれ、すぐに入ると吐きそう…」

「わかった!」


確かに、物食べたあとすぐ入ると気持ち悪くなるな。


〜三分後〜

俺も三分間待った、床以外触れないから特にすることがなかったけど。


「それじゃー…ゴーゴー!」

「おーい滑るなよ…!?」


二人はドタドタと風呂場に入って行った。

…なんか入ってはいけない気がしたから、俺は風呂のドアの前に座っていた。



「ふいー、ゴクラクゴクラク…」

「なんかおっさんみたいだなー、ヨウ。」

「最近文字が見えづらいのう…」

「もうそれ爺さんじゃないか!」


…なんだこのコントは。

風呂場で何やってるんだ当時の俺よ。

ヨウたちは、しばらくこんな感じのやりとりを繰り返していた。


「ツクヤ〜、頭洗お〜。」

「いきなりだなー、いいぞ。」


ん?頭洗うのか…

これは…温泉の時のことを思い出すな。


「わしゃわしゃ…うぉしゃうぉしゃ…どう?痛くない?」

「わふ…ちょうどいいぞ…」


なるほど、声しか聞こえなくても大体わかった…

温泉で俺をリラックスさせたアレだ…


「上手いな、ヨウ…」

「へへっ、飼育員さんに教えて貰ったんだよ!」


…なんかこっちまで眠くなってきたな。

んぐ…




————————————————————


「はっ!?ここは…?」


目を覚ますと、俺はベッドに横たわっていた。

横を向くと、見慣れた顔がこっちを心配そうに見ていた。


「あっ、気がついたんだねツクヤ…!?大丈夫…?」

「ああ…まあ平気だな。」


…元の場所に戻ってきたみたいだな、アレは夢だったのか…?

ヨウは嬉しそうに俺の体を揺すっていた。


「ナミちーがツクヤをここまで運んでくれたんだ!…不安だったよ…」


そして、ヨウは涙目になって続けた。


「ドットに投げ飛ばされて頭ぶつけたって聞いて…ツクヤが僕の事忘れちゃうんじゃないかって…

ほら、漫画であるじゃない…?」


心配ないぞヨウ、むしろ…


「ふふっ…安心しろ、いろいろと思い出したくらいだ。」

「…?どんな事?」


俺は夢で見た内容を、全てヨウに伝えることにした。




〜・〜・〜・〜ヨウ視点〜・〜・〜・〜・

「へぇ〜!!そうだったんだ!」


ツクヤから話を聞いた、すごくビックリしたよ。

そしてすごく嬉しかった。


「初めて会った時から思ってた、ツクヤとはどこかで会ったんじゃないかって…

僕はとっても嬉しいよ!」

「それと、あの夢のおかげでお前の父親の名前も思い出したんだ。」


僕のお父さん!?

知りたい知りたい!


「お前の父親の名前は…『暁京介』だ。」

「…アカツキケイスケ…うん、確かにそうだと思う!」


覚えてはないけども、ものすごく懐かしい響きがした。

間違いないね!


「かなりお調子者だったぞ、お前そっくりだ。」

「うんうん、ピース拾った時に見た感じそのままだね!」


…きっと楽しい人だったんだなぁ、お父さん…


うーん、心配したら眠くなってきた…

というかもう夜なんだね、早い。


「ふあ〜…眠い。」

「もう寝るか?」

「うん…ツクヤは大丈夫なの?しばらく寝てたけど。」

「問題ない、アレは気を失ってただけだからな。」


そっか…そういうことなら、もう寝ちゃってもいいかも?


「というかヨウ、腹減ってないのか?」

「うーん、大丈夫。」

「強いな…」


ということで、寝るか!

いや…でもツクヤのことまだ心配だなぁ…

あっ、そうだ!


「ここで寝るよ〜っと…」

「はっ!?」

「ツクヤ、まだ頭痛いんじゃないかって思って。」

「…そういう事なら仕方ない。」


僕はツクヤの隣に失礼してゴロンと横になった。

というかこれよく見たら二人用じゃん、こんな広いベッドで寝てるなんてずるいぞツクヤ。


「おやすみ〜…」

「…」


ということで、おやすみなさい。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

「…ヨウたち、そのまま寝ちゃいましたね。」

「だな…全く大変だったんだぞ〜?」

「まあまあ、寝かせてあげようよ!」

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


〜次回に続く〜

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