最終話 ポーカーフェイスだけど、私にはなんとなく気持ちが分かっちゃう
「おはよう〜! 深見く〜ん! 深見くん?」
私は手を振ります。
深見くんが学校へ行く途中でウロウロしているのを見かけました。
私は川沿いの土手の道を歩いています。バッタの大群がどこからともなくやって来ました。
「あっ!」
深見くんがバッタの群れに襲われ、土手から転がって行きました。
「うわぁぁぁぁ」
深見くんが持っていた鞄や小さな紙袋が散乱していきます。
鞄からはノートや鉛筆や教科書が飛び出してしまってます。
ちょっと、ちょっと!
「大丈夫っ!?」
私は慌てて駆け寄りました。
深見くんは土手の下で草まみれ、泥まみれです。
「………」
土手から転げ落ちても、深見くんはポーカーフェイスで表情が変わりません。
しかしかなり焦っているのでは? と私は感じていました。
「大丈夫だ」
クールに何事もなかったかのように、土手を上がってきます。
私も手伝い落ちた荷物を二人で拾って行きます。
あー、(彼氏にするのは)深見くんはないわあ。
心のなかで私は思っていました。
「……ありがとう。あの、あとこれ。犬に襲われた時のお礼」
「へっ?」
私は深見くんから可愛い小さなクマ柄の紙袋を受け取りました。
「あっ、ありがとう!」
紙袋の中身はクッキーでした。
えっ? 手作りかな?
「初めて、……作ったんだ。影浦さんのために」
えっ? えっ?
本屋さんでお菓子作りの本を読んでたのは私のため?
「あの本、買ったの?」
「んっ?」
「あっ、ううん。なんでもない、なんでもないよ。ありがとう!」
私は胸の中がほんわかしてました。
深見くんは相変わらずの無表情ですが、照れているんじゃないかなと思いました。
「さあ、一緒に学校へ行こう。深見くん」
ポーカーフェイスだけど、私にはなんとなく気持ちが分かっちゃう気がする。
「あの……」
「えっ? なに?」
深見くんが紙袋を指さします。
中身をよく見ろと言ってんのかしら?
私が紙袋を覗くとメッセージカードが入っていました。
「【好きです。影浦さん 付き合って下さい】〜っ!? あわわわわわっ」
私は慌てふためいて深見くんを見ました。
深見くんが真っ赤です!
私は深見くんの顔が耳まで赤くなっているのを見たのは初めてでしたから、驚きました。
あー、どうしよう。
深見くんを観察しているのは面白い。
だけど。
どうしよう?
あー、深見くんは(彼氏として)ありかも?
なしかも?
分かんないよっ!
「ごめんっ! よく分かんないや。とっ……、とりあえずさ、お友達からってことでっ! あっ……。いや、もう私たちは友達だったか!」
私はしどろもどろだった。
「ぷっ……。わはっはっはっ」
深見くんが笑ってる。
いつもはクールなのに、ヘタレでポーカーフェイスの深見くんが大笑いしている。
「影浦さんは面白いね。とりあえずお友達で良いよ」
「なによ? 面白いって? 深見くんの方が面白いわよ。失礼ね。あと、『友達で良いよ』? その言い方の良いよってなんか上から目線じゃない?」
私と深見くんは遅刻しそうな時間になったので走りながら、おしゃべりしました。
深見くんとこんなにたくさん話すのは初めてでした。
……楽しい。
相手はケチでヘタレで表情の読み取りにくい深見くんだけど。
まだまだ観察を続けます。
だって深見くんを見てるのは面白いから。
正直なところ付き合うかどうかは、まだよくは分かんないけどね。
おしまい♪
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