深い森の月

へいげんに現れたセルリアンを一掃した僕たちの前に現れたのは、僕と同世代くらいの『男の子』だった。


不意に、その人が尋ねてきた。


「お前…ヒトなのか?」

「多分…そう。」


あんな力があった以上、『ヒト』とはっきりとは答えられなかった。


「君も…ヒト?」

「そうだが…厳密には違う、俺はオオカミのフレンズとヒトの混血だ。」


こ…混血…!?

ヒトとフレンズって子供作れるの…!?

まあ、とりあえず自己紹介はしておかなきゃ…


「僕は暁陽、ヨウって呼ばれてる。」

「俺は神楽月夜かぐらつくや…ツクヤって呼んでくれ。」


ツクヤって言うんだ…

というかこの人、すごい美形だな…


「セルリアンはお前が倒したのか…?」

「ああ、これでやっつけたんだ!」


僕が剣を取り出すと、ツクヤは驚いて尋ねた。


「ヨウもそれが出来るのか!?」


『も』…?


「ええっ、ツクヤも出来るの!?」

「俺の場合はカードじゃなくてこの絵なんだけど…」


そう言ってカタカケ鞄からスケッチブックを取り出し、ページをめくった所の絵を見つめる。


「ふっ…はあぁぁ!!」


そして手に力を込めると、銀色に輝く刀が現れた。


「おお!すっごい!!…でもさ、結局これって何なのかな?」

「これはサンドスターの力を使ってヒトのイメージを具現化してる…と思うんだ。俺はこれを『サンドスター・リアライズ』って呼んでいる。

『具現化』、『実現する』って意味の『リアライズ』だ。」

「ヒトのイメージって?」

「ああ!例えばそこのツチノコの見た目、アレもヒトが『こういう見た目だ』ってイメージしたツチノコの姿が元になっているだろう?だから、それと同じ理屈だと思うんだ。

セルリアンの持つ再現の能力にも似ているな。」


なるほど…全然わからん。


「だけど…ヨウも知ってるかもしれないが、無駄にやるとサンドスターを浪費するからな。」

「うん、そうだね…」


お互い、持っていた武器を元に戻した。


「ところで、これからどこに行くんだ?」

「図書館に行こうと思ってて…」

「図書館か、なら俺と一緒だな…俺はそこで居候してるんだ。」


図書館で居候…!?

どこで寝てるの?本の上とか…!?


「よし、俺もそのスタッフカーに乗って行こう。」

「ええっ、あのバイクはどうするの?」

「それなら心配ない。」ポチッ…


ツクヤがバイクに付いているスイッチを押すと、バイクが勝手に森林の方へ走って行った。


「よし、行こうか。」

「ちょっと待って今のなに!?」

「アレか、アレはスタッフ用バイクの『ジャパリホイール』だな…長いから俺は『Jホイール』って呼んでいるけどな。

それと、デザインにはチーターの見た目が使われている。」


どっかで聞いたような呼び方だなぁ…

ライディングして戦いそうな…


「…って、そうじゃなくて、勝手に走っていったんだけど!?」

「ああ、JホイールにはAI…いわゆる人工知能が組み込まれていて、自動運転が出来るんだよ。」


へぇ〜…ハッキングされたらヤバそう…


「さて、と…」


ツクヤはスタッフカーに乗り込むと、傷ついたスナネコを見て驚いた。


「おい、怪我してないか!?

えーっと、見た目からしてスナネコ…だな?」

「はい、そうです…」

「よし、任せろ…それくらいの傷すぐに治せる!」


そういうとツクヤはカタカケ鞄から、キラキラしたものが入った小瓶を取り出した。


「それは?」

「サンドスターの結晶だ、これを傷口に注げば…」


サンドスターをスナネコの脚にかけると、みるみるうちに怪我が消えていった。


「わあ、すごいですね!」

「お前…何者だ!?」


ツチノコとスナネコは、かなりびっくりした様子だった。

僕もびっくりです。


「言ってなかったな、俺はフレンズドクターなんだ。まだ駆け出しだけどな。」


フレンズドクター?


