わたしと仕事、どっちが大事なの!?

星成和貴

第1話

「わたしと仕事、どっちが大事なの!?」


 突然の彼女のその言葉に俺は驚いて、一瞬言葉をつまらせた。けれど、そんなの、答えは決まっている。それは……




 今朝、彼女から風邪ひいたかも、と連絡があった。彼女は独り暮らしで、もしかしたら今、一人で辛い思いをしているかもしれない。

 だから、スポーツドリンクや、薬、消化のいいものなどを買い込んで彼女の部屋へ向かった。少し、買いすぎたかな、とも思ったけれど、スポーツドリンク以外は日持ちするし、保存食にすれば問題ないだろう。

 彼女の部屋に着くと、彼女は寝間着姿のまま玄関まで出てきてくれた。


「ごめんね、起こしちゃった?大丈夫?」


「……うん」


 俺は彼女をそっとベッドに寝かすと、


「ご飯食べた?薬は?」


「……うん、ちゃんと食べたし、飲んだよ」


「じゃぁ、これ、いらなかったかな?とりあえず、しまっておくね」


「……うん、ありがと」


 一通り片付けると、彼女のもとへ向かった。

 薬のお陰か、顔色は悪くないように見える。そっと額に触れてみても熱はそこまでないようだ。

 俺はほっとして、そのまま彼女の頭を撫でた。


「今日はずっと一緒にいるから、何かしてほしいことがあったら何でも言ってね」


「……ねぇ、わたしは大丈夫だから、帰ってもいいよ?」


「ダメ。今は平気かもしれないけど、ひどくなるかもしれないし。あ!病院!病院に行かないと」


「……本当に大丈夫だから。寝てれば治るから」


 そう言って、俺の手を彼女は握った。俺はその手を握り返すけれども、彼女の手は力弱く、とても大丈夫そうには感じなかった。だから、不安で、心配になってしまったけれど、彼女が大丈夫と言っているのに、無理矢理に病院に連れていくのはどうしてもできなかった。そして、


「わたしと仕事、どっちが大事なの!?」


 突然の彼女のその言葉に俺は驚いて、一瞬言葉をつまらせた。けれど、そんなの、答えは決まっている。それは……


「そんなの、歩美に決まってるだろ」


「……だよね。そうじゃなきゃ、来ないよね」


「そうだよ。俺は歩美が心配で、だから来たんだよ」


「今日が平日で、仕事があるのにね。確か、有給も全部使いきったって言ってたよね?付き合って何日の記念日、だとか、初めて二人で何かした記念日、だとかで平日にも仕事、休んでたからね」


「そうだね。俺はそれくらい、歩美の事を愛してるし、大事にしてるから。今も、これからも」


「わたしが言いたいのはそんなことじゃない。ねぇ、こんなことしてたら会社、クビになっちゃうよ?」


「それでもいいよ。俺にとっては歩美が全てだから」


「…………じゃぁ、お金はどうするの?今日買ってきたのだって、そんなにたくさんいらないよね?」


「いや、でも、心配だったから。一人で苦しんでたら、って思うとどうしようもなくて……」


「……正直に言うね。重いの。大事にしてくれるのは嬉しいし、愛されてるんだなぁ、って思ってた。でも、もう、無理。そんなにされてもわたし、何も返せないし、わたしたち、別れよ?」


「……え?……なん、で……?」


「だから、重いの。亮のことは今でも好き。でも、もう限界なの。今日だって、風邪ひいたなんて嘘。来なくてもいい、って言ったのに、こうして来るし、それに、あの量の荷物、何?何日分なの?本当に風邪でもそんなにいらないよ。それに、大丈夫だって言ったのに、仕事があるのに、帰ろうとしないよね?そういうの、もう、無理なの……」




 その後、俺はどうして帰ったかは覚えていない。

 俺はただ、彼女が好きで、大事にしてきただけなのに。それなのに、どうしてこうなってしまったんだろう……?

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