第41話 本性

オレはゲートから現れ、そして同時にベルドラも現れ会場は今日一番と言って良いほどに大きな歓声が湧き上がる。まあ、癪だが殆どはベルドラに対してだろうな。


さて、意外かもしれないがコイツこそ正真正銘の黒幕、ミリーゼを襲うよう依頼した男だ。

初めて会ったときに感じた妙な違和感は本当だったのだ。


優等生ぶって、裏は真っ黒クロスケってわけだ。


「ある意味あの時のは宣戦布告になっちゃってたな」

「まあ、どうせおまえらが決勝に上がることは分かってたからな」


相手が仮面を被って話し掛けるように、オレも仮面を被りポーカーフェイスを保ってみせる。


「絶対に俺が勝つからな」

「そうですか」


フラグ建てちゃいましたねー。

まあ、どちらにせよオレがぶっ潰すから建てようが建てまいが未来は変わんなかったけどな。


「それじゃあ、早速始めようか」

「あー、ちょっとまて」


そう言い、速攻戦いを始めようとするベルドラを静止させる。彼は何でだと首を傾げてこちらを見ている。

ま、やっぱり皆の前が一番いいからな。屈辱を味合わせてやる。

お前のその偽の顔をここで剥がす。


「えー、試合を始める前にこの場をお借りして伝えたい事があります」


会場はシーンと沈黙に包まれる。

その静けさを打ち消すように、オレは話を切り出す。


「実はこの間、この学園内でとある暴行事件が発生しました」


そう一言言うと、会場は先程までの沈黙の間が嘘だったかのようにざわめき始める。

ミリーゼには悪いが、この事は誠に勝手ながらお伝えすることにする。ある意味只のエゴだが、そうでもしないとこの男の本性は現せない。


「今日から五日ほど前のことです。オレは放課後に、ある少女が男子生徒三人に襲われている所を見かけました。まあ、何もされることもなくオレはその少女を助けたのですが、その男子生徒三人に聞くと彼らは、自分達は雇われただけなんだ!と言っていました」


だからなんなんだ?と会場では皆が話しているだろう。まあ、コイツの裏なんて分かるはずもないんだもんな。アイツの顔は表も裏も読み取れないような顔、初見で分かったらそれはもはや達人技。人間不信がとんでもない奴だ。


「そして、その雇われた人物を聞くと彼らは同じ名前を口にしていました。その名前は─────そこの男、ベルドラ・ギルウテラだ」


オレがそう言うと会場は更にザワメキが大きくなる。


「因みにその襲われた少女はミリーゼという同級生。彼女はベルドラに対して好意を抱いていました」


きっと今頃、彼女はオレに対して激しい憤りを覚えているだろう。


「それを彼は、ベルドラという男はそれを踏みにじった」


いつの間にか、敬語は消えいつも喋るかのようにタメ口になっている。直そうとも思ったけれど、怒りを伝えるにはこれが一番なのだ。

けれど、絶対的な信頼を崩すのはそう容易くはない。


「そんなのデタラメに決まってんだろ!」

「ベルドラはそんなことする奴じゃねーよ!」

「そうよそうよ!」

「むしろあんたの方がよっぽど疑わしいわ!」


などとベルドラへの支援、そしてオレへの反感の声があちこちから流れ込んでくる。


「そうだ!俺はそんなことはしない!」


最終的にベルドラも顔を険しくしてオレに対して言ってくる。その顔からは、絶対的な自信を持っており、それは絶対にバレないという自信だろう。


「おいおい、待て待て。まさか証拠もナシにこんなこというと思うか?」

「は?」


オレは指をパチッと鳴らすと、ゲートから現れたのは件の男達三人。実はこの決勝戦を始める前に予めコイツらには、合図で現れるように伝えておいたのだ。そんなコイツらの役目は、全てを話すことだ。


「さ、全てを正直に嘘一つなく喋ってくれ」


三人は頷くと、静かに口を開ける。


「俺達は……この男に言われたんだ。金をやるから、この女を襲えって」

「最初はイヤだったんだけど……最後には金に目がくらんで……」

「そうだ!雇われただけだ!」


さてと、これでどうなるかな……

オレは周りの様子を確かめる。

しかし、この三人の証言は余計にオレへの反感を買うこととなった。


「あの野郎…あの三人に無理矢理あんな事言わせてやがる……!」

「少し変わったと思ったけれど……結局じゃないっ……!」


はぁ……やっぱり信用って大事なのね。

それを改めて感じつつ、事を進める。


「じゃあ、これを見てもこんな事を言えるか?」


オレはこの三人に同時にとある魔法を掛けた。すると、彼らの頭から電気のように脳天から上へとスパークが奔っていき、そこから沢山の歪な円が出来る。


すると、そこに映像が流れる。

画面には三人それぞれの目線からの映像が映されており、それには共通してベルドラが映っていた。


『お前らにはお願いがあってな、この女を襲って欲しいんだよ』


そういってベルドラが出したのはミリーゼの顔の描かれた紙だった。


『は?で、出来るわけないだろ?大体何でそんなことしないと……』

『金ならいくらでもやるぞ』


それからしばらくして、彼らは首を縦に振った。


「これでもまだ、お前は自分は冤罪だと言えんのか?」


この魔法は誰が知っている魔法、『記憶魔法』である。この魔法は他人の記憶を除いたり、また交換することも出来る魔法だ。ここまですれば、流石に否定出来まい。


「えっ、どういう事……?」

「あれってあの三人の記憶だよね?」

「え、本物なの……?」


会場は混乱の渦が巻き起こっており、ベルドラへの不信感が増していた。

ベルドラの方を見ると、彼はどうやらまだ皆を説得しようと大きな声を出しながら、言っていた。


「違う!俺はそんなことはしていない。信じてくれ!」


ベルドラが必死に言うも、それも記憶まで見せられれば積み上げてきた信頼は瞬く間に崩れ落ちていく。さて、そろそろ本性を教えて貰いますかね。


「………」


ベルドラはいつの間にか立ったまま顔を伏せて、黙っていた。

すると、徐々に彼の肩は揺れ始めそして、


「ヒハハハハッヒヒヒッハハハハハハッ!!」


空気に浸透し、揺れるかのようなベルドラの哄笑が会場に響き渡った。先程とは違い、まるで別人を見ているかのような表情を、彼はしていた。笑いをやめると、途端に肩を落とした。


「はぁ~、んだよもう。最後までバレずに行けると思ったのによ」


全員が変わり果てた彼に目を奪われていた。いや、もしかしたらショックだった者、呆けている者もいるだろう。


「そうだ、俺がアイツらを手配したんだよ!全ては俺のためになあ!」


目を血走らせながら、叫び言う。


「ミリーゼが俺を好きなのは分かってたからなぁ、確実に俺のモノにするために更に落とす必要があったんだよ。何も知らずにアイツを襲うアイツらを俺が倒すっつー算段だったのによ」


彼は隠すこともなく赤裸々に語る。


「まあ、それももう無理だなー。まあ、セフレ程度のつもりだったし」


彼はポケットからミリーゼが以前渡した星のペンダントがあった。それを地面に落とすと足で豪快に踏みつけ、破壊した。


「これもアイツをゲットするために仕方なく持ってたけど、無理だしいらね」


誰もが漠然としていた。信頼していたその人物がこんな人だったのだ。それもまた、当然である。けれど、それ以上にオレの怒り心頭していた。

なので、これより始めよう。


「なあ、そろそろ…」

「あ?……ああ、決勝ね。いいぜ、やるか」

「まあ、それもなんだけど…」

「?」

「オレがこれから始めるのは─────」


粛正だ。



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