第46話 王城への招待

いきなりすぎて、思わず口を止め言葉を詰まらせた。家で新聞を読んでいても良く出てきたその顔は、まさに王女と言える顔だ。


「あの?」

「………んん?」

「大丈夫ですか?」

「あ、はい。も、問題ないです…」


その顔を見て、オレは呆けてしまっていたらしく、彼女の声によってやっと我に返った。


「取りあえず無事で何よりで御座います。それではオレはこれで……」

「ちょっと待って下さい!」


オレは背を向けそのまま帰ろうと足を一歩踏み始めたときに、腕の袖を思い切りに引っ張られる。


「な、なんですか?」

「助けて貰ったんです、何か礼の一つでもさせて下さい!私の家はあのお城ですから!さあ!さあ!」

「随分と強引なことで!?王女さんや!?」

「私のことはユリスとお呼び下さい!」


なんで、知り合ってすぐの人を、しかも王女の事をそんな気軽に呼ばないと行けないんだよ!


「そこのお二方も!よろしければ!」

「あ、じゃ、じゃあ…」

「お言葉に甘えて……」


お言葉に甘えられないで貰いますか!?行ったら多分オレ即刻処刑だから!

絶対帰る!と言わんばかりにオレは足を一歩、一歩と踏み出すが、王女さんも必死に引っ張ってくる。一体どこからそんな馬鹿力を発揮しているのか。


「オレは帰ります!せめてそこの二人を連れて行って下さい!」

「一番恩を返したい貴方に帰って貰ったら意味がないです!」


そんなもん知るか!

オレは更に踏み出し、逃げようとするのだがそんな必死な抵抗も、この後意味もなかった事が証明される。


「ユリアルクス様!!」


城の方から馬の地面の蹴る音と叫び声が聞こえてきて、その方向を向くと馬に乗った騎士らしき人らがこちらに来ていた。ヤバイヤバイヤバイ!

速く逃げないと!


「ご無事ですか!?」

「メルアド!何故ここに?」

「姫様が襲われたとの報告を受け、即刻向かってきたのです!どこかにお怪我は?」

「どこにもないですよ、こちらの殿方に助けて貰いましたから」


そう言いオレの方へと手を向ける。すると、カッ!と目を見開くと男は馬から華麗に飛び降りた。銀髪の髪をショートに切ったその男は、髪を靡かせながらオレへと向かってくる。身長は一八〇があるかどうかといったところ。


体全体には頑丈そうな鎧を纏い、腰には長剣の納められる剣がある。


「姫様を助けてくれたのだな!感謝するぞ!」

「あ、アハハー」


両手でオレの右手を握り、ブンブンとそれを振る男。苦笑を浮かべざるを得なかった。


「申し遅れた、私は特別騎士団ファウロスの副団長を務めているメルアド・リンゲージだ」

「と、特別騎士団?」


曰く、特別騎士団ファウロスとはこのマターファルネの王族を守るためのみに造られた騎士団なのだとか。実力は普通の騎士団よりも上であるらしい。


「………じゃあ、そんなわけで行くぞ!」

「どんなわけで!?」


結局話を戻され、メルアドに腕を掴まれてしまう。


「はい!行きますよ!」

「姫さん!?」


改めて空いてる方の手をガッシリと掴んでくる。

もう、逃げようがないのかーーー!?

そして、努力も虚しくオレは連れて行かれてしまった。






     ※     ※     ※





ついた城、ギルデガルデ城は分かっていたけど凄くデカかった。

オレ達三人で「で、でかい……」としか言えず、語彙力が落ちてしまうほどに、本当に城はデカかった。


例えるならば、魔王ルナーアの城の1.5倍。

あれでさえデカかったからな。もう、やばい。

本当に…………やばい(語彙力)。


呆け状態をどうにか解除しつつ、開かれた大きな門を歩いていった。

すると、一番奥には王の座る玉座があり、周りには騎士のような者達が揃って並んでいた。


「ただいま戻りました、お父様」

「うむ。して、そこの者達は」

「私の事を助けて下さった皆さんです。お礼がしたく、招待させて貰いました」


玉座に座っている、白ひげを下に向かって長く生やす国王のネクロム・ダクスタはその事を聞くと、目を開き喜ぶように言う。

 

