第47話 アーク対アルトリア 前編

「はい?」


王から言われたその言葉に、オレは思わず声を漏らした。


「えーと、それはなぜ故にですか?」


正直の所、罪人の処刑をするかしないかを決めるために戦うだなんて可笑しいと思う。思ったことをそのまま王に向かって訊くと、彼は普通に言った。


「だって面白そうじゃん」


面白そうってなんだよ!

というか、その口調も何なんだよ!

思わず叫びたくなってしまったが、しっかりと抑え心の中で叫び続ける。すると、アルトリア王女は挑発するような口調で言う。


「なんだ?まさか私に負けるのが怖いのか?」

「そういうことじゃないですけど……というか、さっきから思ってましたけど、アルトリア王女って団長なんですか!?」

「うむ、そうだ。アリアは戦いの、そしてユリスは魔法の天才なのだ」


やはり、王族とは神にも愛されているのか、天賦の才もあるらしい。しかし、それならなんでユリアルクス王女はあの時魔法を使わなかったんだ?

少々疑問が思い浮かんだが、今は今のことを考えようと、思考を切り替える。


「まあ、オレは構わないですけど」

「ダメですよ!」


オレが承諾しようとしたとき、ユリアルクス王女が止めに掛かった。


「アリアお姉様は戦闘に置いて未だ負けなしですよ!?勝てるわけがありません」

「まあ、やってみないと分からないから何とも言えないですけど…」


その言葉には別に喧嘩を売るための挑発ではなかったのだが、アルトリア王女にはそう伝わってしまったらしい。


「なる程、貴様は私と勝てると言うのだな。なる程」


いや、なんでそんな殺気を増して放つのでしょうか?オレは思ったことを言ったまでなんだが。


「貴様はこの私が直々に処刑してやろう。移動するぞ」


そうしてオレはこの王女と決闘をすることとなった。






     ※     ※     ※





やってきたのは、騎士達が必死に練習を行っている場所、言わば鍛錬場のようなところで中は観客席とかはないものの、闘技場のようになっていた。


「へえ、皆頑張ってるな」

「ユリスを守る為に、国を守る為にと必死になっているからな。お前のような外道にも対抗出来るようにな」


酷い言いよう。

因みに、なぜタメ語なのかというと本人があまり敬語を好んでいないと言うことを聞いたからだ。


「というか、これは普通の騎士団の奴らもいるのか?」

「ああ、特別騎士団ファウロスと普通の騎士団はこの場所でいつも鍛錬をしている」


話をしながら歩いていると、見覚えのあるおっさんがいた。

あれは………あっ!思い出した!

あのおっさんは、入学試験の剣術の時に戦ったバエリオ騎士団団長だ。すると、本人もこちらを見て、オレに気付いたのか振っている剣を止め、こちらへと寄ってきた。


「見覚えがある顔だと思ったら、アークヴァンロード少年じゃないか。久しぶりだな」

「バエリオ殿、まさかこの愚者と知り合いですか?」


アルトリア王女がそう問いかける。

というか愚者ってなんだよ。


「随分と酷い言いようだな……実は入学試験で私は少年と相手をしてな」

「ほう、叩き潰した訳ですね」

「いや、逆だ」

「えっ?」

「私が叩き潰された、完敗であった。攻撃は全て避けられ、やられてしまった」


驚きを隠せないアルトリア王女は驚愕の表情を顔に浮かべていた。信じられないという心情が読み取れた。


「それで、一体なんだってここに来たんだ?」

「…あっ、えー訳あってこの男と決闘をすることになりまして。故にここへ」


バエリオが負けたという事実が信じられなかったのか、彼女はいくらか反応が遅れつつも訳を説明した。

ふむ、と何か考えるような仕草を見せるとすぐに王女へと声をかけた。


「一言だけ言っておくが、少年をあまり侮ってはならないぞ」

「…分かりました」


小さく返事をして、オレ達とバエリオは別れる。そして鍛練場の真ん中の闘技台のような場所の上に乗る。


「先程、バエリオ殿はああ言っていたが、元より私は手を抜くつもりはない。安心しろ」


オレと反対方向の対称の位置につき、対立するかのようにこちらを向くと、そう言った。


「お、なんだなんだ?」

「あれ、アークヴァンロード……クズ王子だよな」

「もしかして、アルトリア様が直々に制裁を下すのか?」

「見てみようぜ!」


すると、その周りに騎士の人達が集まり始める。


「貴様はこの剣を使うといい」


手に鞘に収められた剣をこちらへと投げつける。それをオレが受け取ると、剣を抜いて軽く見てみる。

こりゃまた良い剣だ。きっと騎士団の奴らが使ってるモノなのだろう。


アルトリア王女は腰に提げている剣を抜いて、オレに向かって剣で指した。


「ここで、お前も終わりだ」


言葉と同時に彼女の姿は消え失せる。合図もなしに始まった決闘。どこにいるのかと周りを一度見渡してみる。すると、その際に彼女は攻撃を仕掛けてきた。


剣が横に向かって振られ、それを仰け反るようにして避け、オレの上を剣が通過する。かなりのスピードだな。本人は避けられると考えていなかったのか、少し驚く様子を見せるがすぐに次の攻撃を仕掛ける。


振った剣の勢いを活かし、一回転してもう一度オレの方を向くと今度は剣を持ち替え剣先を下に向け、思い切りに突き刺す。

危ねっ!


