第24話 突撃

あの後、このエヴァナスタが連れ去られたということはすぐに騎士団に伝えられた。

そして、騎士団の皆はエヴァナスタ救出に向けて王立都市ラティナベルグにて、作戦会議を行っていた。


「今回、だが。我々騎士団が副団長、シューク・エピソード。その娘、エヴァナスタ・エピソードが魔族に連れ去られてしまった」


団長であるバエリオがそう言うと騎士団の皆はガヤガヤと騒ぎ始める。するとバエリオは静まれ!と一喝すると、改めて口を開く。


「何故連れ去られてしまったのか、その理由は分からない。魔族だから、理由なしにと考えることも出来なくはない」


彼らにはエヴァナスタが連れ去られた理由は分かるはずもなかった。彼らは魔族が関わっているとはわかっているが、が関わっているとは微塵も考えていない。

それではエヴァナスタが連れ去られる以前に何故魔族が連れ去ったのかなど、分かるはずもない。


「こちらも、他国に派遣している騎士の者もいる。急遽全員を収集し、魔族の地、デバイに向かう。皆いい──」

「ちょっとまて!」


バエリオが作戦会議を締めようとしたとき、ある男が反論に出た。

その男こそシューク・エピソード、その人だ。彼が反論に出る理由など言わずもがな。


「なんだ、シュークよ」

「なんだではないだろう!今すぐにでも助けに行くべきだ!エヴァがどうなっているのか分からないのだぞ!」

「シューク、お前の気持ちは良く分かる。しかし、急いでは良いことなどない。相手は魔族だ。入念に準備をして──」

「そんな時間があるなら助けに行かないとダメだろう!」


実の娘な訳あって、シュークには焦りしかなく物事を冷静に見る事は難しかった。バエリオはそんなシュークの元に歩いて近付き、彼の肩に手を置いた。


「大丈夫だ。明日には皆が集まり、出撃出来るようになっている。実の娘であることも分かるが、急いては良くないぞ」

「………」

「明日には出撃する予定だ。それぞれ、準備を整えておけ」

『はっ!』


騎士らが敬礼をし、会議は締められた。

シュークは多くの心配と不安を残し。しかし、彼らが突撃する必要など、すぐになくなることを、皆は知らない。




    ※     ※     ※   



オレは、家で就寝時間となり部屋に戻ると、ベットで一人考えていた。

今日、エヴァナスタが魔族に連れ去られた。この連れ去られた原因は、言わずもオレだ。オレが居ながら、エヴァナスタという少女を守ることが出来なかった。


女を守れなかったのだ。男として、最もしてはいけない事をしてしまった。オレはこの罪をすぐに償う必要がある。

アイツを助ける、という事でな。


騎士団長のバエリオや、メレナには気にする必要はない、と言われたが気にするしかないだろう。


連れ去ったのが魔族となると、場所はこの近くでは一つ、デバイしかない。騎士団の奴らも明日には助けに行くらしいが、悪いがオレが先に行かせて貰おう。


オレは寝間着から制服に着替えると、部屋のベランダに出た。そして、魔法を発動する。


暴風飛ストーム・フライ


魔法を発動すると、オレの体は巻き起こる風によって持ち上げられ、家を上から全て見ることが出来るくらいにまで上がると、暴風がオレの周りで螺旋を描く。


横に飛ぶと、エヴァナスタとは比べものに鳴らないほどにスピードを出しながら飛ぶ。

うおっ!すげえ速ぇ!


体を翠に包みながら超速急でデバイに向かってオレは飛び出した。すぐに助けるぞ、エヴァナスタ。




     ※     ※     ※



数分後には既に国を二つほど飛び越していた。そして、ある時、急に今までとは違うオーラ、覇気を感じた。


向こうを見ると、そこには大きな城がシンボルの様に目立っている魔族が住む国、デバイがあった。


「結構、速かったな」


思いの外、自分の魔法が速かったので今でも少し驚いていた。

さて、そんじゃ行きますか。


オレは改めてデバイに向かって飛んでいく。飛びながら、オレは探索魔法を発動する。すると、ちょうどあの大きな城の奥からエヴァナスタの気配を感じた。しかし、それと同時に大きな黒いオーラも感じてしまった。