「それは良きことをしてくれた。感謝の意を伝えよう」


するとエヴァが、そしてミリーゼが膝をついたのでオレもつくことにした。すると満足そうに、うむと一言言った。


「面を上げよ」


言われたとおり、顔を挙げると一拍置いて彼は言う。 


「それで、何か欲しいものがあるのなら何でも言って貰って良いぞ」

「いや、自分は本当にただ助けただけですから。何も見返りは……」

「ふむ、そうなのか?ならば金でもやろうかの?」

「それもいいですよ…」


本当に金はいらん。

というか、この人さっきから楽しんでないか?先程とは見違えるほどの笑顔なんだが。

と、不審に思っていると横から声がする。


「お父様、鍛錬の方が終わりました」

「うむ」


そこから現れたのは鎧をする、それもユリアルクス王女と瓜二つの少女。

違うところと言えば、ショートヘアーにカットされた髪と、誠に失礼ながら胸が貧相であること。そしてもう一つ、赤色と青色のオッドアイ。そんな彼女はオレ達の存在に気付いたのか、手をこちらに向けながら父に聞く。


「お父様、こちらの者達は?」

「この者達は、ユリスを助けてくれた者達だ」

「なんと!」


すると、向こうから頭を下げて言ってくる。


「ありがとう。双子の姉である私からも礼を言わせてくれ!」

「ええ!?ちょっと、顔を上げて上げて!」


オレがつい立ち上がり必死に説得して、何とか頭を上げて貰う。


「私はユリスと双子の姉、アルトリア・ダクスタ。アリアで結構だ」


なんでダクスタの皆さんは出会って早々に愛称で呼ばそうとするの!?


「全く。そこまで謙虚にならなくてもいいのだぞ?」

「全くってこっちが言いたいですよ……」


オレがそう言ってため息をつく。

さて、なんか場がかなり渋滞して事が本当に大きくなりそうだな。色々と大変になりそうだし、そろそろお暇するのが妥当だろう。


正直、オレがアークヴァンロードとバレたら処刑場と化す可能性がある以上、この場所にいつまでもいるつもりはない。


「あの、自分等そろそろお帰りさせて頂いても?」

「ダメだ!誠心誠意お礼をしなければ気が済まない!」


オレはそこまで求めてねぇんだよ!


「全く、どうしてそこまで…」


すると、彼女の口がピタリと止まった。

そして、アルトリア王女はただオレの顔をじっと色違いの双眸で見つめている。しかし、その目の内の赤色に染まる右色の眼は、どこか胸打つかのように、ドクンドクンと動いていた。


すると、急に彼女の目の色が変わった。それは本当に変化したわけではない。言うのならば、目が引き締まり警戒の目となった。


「お父様!この男を今すぐ城から出すか処刑して下さい!」

「なに?どうしたのだ、急に?」


ネクロム王も驚いた様子を見せ、それは先程までずっと膝を着いていたエヴァとミリーゼが思わず顔を上げてしまうほどに、驚きの言葉であった。

イヤな予感しかしねえ……


「この男、間違いなくクズ王子のアークヴァンロード・ジュリネオンで間違いないです」


やっぱりかぁ~~!

ここに来てのピンチかよ。


「しかし、写真とは髪も全く違うぞ?」

「私の魔眼でそう見えたのですから間違いないありません」


「ふむ」と頷いてみせると、ネクロム王は何か指示を送る。すると、周りの騎士達がオレの周りを包囲して、同時に他の騎士が肩を下の無理矢理押し、槍を首元に当て、他の者達も剣を手に持ちオレを完全に逃げられない用にしていた。


