第45話 王都にて

朝早くに、オレは家を出た。とは言うものの休日で学校もないため、それに比べれば遅い方だ。今日、外に出かけるのには勿論ワケあり、時は昨日に遡る。


学園内の図書室から出て、帰りに三人で歩いていた頃、オレはそこにいたからか、そう言えば最近本を買っていない事を思い出したのだ。


前世でも現在でも読書には嗜みのあったオレだが、ここ最近は学年別対抗戦の事もあり忙しかったのですっかり忘れていたのだ。


それを思わず口にしてしまうと、エヴァが「私も最近買い物してなかったわ!」つって、今度はミリーゼが「私もです」って言って最後に「じゃあお買い物に三人で行こう!」という結論に。


そんなわけで今日は出かけるのだ。


しかし、しかしだ。


別に出かけることに嫌がっていると言うわけではないのだが、問題はそこではなく行く場所が問題なのだ。


行く場所が、『王都ラティナベルグ』なのだ。


忘れて欲しくないので言わせて貰うが、オレ事アークヴァンロード・ジュリネオンは元はイケメンでありながらクズな性格のためクズ王子と呼ばれている少年なのだ。


その体にオレが入った事により、アークヴァンロードではないこのオレがアークヴァンロードとして今を生きている。


そんなアークヴァンロードは、どうやら過去に王都ラティナベルグにすら喧嘩を売るような事をしてしまったらしいのだ。


悪顔で広まっている以上、行く気が失せるのも無理はないだろ?


しかし、約束してしまったのならそれを破るわけにはいかず、オレは最終的に黒髪のウイッグで髪の毛全体を覆い隠し、更にはメガネをつけるという風にしてある。


有名人が街中でバレないようにする変装を少し強化したバージョンのようなモノなので、ぶっちゃけバレるのではないかと不安気味なのだが、まあないよりはマシ。甘んじて受け止める。


しばらく歩き、ラティナベルグ入り口の門そばにある広場へとやってきた。広場の真ん中にある大きな噴水、そこが待ち合わせ場所だ。

噴水に腰を下ろすと広場一帯を見渡す。


今のところエヴァとミリーゼは来る気配はない。

そういえば、街の人たちに気づかれまいと変装してきたのはいいが、あいつらのことは考えてなかった。

今のところ街のみんなが気づいてないことから、二人が気づきやすいとは言い難い。


大丈夫だろうか。

心配していると向こうから声が聞こえ、そちらに首を向ける。そこにはエヴァとミリーゼの二人がこちらに走って向かってきていた。


「おーい、アークー!」

「アークさーん!」


あれ、バレてるの?ねえ、この変装バレてるの?

王都に入るの心配の極みなのだけれど。


「ねえ、君たちはオレが誰だか分かるのかい?」

「アークでしょ?なんか下手な変装しているけど」

「はい、変装していてもアークさんです」


それって、つまりいつも学園で見てるから分かるってことだよな?そういう認識でよろしくって?

オレは結局思考を放棄した。ケフンケフンとわざとらしく咳をしてみせる。


「じゃあ、取りあえず入りますか」

「そうね!」

「はい!」


如何にも楽しみ~!と言うような満面の笑みを二人は見せて、オレは苦しみ~!と言うような苦い微笑をお二人に見えないようにして見せて、中に入っていった。






     ※     ※     ※





王都は思っていた以上に綺麗な場所、かつ豪華な場所であった。とは言えども、全てが金メッキのキンキラキンの建物というわけでもない。いらっしゃい、いらっしゃいと大きな声で人を呼び込んでいる人も複数いる。