「なにそれ?」

「フレンズの病気やケガの専門の医者…だな、だがフレンズドクターになるには『人間の医学』と『動物の医学』の二つを勉強しなきゃいけないんだ。」


なるほど、そんな難しい仕事があったのか…


「それじゃア、出発するヨ。」


スタッフカーは森林に向かって走り始めた。


〜移動中〜


「ツクヤはさ、自分のことどこまで覚えてる?」

「ああ、大体の事は覚えてる。だけど…」


ツクヤは少し間をおいてからこう静かに話した。


「このパークに来た目的が思い出せないんだ、何か『やらなきゃいけない事』があったはずなのに…」


やらなきゃいけない事…か…


「そういえば、ツクヤはどこから来たの?」

「森林地方の奥の…古い病院。そこでコールドスリープさせられていた。」


コールドスリープ…!?

僕とは違うのかな?


「ヨウ、お前は?」

「僕は…砂漠地方の研究施設でサンドスター漬けにされていた。」

「サンドスター漬け…!?」


かなりビックリされた、そりゃそうじゃ。


「じゃあさ、お父さんのこととか覚えてる?」

「もちろん、フレンズ医療の権威『神楽直人かぐらなおと』だ。」

「へぇ…僕はお父さんの事、覚えてないんだよね…というか自分の事は殆ど…」

「記憶?じゃあこれが関係してたりしないか?」


そう言ってツクヤが写真を見せてきた。


「あっ!これ、記憶の欠片…!?」

「やっぱりな、これを解析した時に…大量の『輝き』を放っていたんだ。」

「輝き?」


『輝き』…

つまりはどういう事なんだろ?


「輝きって言うのはだな…『目標』とか『願い』みたいなキラキラしたものの事だな。『記憶』はとくに強い輝きなんじゃないかと思っている。」

「じゃあ…セルリアンとは関係してる?」

「もちろん、セルリアンは『フレンズからサンドスターを吸収して食べる事』と『輝きを奪う事』の二つを本能的にやろうとするんだ。」


じゃあ…僕が記憶喪失になったのは…


「つまりは…お前は『記憶をなくした』のではなく『記憶を奪われた』という事になるな。」

「僕の記憶を取った奴…早くとっちめてやりたいな。」

「まあ、功を焦るなよ?焦りすぎて死んだら元も子もない。」


そうだ、ツクヤのいう通りだね。

あまり突っ走り過ぎないようにするべきか。


「おっ、もうすぐ着くな。」


スタッフカーは森林の中でタイヤを止めた。


〜図書館の近くの森〜

「よし、ここから歩けばすぐ図書館だ。」


僕たちは森の中を歩いた。

森の中はとても静かでなんだか気持ちが良かったなぁ…


「おっと、この辺は太い枝があるから気をつけてくれよ?」

「えっ?枝がどうしたって…痛ッ!!」


ツクヤが言ってるそばから僕は頭をぶつけた。

これめっさ痛いんだよホント。


「いてて…」

「ヨウはいつも通りドジっ子ですねー。まあ、そういうとこ結構かわいいんですけどね?」

「ふふっ…良かったな、ヨウ。かわいいってさ!」


良かないよ!!頭めっさ痛いんですけどー!

