2.レビューを増やせる方法と読者を増やせる方法

「驚かないで聞いてほしいんだけど……『レンタル恋人かのじょ』さ」

「…………は?」


 ぽかんっ、と彼女の口が開いた。


「レンタル恋人かのじょって……『レンタル恋人かのじょ』?」


 彼女はロングの黒髪を耳までかきあげる。集中力が上がるジンクスらしく、考え事のときはいつもその仕草をしている。


「利用者の"理想の恋人"を演じて楽しい時間を提供する代行サービス……の、レンタル恋人かのじょで合ってるよ。キミに説明するのは釈迦に説法だろうけど」

「うん、レンタル恋人かのじょについては身をもって分かってるつもりだけど……」

「僕は必死に考えたんだ。読者を増やすためにどうすればいいんだろうって、どうすれば読者さんの人生じかんんだろうって。そう思った瞬間、アイディアが降ってきてね」

「あー……、それってつまり、かのじょとの契約内デートちゅうに作品を読ませるってこと?」


 ご明察。話が早くて助かる。

 無茶苦茶を言っている自覚はあった。本人を目の前にしているのならなおさらだ。しかし。


「ふふっ、面白い方法だね」


 画面の向こうにいる彼女は嫌な顔ひとつしない。それどころか、太陽のように笑ってみせた。さすがと『恋人かのじょ』だと言わざるをえない。それが『』で、『』であったとしてもだ。


「でもさ、その方法って本当に大丈夫なの? 恋人代行サービスを使ってレビューを書かせるって、白か黒かで言えば、かなり黒じゃない? たぶん私のお腹の中くらい黒いと思うよ?」

「もちろん。彼女キミの腹黒さは底が見えないけど、きっとこの方法と同等くらいには倫理的にアウトだよ」

「そうそう、小説投稿サイトの運営さん的にも限りなく黒に近いだろうし、もしかのじょが口外したらそれこそ炎上ものだよね。寄ってたかって『汚物は消毒だー!』って感じになるよ」

「そうだけど、そうにはならないんだ。ここがこのアイディアの一番の肝だからね」

「? どういうこと?」


 首をかしげる彼女に僕は全容を説明する。


彼女キミにはただ『読んでみて。レビューは作品が気に入ったときだけいいから』とだけ頼むんだよ。強要するのは良くないからね」

「うーん、たしかにそのくらいなら身内とかにだれでもやってることだろうしね」

「そう。だけど、友人や家族なら身内贔屓を心配してレビューを書かない人もいる……というか、それがほとんどだろう。他人ならレビューを書くほどの興味を持ち合わせていない人が多勢だろう。けど――」

「――『けど、『恋人』ならなにかしら前向きな言葉レビューを投げかけてくれる。それを生業ビジネスとしているなら、なおさら』……ってことかな?」


 彼女に言葉を遮られる。不敵に笑う彼女はまるですべてを見通すような鋭い眼をしていた。


「……話が早くて助かるよ、本当に」

「だって、アナタはこういう知的で腹の内がわからない女性がお好みでしょ?」


 そうやってはにかむ彼女に、僕は肩をすくめる。


「仕事柄、他人をフォローするのは慣れてるだろうし、仕事でやってる以上は守秘義務があるわけだ。アナタはただ『読んで』と頼んだだけでレビューは強要してない、という言い訳もある……『レンタル彼女』という立場を最大限に利用するってことだね!」

「身も蓋もない言い方だけど、そういうことになるかな」

「で、その内容をベラベラ〜っと話しちゃったのは『これを断ると、別の『彼女ダレカ』に頼むぞ。恋人ATMじゃなくなっちゃうぞー』っていう脅しなんだよね?」

「……さすが、って言いたいところだけど、正直なところそこまでは考えてなかったよ」


 だって聡明な恋人かのじょなら快く承諾してくれる自信があったからね、と冗談交じりに言った。


「あっ、契約時間中に読ませるってことは、その間するようなまどろっこしい駆け引きもないから、『恋人かのじょ』のほうも楽……なるほどなるほど。100人とは行かないまでも、相手かのじょさえ選べれば、たしかにこれは『絶対レビューを増やせる方法』に近しいものと言えそうだね」

「納得してくれたようで良かったよ。で、読んでほしい作品なんだけど――」

「でも、惜しいなぁ」

「……惜しい?」

「アナタの方法はまだ不完全だって言ったんだよ」


 僕の言葉を遮って、彼女が笑う。その姿はまるで画面の向こうに三日月が浮いているようだった。

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