第26話 決戦開始

時は同じくして、アークが戦っている下の階から遥かに上の階。

魔王の謁見の間で、ルナーアはそんなふうに言う。今、この時、満を持して事が進もうとしていた。


謁見の間、その上に大きな玉座には魔王ルナーアが威風堂々と言わんばかりに座っている。また、隣にはメルソナが立っている。そして、その下には連れ去られたエヴァナスタが手を鎖で繋がれた状態でいた。髪はツインテールの金髪を下ろされ、今はロングのストレートになっている。


今はもう、時計の針はてっぺんにまで回っており、しかし、連れてこられたのは、今から約五時間ほど前。なぜ、それまで何か行動を起こさなかったのか。それが今から明かされる。


ちなみにだが、今襲撃を受けていることはこの空間にいる人らは知らない。アークと現在戦闘中のミラとレースは下の階を守るのが仕事なのだ。そのため上に連絡が行っていない。軍が少ない故にだ。また、戦っている場所は遥かに下なので衝撃も余り来ない。


「すまぬの、エヴァナスタ・エピソード。少々手荒な真似をしてしまったの」

「………」


エヴァナスタはただただ黙ったまま。これは捕まったときからずっとそうだった。魔王ルナーアはそろそろ事が進まないので、喋らせる為の具材を導入した。


「お主、魔族の血が流れておるだろう」

「!?……やっぱりそれを知って……」



やっと喋った。

内心でそんなふうに考えた。


「それで、お主を引っ捕らえたのにはある理由があっての。わらわは先代の魔王に比べて少し魔力を貯める速度が遅いのじゃよ。だから、お主からその魔族の血の混ざった魔力を奪おうと思うての」


魔力とは魔法を使える誰しもが持つエネルギー的なモノだ。


得体の知れないそれを魔王ルナーアは捕まえた時からエヴァナスタ・エピソードという目の前の女から感じていた。


最初に適当に派遣した偵察部隊からその連絡を来たとき、一応ということではあったが、捕らえることを提案はされていた。しかし、入学試験やらなんやらを通し捕まえることが確定となって結果的に今に至った。


「それでは、夜中にもなったところで始めるかの。何、安心せい。痛いのは最初だけじゃ」


そう言ってパチンと指を鳴らすと彼女の背中から黒くグロテスクな触手が無数に現れた。この魔法は相手から魔力を奪うことの出来る魔族限定に使える魔法だ。しかし、この魔法は日が完全に沈み真夜中にならないと使えないのだ。そのため夜になることを彼女は待っていた。


「……」


エヴァナスタ・エピソード。彼女は何もかも考えてなかった。

否、絶望していた。

しかしその感情は徐々にけじめにも変わっていった。魔族の血が流れる自分にはこれが運命なのだろうと。

存在するべきではないのだろう、と今までの人生を生きていつも思っていたこと。それが更に彼女の心に響いていた。


ボロボロに傷がついてしまった彼女の心は、もはや一人では修復することなど出来ないのだ。


「それじゃあ、またの」


そして彼女に触手が襲いかかろうとした、その時だ。

謎の揺れが起こった。ズドンズドンと揺れが強くなっていき、そしてまるで地震のように揺れは強くなる。そして、揺れが最高点まで達したときだ。

ドガァァァァァン!

