第36話 アクセサリー
あの後、家に帰ると早速相手に意識して貰うための作戦を考えることにした。食事やら風呂やらやることを全てやりきった後、自分の部屋の机と向き合った。
とはいえど、オレは高校生の頃にあっちの世界では死んだし、なにより彼女がいない歴=年齢で勿論の童貞だったので、考えるにしても経験がなく考える事が出来なかった。
そこで内の四大のメイド、サナス、ノルハ、リール、ローナの4人の協力を得て、無事に色々と分かったことがあった。アイツらには感謝極まれり、だな。
さて、そんなわけで翌日、オレは学園に向かった。それも、いつもより早く。
それにはちょっとした訳があり、ミリーゼはいつも誰よりも速くクラスに来ているらしい。エヴァも毎回誰よりも速く登校しようと努力しているが、いつも必ずミリーゼがいるらしい。それを話していたときのアイツの悔しそうな顔よ。
何をむきになってんだか。
学園に到着し、教室に入ると案の定エヴァとミリーゼの二人は登校しており、まだ他のクラスメイトはまだ来ていないようだった。まあ、話す場としては丁度いいか。
「おはようさん、お二人」
「おはよう」
「おはようございます、アークさん」
「アーク、ちゃんと考えてきたのよね?」
「ええ、言われなくとも」
アンタが丸投げした分までな!!
「オレが考えるに、やはり恋には攻めあるのみだ、そこでだな……」
そんな事を言いながらオレは収納魔法から一つの星の形をしたアクセサリーを取りだした。
「これを今から作ってプレゼントしよう」
「アクセサリー?安直すぎじゃない?」
「だからこそ、伝わりやすいんだ」
この国、マターファルネにはアクセサリーを相手に渡すことで様々な思いや願いを相手に伝えるという文化があり、それは色々な形で表される。
例えば、オレが持っているこの星のアクセサリーには友情の思い、花のアクセサリーには愛情の思いが込められていたり、その他沢山の形から多くの思いをアクセサリーで伝える。
また、婚約を求む時は前世と同じように指輪のようなリングを相手に送る。しかし、指にはめるのではなくペンダントにする者の方が多い。ごく稀に指にはめている者も見るけど。
兎にも角にも、アクセサリーで思いを伝えるという文化が定着しているのだから、ならばその通りにしておいた方が思いが伝わるだろうというオレ、及びメイド四人の思いだ。
「まあ、だからといってじゃあ恋心を伝えるために愛を表す花のアクセサリーを作るかといったらそう言うわけでもない。まずは始めの第一歩、オレの持っているこの星を作って渡そう」
「な、なるほど、分かりました!私頑張ります」
「うし、あ、一応聞くけど錬金はつかえるんだよな?」
「はい、勿論です」
「了解、じゃあ放課後工房で作ろう。」
こうして予定を立てた所で、エヴァがオレの脇腹をツンツンと人差し指でついてきた。
「ん、どした?」
「それ、私も行って良いかしら。人も多い方がいいでしょ?」
「確かに、それもそうだな。うん、着てくれると助かる」
「はいはい、感謝しなさい。感謝しまくりなさい」
「恩着せがましい……」
大体お前はオレに色々と丸投げしやがったじゃねえか。作戦を立てたオレによっぽど感謝してほしいんですけど?恩着せがましいって思われようが恩に着せてやろうか?
「あ、ありがとう御座います、エヴァさん…」
そんでもってミリーゼは素直に恩を着せられるんじゃないよ!
「あ、そう言えば、これ」
「えっ、あっ、ちょっと!」
オレはエヴァに向かって手に持っていた星のアクセサリーを投げた。エヴァはそれを手で踊らせた後に、落ち着かせた。
「え、これって……」
「星に込められる思いは『友情』。後はもう言わせんな」
照れ臭いんだよ……渡すこっちも……
「う、うん」
なんだか、照れ臭くて思わず逃げ出したくなってしまった。
※ ※ ※
放課後になると、オレ達三人は学園の敷地内にある工房へと足を踏み入れた。この工房は錬金魔法が使える使えない問わず、武器などを作りたい時に使ってもいいと自由解放されている場所だ。中には鉱物やらなんやらが沢山あり、まあ在庫切れになることはない。
因みに、アクセサリーに使う鉱物はカタルト鉱石というものが主で、かなりの硬さを持っていて錬金するのにもかなり魔力を消費するし、それ以前に錬金することが難しい。
だからかアクセサリーは作るのではなく、販売されているものを買うこともある。しかし、オレ達の通うリデスタル学園は名門、やろうと思えばできる。エヴァにあげた奴もオレが作った奴だし。
まあ、自作のモノの方が相手の心には伝わりやすいしな。そんなわけで作ろうというわけだ。
「よし、じゃあ早速つくっていくぞ。んじゃあまずは錬金すること事態になれていこう」
そう言ってオレは手にあったカタルト鉱石をミリーゼの目の前に置いた。なんとなくエヴァの目の前にも置いた。
「じゃあお手本を見せるぞ」
オレはもう一つの鉱石を手に持つと、錬金魔法を発動させ手から青白いスパークを迸らせ、掌サイズだった鉱石を更に凝縮させ密度を上げ、そして硬さを上げていく。
そしてアクセサリーのサイズにすると同時に今度は形を変形させ、最も簡単な形である正方形を作った。
「ま、ざっとこんな感じだな。まあ、見よう見まねじゃ難しいだろうから分からなかったらいつでもオレとエヴァにいってくれ」
エヴァも任せなさいと言わんばかりに胸を張った。
「わ、わかりました。私頑張ります!」
「うし、その意気や!頑張れ!」
そうして、ミリーゼのアクセサリー作りが始まった。オレはミリーゼに指導をしつつ色んな武器を錬金してたりしたのだが、見たところ魔術試験で目立っただけあって錬金がかなり上手い。しかしやはりあまり使わないからか、複雑な形を作るとなると難しいようだった。
「うーん、途中で集中が切れて中々上手く作れないです……」
「なるほど、まあ集中しなくても魔力の流れさえ掴めれば問題ないからな。よし、ちょいと失礼」
オレは断りを入れ彼女の手に自分のそれを乗っける。
「ひゃわわ!?」
「オレが今から錬金するから、その時のオレの魔力の流れを感じて覚えてくれ」
そう言うとオレは彼女の手を通じて錬金魔法を発動させ、先程のようにして今度は作る予定である星の形を形成した。
「どうだ、わかったか?」
「は、はい。ありがとう御座います……」
ミリーゼの手を離すと自分の席に戻り武器製作に作業を戻した。ふと、視線を感じその方向を向くと、エヴァがこちらを睨んでいた。
なんだよ。
それから一時間弱。
「でっ、出来ましたぁ!!」
かつて無い程に大きな声を出しながら喜びピョンピョンと跳ねるミリーゼの手には血と汗の滲む努力の末に作り上げた星のアクセサリーがある。
「やったな。もう、最後なんて何も聞こえてないって位に口聞かなかったからな」
「あ、それ、は…」
「そんだけ集中出来てたんだろ?流石だよ」
褒めていると、照れ臭かったのか顔を紅潮させてしまう。
やっぱり、小動物みたいでカワイイ。恋心を抱かれた件の男も嘸かし喜ばしいでしょうよ
「やったわね、ミリーゼ。じゃあ早速渡しに………!」
「行けるかよ。もう皆かえったよ」
「……分かってるわよ…」
「明日、渡します!楽しみです!」
ワクワクが止まらない様子のミリーゼ。
明日が楽しみでたまらないようだった。
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