第34話 学年別対抗戦に向けて

突如、顔も知らない男に誘われてオレ達二人は人気のない場所に連れて行かれた。


「俺はベルドラ・ギルウテラ。Cクラスのクラス委員をやることになったんだ」

「貴方に名前を教える義理はないけれど、そんなクラス委員の貴方が私達に何かようでもあるのかしら?」


エヴァは腕を組みながら警戒レベルMAXでベルドラ名乗る男の前に対峙する。まあ、オレもかなり警戒はしているけれど。


「用じゃないけど、お前らがクラス委員やるってD

クラスの友達から聞いたんだ 」


こういう話から既に胡散臭い。青髪の癖の強い短髪に整った顔にスタイルの良い高身長、確かに友達なんていくらでも作れそうな感じはあるけれど。


「だったら何なのかしら?」

「ちょっとした挨拶だよ。これから学年別対抗戦があるだろ?よろしくな」


ベルドラはそう言ってエヴァに手を差し出した。彼女は言わずも握手をする気がなく、また相手の胡散臭い態度に苛つき始めたのか言葉を乱暴にしながら言う。


「あなた、一体なんのつもりなの?そんなことをしたって……」


エヴァが言う言葉を遮るかのようにオレは彼女の前に手を出しながら、一歩前に出てベルドラの出したその手に自分のそれを重ね握手を交わした。


「オレはアークヴァンロード・ジュリネオン。コイツと同じクラス委員が一人だ」

「勿論、知らないはずもないだろ?」


こちとらクズ王子ですからね!そりゃ学園内に知り渡ってますよ!悪い意味でね!


「で、さっきコイツも言ったとおり、何でわざわざ挨拶に来たんだ?そんなの後でもいいだろ」

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。本当に俺は挨拶をしに来ただけ、何も宣戦布告するってわけじゃない」


まあ、そう言うことなら良いのだけれど。確かに見た感じでは繰り返すように、悪い奴には全く見えない。


「ま、そんなわけだから。一ヶ月後よろしくな」


しかし、それでも偽物のような姿に見えるのはオレの気のせいなのか?

去る彼の背中を見ながら、まるで悟るかのようにそう思った。





     ※     ※     ※







明くる日。

早速、授業の中に学年別対抗戦に向けての時間が取られるようになった。そんな学年別対抗戦では五つの種目がある。


まず一つ、射撃戦。

これは問わず魔法属性で的を狙い打ち抜き、それは徐々に小さくしていき勝ち残った者が勝者となる種目。


二つ目は、無詠唱戦。

相無詠唱魔法の発動する速さを競う種目。


三つ目は創成戦。  

徐々に難しくなっていく、お題の物を創る種目。


四つ目は耐久戦。

自分自身の魔力を利用して物を浮かし、その状態をどれだけ保つ事が出来るか競う種目。 


そして五つ目チーム戦。

五人でチームを作り、それぞれ一人ずつ競い合う種目。戦闘。


その内、四種目をポイントで競い合い、上位二クラスによるチーム戦で決勝を行う。

まず決まり事として、当たり前の事だが、相手への妨害行為はしないこと。毎年、何かしらの問題が起こっているらしく、実際の所今年もちょっと怖いらしい。


まあ、メレナが虚しくそう言うのだから努力はしてやらんでもない。それはそれだが、ともかく、出場選手はある程度決まった。種目はそれぞれ五人ずつ出ることになっており、他のクラスは25人だが、オレ達のクラスは23人のため、二人二回出ることになるのだが、それはオレとエヴァで引き受けオレは無詠唱とトーナメント。エヴァは射撃とトーナメントに出ることとなった。


その他にも出場選手は決まり、今残すところ創成戦の選手と耐久戦の選手となった。この種目は実際、あまり人気がない。集まらないのはそれが理由なのだが、まあ残り十名で決められないわけでもないので、まあ二日もあれば決まるだろう


なのでそちらの方は置いといて、オレとエヴァは今学年別対抗戦に向けて放課後、校庭で二人、特訓を行っていた。


オレは無詠唱魔法の発動の加速とトーナメントに向けてのイメージトレーニングと魔法の創成。エヴァは射撃戦に向けて創成魔法の練習と魔法を打った際に当てたい所にしっかりと当てる、即ち魔法の的確性を鍛えていた。