謁見の出入口の大きな扉が豪快に壊された。大きな煙と埃を上げながら瓦礫が地面に落下していく。


「な、何事だ!」


と、メルソナが叫ぶと同時にそのすぐ足下に同時に一人の女が転がってくる。すると、そこには超魔化状態のミラがいた。


「なっ!?ミラっ!?なんだその傷は!他の軍の者達は!?」

「………ほ、他も……皆やられま……し…た」

「なんだと!一体どんな軍勢が……!?」

「い…いえ、軍勢では……あ……りませ…ん。相手は……一人…です……」


メルソナの顔が更に驚きに包まれる。と、同時に今度は隣から衝撃音が聞こえる。隣を見ると、壁に打ち付けられ、これまた超魔化状態のレースだった。


「なっ!レース!」


魔王ルナーアが彼女の前に近付く。すると、扉付近からコツコツと足音が聞こえてくる。煙が未だに舞っているからかどんな人なのかは分からない。


その者はしばらくすると煙が舞うゾーンを抜けると姿をあらわにした。

エヴァナスタもふと、後ろを向く。彼女は父親、シュークだとばかり思っていた。しかし、やってきた者は彼女にとってあまりにも意外過ぎた。


「ここがボス部屋か?」


そう、アークヴァンロードだとは思いもしなかった。



     ※     ※     ※




超魔化した彼女らは確かに比べものにならない程に強かった。しかし、それでもオレには遠く及ばなかった。


そして、遂にオレはボス部屋らしき所にたどり着いた。部屋は謁見の間のような所で見渡すと人物がいくつか目に入った。


最初に目に入ったのは連れ去られたエヴァナスタだ。彼女の綺麗な金髪はツインテールではなくストレートで手が鎖で繋がれていた。しかし、今のところ怪我があまりなさそうだったのでひとまず安心した。


次に同時に二人、目に入る。一人は赤い短髪の女で角が二本生えており、腰には鞘にしまわれた剣が目に入った。

もう一人は角が異常な程に伸びて、歪に曲がっている、そして、何よりこのプレッシャーというか、威圧感が今まであってきた者とは比べものにならなかった。あれが魔王か?


オレは更に歩いて彼女らに近付いていく。

というかマジで女しかいなくね?


「あ、アークヴァンロード……なんで……」

「クラスメイトだからな。助けに来るに決まってんだろ」


いや違うか。


「いや、友達、だからかな」


そう言い、エヴァナスタの鎖を手で破壊する。


「後は見てろ」


そう言い残し、今度は上にいる彼女らに目を向ける。そして、近付いていく。


「お主、ここまで一人で来たのかの?」

「ああ、大変だったよ。ここまで来るのは」

「わらわの軍が幹部を、倒すとはのう」

「雑魚だったからな」


そういって登壇しようと上への階段を登ろうとしたときだ。オレの目の前には一人の女が剣を振るっていた。のけ反りながら横に振られる剣を避けるとそのまま手を突きそこから飛ぶ。


後ろに着地すると、休む間もなく攻撃を仕掛けてくる。先程の奴らよりも明らかに速い。剣を手で弾くと、女は後ろに下がる。


「私の剣速に素手で対応するとは。只者ではないのだろう」


上から目線だなぁ。


「いきなり仕掛けてくるからびっくりしたけどな」


右手を広げて、魔法を発動する。すると、青色のスパークが迸りパリィと音を鳴らせば、そこから創成されるのは剣だ。未だにスパークの奔る剣を握ると、女は目に殺気を持ってオレに近づき剣を左から振るう。


それを剣で受け止めると、それを受け流す。直後に自分も剣を振るうとそれを相手も剣で受け止める。


が、力が弱い。


そのまま押し通そうとすると、剣を何とか弾きかえされ横に一回転して、速度をつけた状態で剣を振るってくる。


「はぁっ!」


でも遅いんだよねぇ。

持ち前の速度で彼女の後ろに回る。しかし、ただ後ろに回ったわけではない。

ちゃんとその前に二回ほど切っておいた。


「グハッ!」


バツの文字を作るように血飛沫が飛び散る。そして、後に倒れた。


「コイツが軍で一番強いって言うなら、ヤバいぞ」


親指で後ろを指しながら上の女に言う。すると、彼女は顔に不敵な笑顔を浮かべ声を出しながら笑う。


「まさか、それで終わりだとでも思っていたのかの?」

「まさか」


肩を竦めながらそう言う。オレも気付いている。後ろから襲いかかろうとしてくるその存在に。

既にオレはそれに攻撃はしてある。


「!?」


女の顔の表情が一瞬にして変わり果てる。それがどんなモノかは言わずもがな。後ろから襲いかかってきたその刹那にオレは首を切っておいたのだ。


「さて、と。後はお前だけだな」


彼女に向けて剣先を向ける。

その剣には溢れる殺意と怒りを乗せる。


「オレの友達を連れさらった事を、後悔しろ」


剣を強く握り締めてそう言った。

なんか、オレかっこつけすぎかもしれないなぁ。

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