でもまあ悪い気はしないんだけどね。


「気をつけろよヨウ、お前に何かあったらここまで付いてきた意味がないだろ…?」


一見すると責めてるようにも聞こえるかもしれないけど、これが彼女ツチノコなりの心配の仕方だってことはよーくわかる。

本当に優しいんだよ、ツチノコは。


「ヨウ、頼れる友達フレンズが二人もいて良かったな。

俺にも一人だけだがいるんだ、心強い『自称』助手だ。」


へぇ…そりゃ会ってみたいな、その友達に…


「僕たちも会えるかな?」

「ああ、図書館で博士たちの手伝いをしてるところだろう…」


ツクヤとその友達について話していると…


『バサバサバサバサッ!!』


「うわぁ!?」「おおー?」

「ア"ア"ァァァァ!?」

「なんだ、お前か。」


僕とツチノコはおっかなびっくりしたけど、スナネコとツクヤはめちゃ冷静に対応した。


「キッシッシ…ビックリした?」


いたずらっ子そうなフレンズが木の枝にぶら下がっていた。


「ナミちー、博士たちの手伝いをしてたんじゃなかったのか?」

「ツクヤがあんまり遅かったから様子を見に来たんだよー、そこに居る子たちは?」


ナミちーと呼ばれたフレンズは、僕たちを指差してそう言った。

…なんか声の感じがスナネコにちょっとだけ似てる気がするのは僕だけ?


「左からスナネコ ツチノコ ヨウだ。

聞いて驚け、ヨウは俺みたいにサンドスター・リアライズを使えるんだ。」

「へぇ、すごーい!それと…そっちの子はスナネコとツチノコだっけ?」


スナネコとツチノコを順に指差して尋ねた。


「そうだな。」

「じゃあ私、二人のニックネーム考えよーっと…

じゃあ…スナネコは『スナちゃん』でしょー?」

「はい、ありがとうございます。」


スナちゃんか、なかなかかわいい呼び方ですなぁ…


「そんじゃあ…ツチノコは『ツッチー』って呼ぶよ〜?」

「はあぁっ!?/// へっ…勝手にしろ…!!」


慣れないニックネームに照れてるのかな?ツッチー?



「なななっ…何ニヤニヤしてんだヨウッ!!シャアーー!!」

「良かったじゃんツチノコ!かわいいニックネームだよ?」

「やっ…やめろ!」


ツチノコと追いかけっこしていたら、すぐに森の出口へとついた。


「ほら、あそこが図書館だ。」


目の前に現れたのはかじられたりんごみたいな形をした立派な建物だった。


「これが…図書館…!!」

「いつ見ても面白い形ですねー」


さて、博士とはどんな人なのか…

ちょっと緊張してきたな。


「はっかせー、いるのー?」


ナミちーが大声で呼ぶと、奥から声が聞こえてきた。


「騒々しいのですよ、コウモリ。」

「もう少し静かに呼ぶのです。」


思ったより幼い声…?しかも二人…!?

そして、声の主が図書館から出てきた。


「帰っていたのですかツクヤ。」

「久しぶりですね、ツチノコにスナネコ。

おや、そこにいるのは…?」


小さな二人組の茶色い方が僕の方を見てそう聞いた。


「暁陽、ヨウで呼ばれてる!」

「ヨウ…ですか、よろしくなのです。

私はアフリカオオコノハズクのはかせです。」

「ワシミミズクのじょしゅです。」


博士…助手…!?

こんな小さな子が!?


「へぇー…こんなに小さかったんだ博士…」

「むっ、お前…失礼なのです!」

「礼儀がなってないですね。」


あっ、ちょっと怒らせちゃった…


「ご…ごめん!」

「まあ、今回は許してやるのです。はかせは寛大なのです。」


よかった、許された。


「ところで、お前は何のフレンズかわかるのですか?」

「うん、ヒトだね。」

「あなたとしょかんに何しに来たんですか…?」

「博士ってどんな人なのかなって…」


けっこう呆られてる…?

そんな理由でくる人はいないのかな。


「まあそれはそれとして、お前はヒトなのですね?」

「それなら…」


な…何をする気だ!?

た、食べる気か!?


「「お前にりょうりをしてもらうのです!」」

「ゔぇっ!?料理!?」


料理なんてやったことないんですけど!

というか図書館に料理するところなんてあるんディスカー!?