「王都には久々に来たけれど、やっぱりいいわねここわ」

「初めて来ましたが、凄く栄えていていいですね!楽しいです!」

「二人とも楽しそうだな」

「「当たり前よ(です)!」」


まあ、確かにオレも興奮していることに変わりはない。だが、やはり心配なのはバレないかどうか。今のところはそんな気配はないが、油断せずに行こう。


「取りあえず、一つ一つぶらりと廻ってくか。最初どこ行く?」

「じゃあ、私の行きたい武器屋でもいいかしら?」


そんなわけで、エヴァの要望でやってきた武器屋。中は無駄にだだっ広く至る所に、ハンマー、ソード、弓、槍etc.色々と飾ってあったり、置いてあったりしている。


「因みにお前は何が欲しいんだ?」

「私は双剣よ」

「双剣?」

「少し短めの剣が二つセットになってるモノですね。素早く動く事をメインとしている人には人気の武器です」


ミリーゼの説明の通り、エヴァ曰くは自分は攻撃力より速度を意識したいのだとか。速さは力に勝るのよ!と胸を張って言っていた。


何十分か見て回りしばらくして、どうやらしっくりくるモノがあったらしく、最終的にはそれを買っていた。因みに荷物はオレの収納魔法でしまった。


「じゃあ、次はミリーゼの行きたいところに行くか」

「はい。というか、私もアークさんと一緒です。本を買ってなくて」

「あ、そうなのか。じゃあ本屋に行くか」


ミリーゼは曰く、オレと同じように本をよく読むらしい。最近は本を全て読んでしまったらしい。そろそろ新しい本が欲しいんだとか。オレとおんなじだな。


ついた本屋もこれまた広く、むしろ図書館といっても差し控えない。


「こう言うのも面白そうだなー」


死ぬほどある本を適当に物色しながら、オレは本を見ていると、ふと気になる本を見つけた。


「……これは」


まさか、これって────────


オレは迷うこともなく、その本を小説と一緒に買った。これは間違いなく買って損がない。得しかないだろう。


「じゃあ、そろそろお昼時だしご飯にするか」

「わたし、お肉食べたい!」

「私もです!」

「オレもだ」


そんなわけでどこかレストランへ、と、行きたいところだったのだが、ここでオレは遭遇してしまうのだ。


「キャーーーーーーーーー!!!!」

「「「!?」」」


突如として響き渡ったその悲鳴に、オレ達三人は思わずその音源の方へと目を向けてしまった。


「おまえら」

「「へっ?」」


気の抜けた声を発した二人の腰に両手を回して固定し同時に足を踏み込ませる。


「よーく、捕まってろよ」


二人は迷うこともなく肩へと抱きつき、オレは加速魔法で速度を上げた状態で先程の声の方向へと走った。


そして、ここら辺かという辺りで足を止めた。


「あ、アンタいつも……こんな速さで……」

「動いてたん……ですね……」

「悪い悪い、急いでたから」


前触れもなく動いてしまったことに謝罪しつつ、二人に回復魔法をかけ、吐き気を収める。そして、向こうを向くとそこにはフードをかぶり顔の見えない誰かを、スキンヘッドの魔術師のような男が首に手を回し、もう片方の手で持つナイフをその人の首元に向けていた。


「ハハハハハハ!!!おまえら動くんじゃねえぞ!」

「はっ、離してっ!」

「おーっと、嬢ちゃんは黙ってようね~」


そういって首元にナイフを軽く当てた。ようやく見えたその少女の顔が恐怖に染まっていくのが見えた。そして、それが見えたときに既にオレの体は動いている。


加速魔法をかけ、刹那にして男の間合いに詰め寄る。男が驚くような様子をみせるが、お構いなしに男の顎を蹴り、力が弱まって離した彼女を手で引いてお姫様抱っこの姿勢にすると共にすぐにエヴァとミリーゼの元に戻る。


「この子頼む」

「う、うん」


状況を把握できないのかエヴァはしどろもどろに頷いた。


「言ってえなぁ、この野郎……」


地面に仰向けで倒れていた男が起き上がり、手に体くらいの大きさの杖を表した。


「俺の邪魔をするんじゃねえよ!」


絶叫して、杖をオレに向けると同時に三つの属性の魔方陣を展開、そして魔法を放った。中々のスピードで向かってくるそれを手刀で切り裂くと、後に駆け出した。男が尚も打ち続ける魔法を避けながら近づいていき、眼前にまで詰め寄った。


「く、クソが!」


男が杖をオレへ振り下ろす。それを避けると掴みやすそうだったのでツルツルの頭を鷲掴みして地面へと男の顔面をつけさせた。地面に亀裂が入り、衝撃音が街に鳴り響く。


その後に男はぴくぴくと痙攣するような動きも見せずに止まった。


「結局何がしたかったんだよ」


杖を膝蹴りで二つに割り地面に雑に投げ捨て、独り言ごちにそう言った。


「ふう、終わったぞ」

「相変わらずの」

「強さ…ですね」


だって相手雑魚だもん。


「おい、だいじょうぶか?」


オレはすぐそこのフードの少女に呼びかけると


「は、はい。助けて頂きたいありがとうございました」

「怪我はないか?」


少女は頷きつつフードを取った。


「大丈夫です」

「そっかそれは──」


話すその前に、オレは全身が硬直してしまった。

エヴァをも退けさせる程の美顔に、綺麗な青髪、そして珍しい、青と緑のオッドアイ。


彼女こそ、まさしくこの国マターファルネの王女、“ユリアルクス・ダクスタ”だったのだ。

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