「アーク!」

「アークさん!」


立ち上がり、助けようとする二人。だが、しかし。


「二人も動くな。行動を起こさねば我々も何もすることはない」


エヴァは歯を食いしばり、悔しそうな顔をする。ミリーゼも何も言うことが出来ず、ただ手をギュッと握りしめている。しかし、それが一番正しいと思う。


下手に動けば、何を言われるかわかったものではないし、それ以前に、オレは邪魔されたくない。

このアークヴァンロードという男が、王族に何をしたのか、しっかりと話がしたい。


「まさか素性を隠してやってくるとは」

「素性も何も、あの人達が無理矢理連れてきただけですけどね」

「……何故、ユリスを助けた」

「何故?そんな馬鹿げた質問普通はしますか。人を助けて何か悪いとでも?」

「黙れ!どうせ、何か我々に求め、そのきっかけを作るためだろう!」

「アリア、今は口をつぐめ」


さっきからオレは散々何もいらないって言ってたんだけどね。どこまで信用されていないのか。


「お主は………我々に、決してしてはならぬ事をしたことを、忘れてはいないだろうな」


オレはただ黙った。一体何をオレがしでかしたのか。正直分かるはずもない。何故ならば、オレはアークヴァンロードではない別の誰かであり、本人ではない。

クズ王子と呼ばれた本物ではないのだ。

すると、ネクロム王はため息を一つつく。


「お主は、街で悪行を行っていた、流石にそれは自覚しているであろう?」

「それは勿論」

我々の逆鱗に触れる事となったのだ」


オレはそれを聞き思わず、驚かざるを得なかった。ネクロム王曰く、マターファルネは元々は治安が良く、皆が平和に過ごしていたらしい。

しかし、オレ────及びアークヴァンロードが悪行に手を染めて、そこからが全ての元凶であった。


元々、怯んで動くことのなかった頭の悪い悪党が、九歳児のアークが色々と起こしたことにより、そいつらには王に対しての恐怖感が薄れ、余裕が増したのだとか。


そこから、街では強盗やら殺人やらも多くなり、他の国に比べ治安が悪くなったことにより、他国に軽視され、経済が難しい状況にまで至ったのだとか。


最も酷かったのは、王国会議の際に他の国に嘲笑われ、プライドを傷つけられたと言うことらしい。つまり、オレは直接的に国に喧嘩を売ったのではなく、国の治安を悪くしてしまい、間接的に喧嘩を売ったのだということだ。


「我々もお主を捕まえようと、色々としたのだが、まあ今までは捕まらず、結局それもやめることとしていた。だが、こうやって現れてくれたのはこちらとしても都合が良い」


ネクロム王は続けて言う。


「お主を今ここで処刑させて貰おう」

「はぁ!?」


ネクロム王の発言に思わずそんな声を漏らしたのはエヴァであった。納得いかないと言わんばかりのその怒りに塗れた顔を玉座に座る彼に向けながら言う。


「確かにアークはクズだった。でも、今は違うじゃない!何もしていないわ!何処刑だなんて……過去をそうやってほじくり返して殺すって言うの!?」

「貴様、少し黙っていろ。これはもはや決定事項。王族なる我々は侮辱されたのだ。処刑となっても仕方があるまい」


アルトリア王女のその反応に青筋を額に立てると、エヴァは魔法を放とうと手を振りかぶった。しかし、その頃にはもう既に


先程いた場所には未だに蹴った際に起こった煙がまだ残っている。そこにいたアルトリア王女はエヴァに近距離にまで近付き、首元に剣先を向けていた。


しかし、これは驚きだ。あのエヴァがこんなにも簡単に間合いを詰められる事となるとは。しかも、あれは魔法を使っていない。


流石は王族。相当な実力者だ。


「やめろ、アリア。彼女は関係ない」


そう言われると、静かに剣を下ろした。


「まあ、兎に角だ。アークヴァンロードよ。お前はこれより処刑される」


改めて、オレに思い知らせるかのように更に言う。それに対して、オレはただニッコリと笑ってやった。  


「………悪いけど、まだ死ねないな」


その直後に、オレは指をパチンと鳴らす。空気が高速で振動し、多方向からその振動が他の騎士達に襲いかかる。それにより、酔いを起こした周りの騎士達は次々と倒れていく。


「なっ!?」


アルトリア王女は思わずそんな声を出す。

オレは立ち上がり、つけていたズラを取り外す。そしてメガネを外した。  


「オレは、死ぬのだけはゴメンだ。だから、欺かせて貰おう」


その場でオレは外したメガネを握りつぶした。するとらネクロム王は、不敵な笑みをうっすらと浮かべていた。


「ふむ、ならば、特別にチャンスを与えよう」

「それはありがたい。何をすれば?」  


ネクロム王は迷いなく言った。


「特別騎士団ファウロスの騎士団長、及び我がダクスタ家の王女、アルトリア・ダクスタと決闘し勝利せよ」

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