「………あの気配は……魔王だよな……」


この間殺した魔族の男も魔王が復活するとか言ってたしな。

まあ、恐れる事もない。今のオレなら、エヴァナスタを助けることも出来るはずだ。

オレは大空を飛びながら、デバイに遂に入った。


そこからそのまま突っ切って行き城へ徐々に近付いていく。すると、早速敵が現れた。


「ギャィィィィアイ!」

「ギィアギィアギィア!」


あれは…………なんだろうか。

悪魔という奴なのか?人間のような体のつくりでありながら、角が二本生えており羽が生えている。そして、何より、顔が少し異形に近いのだ。

まあ、悪魔としておこう。


そんな悪魔が無数に空を飛んでおり、オレを見つけると叫びながら飛びかかってきたのだ。恐らく、見張りか何かだろう。


収納魔法で剣を取り出し、それを握る。


「邪魔だ」


そいつらを刹那にして、首やら体やら全てを切り裂いた。悪魔らはそのまま急降下していく。弱すぎるだろ。


相手を切ったとしても尚、スピードを緩めずオレは城に向かう。そして、城の入り口らしき門が見えた。そこには先程の悪魔同様、そこにも見張りがいた。しかも、今度は悪魔ではなく、ちゃんと魔族だ。


まあ、そんなことオレには知ったこっちゃねえ。

スピードを保ったままオレは地面に着地し、突撃した。


豪快に巻き起こる煙と、砂埃。

衝撃により派手に音を立て、亀裂の入る地面。また、亀裂の中心であるオレの着地したところは見事にクレーターの如く凹んでいる。


「なっ!何!?」

「何者だ!」


煙から徐々に魔族の奴らが姿をあらわにする。そこには二十人を超えるような人数の魔族がいた。

相手の方も徐々にオレの姿を認識していき、顔も険しくなっていく。


「どうも」

「…人間か!貴様!」

「そうだけど」

「!!……やれ!」


すると、周りの魔族が一斉にオレに襲いかかってくる。剣を改めて強く握ると、加速魔法を発動する。残像を残しながら高速にて動くと周りの魔族らを次々と切り裂いていく。


半分ほど切ると、初めてオレは剣を同じく剣で受け止められた。


「おっ」

「舐めるなよ!人間!」


剣をはじかれ後ろに弾き飛ばされると、魔族は更に魔法を発動する。


『召喚!』


すると、幾多の魔方陣が描かれそこか先程切り裂いた悪魔達が次々と現れる。

雑魚を殖やしても意味ないと思うけどね。


オレは足を踏み込み、加速魔法を改めて発動。悪魔も同様に剣で切り裂いていくと、こんな声が聞こえてくる。


「予想外の敵だ!至急、ミラ様ら幹部達を呼べ!」

「は、はい!」


どうやら支援部隊を呼びに言ったらしい。幹部って、あの時の奴らかな。

そんなふうに考えながら相手を倒していき、そして遂に残り魔族の女一人となった。

というか、女しかいなかった。


「思いの外弱かったな」

「貴様が実力を発揮する前に殺されただけだろう」

「つまり、それだけの実力って事だろ」


彼女はちっ、と舌打ちを鳴らすと彼女の姿が消え、一瞬でオレの前に現れる。そして剣を振るってくる。が、遅すぎる。オレはそれよりも速く剣を振るい、相手の剣を破壊すると共に首に剣を突きつける。


「なっ!?」

「遅えよ」


そして、剣を一閃し首を刈り取った。

しかし、その時オレは彼女が魔法を発動していることに気付かなかった。


周りに先程同様の魔方陣が、先程とは比べものにならないほどに描かれ、そこから普通の悪魔から今までとは違う異形型の悪魔も出てくる。

この数は骨が折れるかもな……。


「ま、アイツを助けるためなら何本でも折ってやるか」


オレはぼろぼろになり寿命を迎えた剣を地面に捨てると、改めて剣を収納魔法から取り出す。

さて、やりますか。



     ※     ※     ※




しばらくして、オレは残りの一体を地面に足で叩きつけてそこから首を刈り取った。それと、同時にである。

入り口から気配を感じた。


前の入り口を向くとそこにはあの時、エヴァナスタを連れ去った二人の女がいた。そして、ここから更に戦いは激しくなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る