「この本の中から好きなのを作るのです。」

「てか料理ってどこでするの?」

「こっちだヨウ、ついて来い。」


ツクヤに連れられて、僕は料理ができるところまで来た。


「よし、何作ろうか…」

「カレーとかどうだろうか、初心者でも作りやすいと思うが…」


よし、それにしよう!


「その前にヨウ、ちょっとお前の血を取らせてくれないか?」

「唐突にとんでもないこと言うねツクヤ!?」


ちょっと今びっくりしてる。

そりゃいきなり『血取らせろ』って言われてんだもん。


「サンドスター・リアライズが使えるお前も、もしかしたらフレンズの血が流れているかもしれないからな。」

「なーるほど、そういうことなら…」


と言うことで、僕は血を少し取らせた。

痛かったけど余裕、血液検査には強いんだよ。(ドヤ顔)


「ありがとう、調べさせて貰う。それじゃあ料理頑張ってくれ!」

「ああ!頑張ってくるよ!」


って事で…

料理開始ーーーーッ!!!


「…とまぁ勢いよく始めたのはいいけど、お米ってどうやって洗うのかな?」


お米の洗い方なんて僕は一ミリも知らなかった。

洗う…洗うんだからコレ、使うのかな…


「よし炊こう…火、どうする?」


うーん、火…


「もしもしお守りさん、聞こえる?」

『何だ?』

「これって火のカード使えば、火も起こせるのかな?」

『出来ないことはないが、サンドスターを大量に浪費するからやめておけ。』


という事なんで…コツコツ火を起こす事にした。


〜〜ツクヤ視点〜〜

まさか俺以外にヒトがいるとは…しかも男子とは。

俺はかーなーり安心している。


「ツクヤー、それってヨウの血?」

「ああそうだ。飲むなよ?」

「飲まないよぉ?キシシッ…」


これは目離すと飲む。

俺にはわかる、これは飲む目だ。


「まあ、目を離さなければ良いな。」


そういえば、ヨウの手を握った時かなり冷たかったような。

いや、それは気にする事でもないか…


「おーいツクヤ、血ぃ調べるんでしょ?」

「んっ、俺としたことがすこしボーッとしてたな。」


よし、この血を試験管に入れて機械にかける…

そしてしばらくすれば、血に含まれている遺伝子の情報を解析できる。

これがジャパリパークの科学力だ。


「ホント…パパさんってすごいヒトだったんだね。」

「ああ!俺が最も尊敬する人だ。」


ナミちーとそう会話しながら解析を進めた。


『ピー…解析完了…』


おっと、早いな。

科学の力ってすごいだろ?


「どれどれ…おおっ、やっぱりか!」

「わたしにはわからないな、何て書いてあるの?」

「ははっ、お前にもその内読めるようになるさ。」


〜〜ヨウ視点〜〜


「えーっと、ルーを入れて蓋をする…っと」


いろいろあったけど、なんとか完成まで近づけた!

僕のカレーは美味しく作れたのかな?

…とウキウキしているとスナネコがやってきた。


「りょうり、出来てますか?ヨウ。」

「出来てるよっ!」


スナネコは興味津々で鍋を覗き込むと、ちょっと動揺して言った。


「これ…食べ物ですかぁ?」

「そうだよ?」

「でもまあ、ボクが食べるわけじゃないからいいか。」


やっぱ冷めるの早いなぁ…

というかそんなに食べれそうに見えない…?

と、スナネコと話しているうちにカレーがちょうどいいくらいに煮えてきた。


「よーっし!!これを博士たちに持っていけばいいんだね?」

「ボクも手伝いますね…」


僕とスナネコでカレーを盛り付けて、博士のところに持っていった。


〜博士のところへ〜

「博士おまたせ!」

「待っていたのですよ、ヨウ。」

「さあ、我々を満足させるのです。」


ふふっ、カレーの味に驚くなよー?


「では…いただくのです。」

「いただくのです。」


「「ぱくっ」」


さあ…お味は?



〜次回に続く〜

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