仰け反る状態から、そのまま手をついてバク転をして避ける。何回か回転してから足裏全体を地面につけながら、勢い良く後ろに引きずり下がる。


「お前ガチで殺しに来てんじゃねえか!あれ避けられてなかったら死んでるぞ!」

「私が直々に処刑すると言ったのだからするに決まっているだろう!というかなぜ避けられるのだ!」


剣を持ち直しつつ彼女はそう言う。


「避けられるのは避けられるんだよ!」


オレは剣を強く握り締めて足を踏み込む。そして力を入れて蹴り出した。彼女の間合いに詰め寄ると、そこから剣を上から振るう。それをアルトリア王女は受け止めてみせる。


しかし、それだけではなかった。彼女はオレの剣を弾きかえして見せた。エヴァでもここまで出来なかったぞ!?


オレがバランスを崩すとそのスキをついて腹に渾身の一発の拳を入れた。腹に強烈な衝撃が奔りそのまま殴り飛ばされる。


飛ばされつつも空中で態勢を立て直しつつ着地する。先程の拳もかなりの威力だった。効いてはいないが威力はえげつない。


考えてる暇もなくアルトリア王女は攻撃を仕掛ける。高速にしてオレに近付き更に剣を振るう。それをオレは剣で受け止めると、力を振り絞り弾き飛ばした。


「なっ!?」


勢い良く彼女はそのまま向こうへと止まらぬまま飛んでゆき、台のギリギリの場所で下に落ちて転がる。台からは落ちはしなかった。


「……おのれぇ!」


一瞬で立ち上がり、地面に落ちてしまった剣を拾い握り締める。


「はぁッ─────」 


気合いを注入するようにそう言ってオレに向かおうとしたとき。


「お前この野郎!なんて事をしやがる!」

「アルトリア様の顔に傷がついてしまってるぞ!」

「もう少し手加減をしたらどうだ!」

「王女は少女なんだぞ!」


周りからそんなふうにオレに言ってくる。


「おい、貴様ら!変なことは言うな!」

「しかし、この男は淑女に傷をつけているのですよ!」

「しかも王女であるあなた様にですよ!」


興奮してしまっているのか、聞く耳を持っていない。アルトリア王女が注意をしても全く聞かず、本人もどうしたモノかと戸惑っている。


「この野郎────」


次に言葉を聞いたときに、オレはその男の方に向かって全力で剣をぶん投げていた。

剣はその男の横ギリギリを回転しながら通り、向こうの壁に刺さった。 


「………コイツに甘やかしなんて必要ない」

「はぁ!?」

「はぁじゃねえよ。お前らはコイツが騎士団長やってるって分かって言ってんのか?」


アルトリア王女を指しながら言う。


「コイツは好きか嫌いかは知らないが、騎士団長として、一人の騎士として戦ってんだ。オレのことを愚者って思ってるなら手加減してやるとか言ってやればいいのに、そんなことを一言も言わず全力でオレに向かってくる。騎士としての精神にオレは応じてるだけだ」


最初、オレは戦う前に「安心しろ、手加減はしてやる。フッ……」見たいな事を言ってくるのだとばかり思っていた。けれど、バエリオの事もあってかオレに対して違う意味で安心しろと言った。


全力で行く、手は抜かないという意味で。


だからこそ、オレはその気持ちに応えようとした。にもかかわらず、この騎士団下っ端共は何も知らずアルトリア王女からのバラメーターを上げたいからか、無駄に女扱いをしている。


「これはオレとアイツの戦いだ。外野が口だすんじゃねえよ」


目つきを鋭くさせ、騎士達を睨みつけると皆が背筋を凍らせてそのまま後ろへと静かに下がっていった。騎士であろう者が随分と弱々しい。


「悪い、時間食ったな」

「いいや、謝らなければならないのはこちらだ。私もずっとこの、ある意味差別とも言えるこれに苦労していた」

「だろうな。さっきの様子からしてずっとこのまま変わってないのがすぐにわかったし」


オレがそう言い、すぐに剣を収納魔法から取りだした。


「さて、そんじゃ。試合再開と行きますか」

「ああ、存分に掛かってくるといい」


オレとアルトリア王女の決闘は第二ラウンドを迎える。

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