「よし、無詠唱魔法の練習終了!良い感じになってきた。そっちはどうだ?」

「私も良い感じよ」


どうやら互いに順調の模様。うむうむ、この調子だな。オレが頷いてると、ふとエヴァが提案してくる。


「ねえ、アーク。ちょっと組み合いしないかしら?」

「え、組み合い?まあ、いいけど、なぜ故に?」

「あの頃に比べたら、私も強くなったからね。ちょっと貴方に見て欲しいのよ」


なんだかんだここ最近はエヴァの魔法を見る事が出来ていなかった。確かにオレも気になってはいた。さっき隣で魔法見たときは確かに強くなったとは思ったけど。


「それじゃあ行くわよ!」

「おう──」


と、オレが言ったその刹那。いつの間にか彼女はオレの隣に剣を構えて立っていた。

えっ速っ。

そのまま、剣を振られオレは仰け反って避ける。そこからバク転しながら後ろに下がる。


「お前速くね!?何したんだ!?」

「ま、それは私に勝ったら教えて上げる!」


そう言うとまたしてもオレの眼前に瞬く間に移動する。上から振るう剣をオレは素手では抑えようとはせず(実は剣を持ってない。まあ、ハンデと言うことで)避けることで、ダメージを回避した。


すると、無詠唱で剣に炎を纏わせ高速で八閃の斬撃を放つ。あまりの速さにオレも避けるのがやっとであり、それにさらに調子に乗りドンドン斬撃を放ってくる。

ちょいと調子に乗りすぎや!


「ちっ!」


衝撃インパクト』を発動しそれらを一瞬でけすと、猛烈な勢いでオレはエヴァに向かって走っていく。そしてエヴァの眼前に立つとそこから魔方陣を展開し、魔法を発動させようとするがしかし、それをある魔法で阻まれる。


エヴァの周りから風が螺旋を描き巻き起こったかと思えば、それは徐々に赤く染まり炎と混ざり合う。オレがいつぞやに教えた魔法、『炎風ウィレア』である。

エヴァの奴、つい最近教えたばっかだってのにもう享受しやがったのか!?


その風の勢いに弾かれ、遠くへと吹き飛ばされる。空中で回転すると虚空を蹴り、そのままエヴァに直進する。


「同じ事は繰り返さない方が良いわよ!」

「言われなくともわかっとるわ」

「!?」


エヴァがオレに向かい剣を振るったが、それは只の残像である。オレはエヴァの目の前に来たと同時に『加速アクセル』を発動し、加速状態で空を蹴り彼女の後ろに回る。そして首に手刀を突きつけた。 


「……オレの勝ちだな」

「くぅ~!今なら勝てると思ったのにぃ!」

「まだまだだ」


とはいえ、前に戦った時に比べれば圧倒的に強かった。流石にここまで強くなっているとは、あっぱれだ。


「それで、結局さっきのあの異常な速度は何なんだ?」

「周りを見てみなさい」


エヴァを起き上がらせつつ、言われた通り周りを見渡す。すると、地面には黒い跡のようなモノが無数に残っており、それは言わば足跡だった。


「あの足跡が何か分かるかしら……」

「……」


しばらく程考えて、一つだけ可能性があるモノを思いついた。


「靴の裏から炎魔法『爆発エクスプロ』を発動させて、その爆発の向きを一方向にすることで火力と加速をもたらした?」

「……わかっちゃうのね」


おお、良かった、合ってた。

これ、間違えたら超恥ずかしい奴だからさ。

解らない奴の為に具体的に言うとだな、無詠唱でその上に魔方陣を展開せずに靴の裏に炎魔法『爆発エクスプロ』を発動させる。その際に、魔力をコントロールして多方向に飛び散る爆発の方向を一方向にすることで、その分の火力をさらに増させ高速で移動することを可能にした、と言うことだ。


足踏みする度に爆発するなんて、加減が難しく使うにはかなり難しいだろうし、それ以前にそんなことは常人には出来ない。やっぱり才能が凄いのね。まあ、素直に褒めるのは照れ臭いので、あえて何も言わない。


「さて、今日はこの辺にしますかね」

「そうね、帰る支度するからちょっと待ってて」


オレは頷きエヴァの支度が終わるのを待っていると、そこに一人、人影が。

振り向くとそこには制服を着た少女が立っている。可愛い刺繍の入った帽子を被り、そこから亜麻色の髪を覗かせている。


そして、何より顔に見覚えがありそれも同じクラスの奴だった。


「あのー私、ミリーゼ・カルストライドって言います…」

「解ってるよ、同じクラスだしな」


それ以外でも、忘れているかもしれないが入学試験で目立っていたのだ。忘れないわけもないのだ。


「はい、それで、実はお願いがあって…」

「それなら明日で良いかしら?私達、ちょっと疲れてて」


それもあるが、何より日が暮れかけている。もうそろそろ家に帰らないといけないと思うしな。


「でも、今お願いしたいんです…」

「だから、無理だって……」

「好きな人に意識して貰いたいんです!」

「「その話、詳しく」」


思春期のオレ達に恋愛の話は実に興味深く、断るにも断れなかった。オレの場合、精神年齢は大人ですけれど。


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