第5話 本屋さんにて

 どうやら私はイケないものを見てしまったようです。



 本屋さんで立ち読みをしながら、優しく笑みを浮かべる深見くんを目撃してしまいました。



 微笑んだのは一瞬で、慌ててすぐに真顔になりました。



 深見くんはあまり顔に表情を出さないクール男子。



 普段から大声を出して笑ったのも、ニヤッと微笑んだのもほとんど見たことがありません。



 これはグラビアアイドルの写真集でも拝んでいるのでしょうか?



 あー、深見くんは(彼氏としては)ないわ〜。



 ムフッとかヘヘッとか思わず心からもれて笑っちゃったんだね。



 見なかったことにしてあげるよ、深見くん。



 私は深見くんに見つからないように本屋さんから帰ろうとしました。






「んんっ?」


 ごめ〜ん!!

 深見く〜ん。


 私は深見くんを誤解してました。


 深見くんが読んでいたのはお菓子の作り方と言うレシピ本でした。


 なんで笑ったの?


 ケーキが美味しそうだったから?


 もしかしたら、手作りのお菓子が欲しいのかも。


 私は深見くんには声をかけられませんでした。


 だってそんなところを……、本屋さんで一人でニヤニヤしているところなんてのを、クラスの女子に見られていたらショックでしょうから。



 どんだけ気を使わせるんだよ?


 深見くん。







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