第35話 恋愛相談

場所は移動し、南の街“ルワルツ”のカフェテリア。店内に入ると、オレは迷うことなくコーヒー、そしてポン・◯・リングらしかぬドーナツを注文する。


この異世界にコーヒーという存在があること事態、驚きを隠しきれなかったのに、このドーナツを見たときはその倍と言っていいほどに驚嘆した。


適当な席を探し四人席を見つけると、オレとエヴァが隣同士に座り、反対方面にミリーゼがイスに座った。


しばらくするとトレーを持った店員さんがやってきて、オレの目の前にそれを置く。因みに自分以外は注文した物が飲み物だけであったため、その場で受け取っている。


コップの取っ手を手に取り口にまで運ぶと、ゆっくりとコーヒーを中に流し込んでいく。まろやかなコクと深い苦みがオレの体に染み渡り、心を落ち着かせる。コップを皿に置き、肘をテーブルに付き指を組むと、口を開いた。


「それじゃあ、詳しく話を聞こうか」

「いや、さっきまでの下りはなんなのよ!」

「いや、しょうがないだろ」


だって、恋愛のお話しとかここ最近は全くなかったし、正直新鮮なんだよね。もう、なんというか。興奮が止まらない!そのために落ち着かせる必要があった!


「あの、お、お話し……」

「ああ、悪い悪い。話して貰っていいよ」

「はい。お話し、というのは先程も言ったように好きな人に意識して貰いたいっていう話なんです」

「なるほど。因みに、その人の事を好きになったのは一目惚れ?それともなにかしらの事があったからとかか?」


訊くと、顔を仄かに紅潮させ帽子を深々と被った。やっぱり話すのは照れ臭いのか。てか、なんだこの小動物。かわいい。


「照れてないで教えなさいよ!気になるじゃない!」


一方、こちらも興奮気味のエヴァが訊く。


「うう…分かりました……」


少し恥ずかしがりつつ聞いた彼女の話はこうだ。


それは入学試験での事。ミリーゼはある出会いを果たした。魔術試験が行われており、そんな試験で彼女の前の番号出会った人が放ったその魔法。それは綺麗で美しく、思わず見惚れてしまったそうだ。


そんな彼のことを確認すると、顔もまた整っており爽やかな顔で、刹那の時間にして彼女はその男の事を好きになったという。まあ、彼女の言ったとおり一目惚れではあるらしい。


また、入学してから間もない頃のこと。どうやらミリーゼは方向音痴ですぐに迷いやすいらしく、故に校舎という迷宮をさまよっていた時にも、その男が手を差し伸べてくれたらしい。そこでもう完全に落ちたんだと。


「青春してるのは大いに結構何だが……」

「どうしたの?」

「いや、迷っているところを助けただけで、更に好感度って上がる物なのかなーって」

「あれはかなり特殊よ……」


二人で同時にミリーゼの方を向くとら両頬に手を当て、身じろぎながら頭から薄ピンクでハートマークの煙を出し、その時を思い出しているのかデレ顔をしている。た、確かに言うとおりかも……。


オレはもう一度コーヒーをゴクリと勢い良く飲むと、んで、と話を切り出して。


「しかし、肝心なのはその男の名前だ。さっきから必死に隠しているから正直知りたいんだが」

「そう、それよ!はいい加減に答えなさい!」


同調するかのようにエヴァがオレの意見に賛成すると、彼女は頬から手を離してオレ達に向かってそれを振りながら言う。


「いや、そ、それはイヤです!」

「でもな、それだと少し相談に乗りにくいぞ?もしかしたらオレ達が知ってるかもしれないし、その方が返っててやりやすい」

「別に他の誰かに教えるわけじゃないんだしいいじゃない」


エヴァも更に同意してくれる。まあ、ぶっちゃけそんなのは只の建前で実際は相手が誰だか知りたいだけなんだけどねー。


「わ、分かりました」


羞恥の赤に染まる頬をさらけ出し、彼女はその名を言った。


「ベルドラ・ギルウテラ君でふ!」


思い切り放ったその名前。

あれっ、ドラってなんか聞いたことあるような…………ってベルドラって今日声かけて来たあいつじゃねえか!タイムリー過ぎるんですけど!?つーか、ミリーゼは嚙んでんじゃねぇ!


「おい、エヴァ……」

「ええ、あいつね……」


オレとエヴァは共に目元を手で隠してイスからずり落ちた。どうやらエヴァもちゃんと分かっているらしい。まじかよ!なんでよりにも寄って今一番関わりたくない奴なの!?バカなの!?バカなの!?もー面倒臭!


「あの……それで、私のお話は呑み込んで貰えるんですか?」

「え、ええ!」

「それはいいんだけど!」


ここまで正直に喋らせたとなるとこちら側としては正直心中が痛い。なので断るわけにはいかないのだが、問題はベルドラの事をどう調べどのようにしてミリーゼのサポートをするかと言うことだ。正直あの男とは関わるつもりが微塵もなかった。いや、まじで関わりたくない。


だから、かなり難しい話しなのだ。いや、本当に如何したものか……


「あ、今更なんだけどさ。なんでオレ達に相談したんだ?」


こちとらクズ王子ですよ?


「ああ、それはあの時校舎に残っていたのがお二人だったと言うのもあるんですけど、お二人は仲が良さそうで付き合っているのかと。現在進行形のカップルなら何か分かるのかと思って」

「……………ってはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」


店内に轟音と言って良いほどのエヴァの絶叫が響き渡った。神速で彼女の口を押さえると周りのお客様にペコペコと頭を下げた。


「お前うるせえよ!耳ぶっちぎれるかと思ったわ!何今の周波数!」

「しょ、しょうがないじゃない!急にそんなこと言われたら叫びたくもなるわっ!」

「なるかっ!!」


エヴァは顔をゆでだこの如く紅に染め、オレの肩を揺さぶってくる。というかそんなに否定しないでくれ、ちょっと………心が持たん。


「あの……間違っているなら謝りますからアークさんを離してあげてください」

「………」


エヴァは黙り込みつつ残像が残るほどに揺すっていたオレの体を離した。 


「う、う゛ん。兎に角貴方の相談にはのるわ。作戦とかは私達がが考えておくから今日は帰りなさい」


咳払いしてエヴァが言うと、ミリーゼはキラキラの笑顔を浮かべ頭を下げて言う。


「は、はい!ありがとう御座います!」


ミリーゼはスキップしながら店内を出ていった。


「………んで、何か案は?」

「………」


おいおい、オレへの丸投げですかい。

後が不安になってしまうのであった。

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