第40話 前哨戦
続いて行われようとしているのは、無詠唱戦。
どれだけ早く魔法を発動させる事が出来るのかを競い合う。何かしらの的があると言うわけではなく、虚空に向かって魔法を放つのだが他については大体は射撃戦と同じである。
オレは三組目で中途半端な組だが、だからこそ緊張もプレッシャーもあまりないかもしれない。なので良しとする。
「それでは無詠唱戦を開始する。選手は壇上へ」
無詠唱戦が、始まった。
皆が魔法を打つために必要となる詠唱を短縮したり、中には無詠唱で打つ者もいた。やっぱり何人かは無詠唱で打てる奴はいるな。
とは言えども、無詠唱でも何秒かの時間を置いているため、速攻で出せているかというとまた話しは別になってくる。四五組目がどうかは分からないけど、大丈夫かな。
「それでは三組目、壇上に」
自分の番がくると、オレは心に拳を叩きつけて改めて気合いを入れ直す。それぞれの選手が並ぶと、空に手を掲げる。少し遅れて、オレは五指をゆっくりと広げて快晴の空に向い手を掲げた。
そして、目をゆっくりと閉じて集中する。空気の揺れる音さえも聞こえるほどに耳を研ぎ澄まし、手に魔力を更に巡らせる。シンとした空間が場に出来る中、遂に合図がされる。
「始め!」
その言葉の「は」と言う文字、いやもはやアルファベットのHを言った頃にはオレは無詠唱で魔法を発動させていた。刹那に魔方陣を手の前に描きそこから火球が放たれ空へと雲を声で消えていった。
「……………」
あまりのスピードに審判は思わず呆けてしまい、ポカンと口を大きく開けている。それは三組目のオレ以外のクラスもまた同じ。いやもう、会場がそうだったのだろう。先程と同じほどの沈黙が起こった。
「オレの勝ちでよろしいですね?」
審判はコクリと頷いてくれた。
それ以前に見えていて助かった。見えていないとか言われたらそれはそれで面倒だった。
まあ、すぐに打てば良いだけなんだけどね。
それから五組目まで順調に進んでいき、そして結果発表となる。Cクラスの順位は一位、先程の射撃戦に並んで一位だ。
よし、この調子でドンドン行こう。
※ ※ ※
そして、チーム戦を除く四種目が行われ、遂に中間の発表、即ち決勝に行ける二クラスの発表資料となる。が、結果は既にわかっている。
「それでは決勝に行くクラスを発表する。Cクラス、そしてDクラスだ」
貯める素振りもなく、サラッと言うと挙げられた二つのクラスから喜びの叫び声が会場響き渡った。
スパルタだったとは言え、二日前だったので正直付け焼き刃のようなモノではあったが、何とか決勝に行けたようだ。
「やったわね!アーク!」
「おう、良かったよ本当に」
オレも冷静を装いつつ、静かに喜ぶ。その喜びは決勝に行け優勝に近付けたという事、そしてもう一つ。ミリーゼを苦しめた依頼主をぶっ潰せると言うことだ。
Cクラスのその依頼主の男をオレは一度だけ見た。あの、喜びの顔が実に気に食わない、とまるで適役のような言葉だが、そう思った。
発表後、早速チーム戦はスタートする。
クラスメイトに応援される中、チーム戦の代表であるオレとエヴァ、そしてクラスメイトのカイとの三人は待機室に向かった。
待機室は外からの風景はよく見え、戦う様子がよく見えるようだった。
この待機室が設けられたということには、相手の出場選手が知られることを防ぐためということらしい。まあ、風の噂は幾つか流れてしまうのは、流石に防げないだろうけど。
さて、最初に行われたカイの戦い。相手の女子が中々手強く、全体的に押されていた。カイも大健闘をしたが、くしくも破れてしまった。
「すまない、負けてしまった…」
「大丈夫だ、後はオレとエヴァに任せとけ。そんじゃエヴァ、頼むぞ」
「まっかせときなさい!」
彼女は豊かなその胸をドンと張って自信満々に言ってみせ、会場へと足を運ばせた。
相手はエヴァと同じ女性で、けれどその女はオーラを放っていた。
「やはり、貴方が出るようね。次席、エヴァナスタ・エピソード」
「貴方は……八位の…エリスだったかしら?」
「次席の貴方に名前を知って貰えているなんて、非常に光栄ね」
わざとらしい、まるで挑発のようだが、その言葉にエヴァは動じない。威風堂々と立っている。
「私は貴方を必ず倒す。大恥をここでかかせてあげる」
「やれるモノならやってみなさい。無理だとすぐに分かるわ」
それを聞き、彼女は額に青筋を立てる。
「もう一度行ってみなさい!その言葉ぁ!」
彼女はエヴァに向けて手を向け高速詠唱を行う。魔方陣が空に無数に描かれるとそこから火球、氷の礫、水の弾丸が放たれる。
すると、エヴァは無詠唱で魔方陣を描きそこから炎を発する。その炎を手に纏うとそれは剣を形成していき、炎で剣を創成した。
そして、その剣を魔法に対し振るう。火球は更に燃え氷は蒸発するように、そして水の弾丸もまた蒸発するように消えていった。
「もう一度言って上げる。無駄よ」
すると、エリスは歯を食いしばり必死状態でがむしゃらに魔法を放つ。しかし、それを走るエヴァに難なく避けられ、最後には首に炎剣を突きつけられた。
「ひぅっ」
「私の勝ちよ」
剣を消して、彼女はゆっくりと戦闘の場から去って行った。そして、湧き上がる歓声が響き渡った。
彼女が待機室に帰ってくるとカイと軽くハイタッチをする。そして、今度はオレに近付く。
「流石だな。エヴァ」
「あったり前よ」
オレとエヴァはハイタッチをしていい音を鳴らした。そして後に拳を合わせた。
「さあ、最後はあんたに掛かってるわよ」
「ああ、任せてくれ」
この勝負は必ず勝たなければいけない。
オレはゆっくりと歩いていき、ゲートから表に立つ。
そして、同時に向こうのゲートからも人がやってくる。暗闇の中でまだよく見えない、だがしばらくするとその顔を認識出来た。
────────ビンゴ。
オレは不敵な笑みを顔に浮かべる。
やはり、あの男は選手だったようだ。
「ぶっ潰してやるよ」
オレはその男───ベルドラ・ギルウテラに向かって静かにそう言った。
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