春の大三角形が消えた

【常にある3月の春】

男の子一人、女の子二人様

三人が幼なじみになってから11年目の春です

あれからいかがお過ごしでしょうか

春日神社を背にレールの走行音が漂う通学路では

9年目までは一緒に夕焼けを目指しているのを感じました

10年目は二人が先に行き一人が帰っていくようになりました

なぜでしょうか

春にはわかりません

春にはわかりません

春は常にあるのみです


【卒業アルバムになった人へ】

好き以上の好き

好き以上の好きは禁物だった

小学校の友情は桜の木の下の二人を見て消えた

口を紡いだまま帰る家への道は

こんなにも夕暮れが綺麗なことを恨む

三人って余計かな

つみきは二つで支え一つをてっぺんにするのが好きだった

でも、一つで支えることに気づきたくなかった

もうすぐ、高校受験だね 私、卒業アルバムの写真に載るんだ

好き以下の好きの時に私を思い出してね

恋よりも友情が勝った時に


【学びの節目に消えたあなたへ】

背景、季節はいちごみるくの花びらが

衣替えの嵐で汚れる頃

逆時計の言い訳を手紙に書いては届けなかった

ティーカップの天鵞絨びろうど沿えた加須底羅かすていら

双目糖ざらめとうとスポンジどっちから食べればいいんだっけ?

よくわかんなくなった

大学進学した2回目の春、故郷に帰ると

学びの節目を描かれたアルバムを開いた

桜に溶け込んだみるくの味はどこへ消えたんだ?

鬼は常に一人だった

迷子は放課後に身元不明だった

3月の春が僕を焦り始める

あぁ、双目糖ざらめとうの告白に溺れ

二人になった時の悲しみが後ろを振り返る

あなたのことが好きでした

なんて、今更言えないよな

後悔の天鵞絨びろうどを飲み干した

苦味で十分だった後味に甘いは許されなかった

桜の木の下で受けた告白なんて曖昧にすればよかったんだよ

加須底羅かすていら真横に食べた


【絨毯に染みた水へ】

海を背にした駅のT字路

信号を渡るには十分気を付けて

電柱に置かれた花束に花びらが沿う季節に

亡くなった緑の煙突を

青春を浴びる我が子には知ってほしい

母さんが告白を受け去った人が

正面衝突で亡くなった

血だらけになって亡くなった

知り合いじゃなくなったんだよ

ねぇ、告白って罪なんですか?

恋愛以下のままがよかったのかなぁ

ぐつぐつ煮詰まってしまった春の大三角形

流れ星になった いや流れ星だったのかな

春って、恋って、別れって、桜って

消えてしまえばよかったんだ

友情のままで夕暮れのままで

時間が進めばよかったんでしょう


【常にある3月の春】

女の子一人様

三人が幼なじみになってから30年目の春です

いかがでしたでしょうか

灰色の住宅街にある肌色アパート

あなただけ夫、息子と三人で暮らしていらっしゃいます

なんとも奇遇なことですね

でも、なぜ後悔しているのでしょうか?

春にはわかりません

春にはわかりません

春は常にあるのみです

もう一度、言います

春は常にあるのみです

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