第23話 襲来

時は少し遡る。

アーク達の住む国、マターファルネから遠く離れた魔族が住む国「デバイ」。この国に力を蓄える者がいた。


魔王城「ルナアラ城」。この城の大きな謁見の奥にある玉座に紫の長髪を下ろす美女、魔王ルナーアが膝を組んで座っていた。

彼女は力を蓄えている。しかし、彼女には一つ悩みがあった。


それは魔王である彼女が根っから男を嫌うため軍の人数が少ない、という事もあるのだが一番の悩みはまた違う。


そんな頭を悩ませる彼女の前に、数少ない魔族軍の副リーダー的存在、ミラがやってきた。


「魔王様」

「うむ?ミラか。どうかしたかの?」

「先程、偵察部隊の生き残りが帰って参りました」

「生き残りじゃと?ということは軍がやられたということかの?」

「はい。しかし、帰ってきた者も軍の下っ端一人のみです」

「つまり、ルトはやられたのかの」

「そう考えてよいかと」


ルト、それは入学試験の際に襲撃をしてきて、後にアークにやられた男だ。彼は男嫌いの魔王が実力を持っているということで配下に置いていた。

偵察部隊の生き残りというものの、そもそもの偵察部隊はルトを含む三人。残り一人も潜んでいるわけだがそんな手下も後にアークと遭遇することとなる。

ご愁傷様です。


「まあ、あやつは只の捨て駒じゃ。だから偵察部隊に選んだしの」


と、言っておくが実際は動揺もある。彼は魔王軍リーダー、副リーダーには遠く及ばないものの、実力者ではあるのだ。

やられたことはおもく受け止めていた。それはミラも一緒だった。


「実は、一つ提案が」

「?なんじゃ?」

「私、ミラにの件を任せてくれませんか?」

「……お主がか?」

「はい」


ルトの偵察部隊もそれが目的だ。そして、そこからはもう例の女とは想像が容易いだろう。


「……うむ、わかった」

「感謝至極」


すると、そこからもう一人の副リーダー、レースが口を開いた。


「あなた、だけでは心配だわ。私も行く」

「なっ!レースも!?」

「あなた、自分の数々の失敗を忘れたの?」

「うっ……」

「だから、私もいくわ。よろしいですか?魔王」

「うむ…」


魔王の彼女は本来は許していない。しかし、今回それを許したのは一つの可能性としてイレギュラーの存在があると考えたから。それをミラ、レースらもそれを考えていると彼女も察し、許したのだ。


「では二人とも、頼むぞ」

「「はっ!」」


すると二人の姿は音を立てて消えた。

魔王ルナーアは頼んだものの大きな不安があった。すると、それを分かってか魔王軍を率いるリーダー、メルソナは言う。


「彼女らは優秀です。心配は無用でしょう」

「…うむ」


曖昧に頷くルナーア。

彼女の不安が当たるか否か。




     ※     ※     ※



「ちょっとー!何で先に私が出たのに抜かされたのよー!」

「お前が遅いからだろ。置いてくぞ」

「ちょっと!待ちなさいよ!」


オレとエヴァナスタは誰よりも速くダンジョンの中に入り奥へと進んでいた。まあ、元はエヴァナスタが勝手に先走ったからなんだけど。それからしばらくすると、大きな場所にでた。

すると、そこには無数の大穴があった。


「……これは別れ道か?」

「らしいわね。どこを行こうかしら」


うーん、別れ道か。

どこを行ってもオレは問題ないのだが、如何したものか。

しかし、考えることもないだろう。オレは無難に選んだ。


「あの真ん中にするか」


そう提案すると、意外にもあっさり頷いてくれた。そこから、入っていくと早速モンスターが現れる。大きくはないものの群れのようで百あまりある虎が襲いかかった。

剣を抜こうとするが、その前にエヴァナスタが動いた。剣を抜くと同時に無詠唱で炎剣を発動。炎を赤く染めると次々と虎を切り倒していく。

おお、流石は次席。


「なんてことないわね」


剣を振って血を落とすとオレは彼女に一つ疑問をぶつけた。


「お前、何で攻撃するとき炎魔法しか使わないんだ?」


彼女は質問を聞くと驚くような顔をした後に向こうを向く。

ん?お、おーい。エヴァナスタさーん?


「い、言わない!」

「ん?なんでだ?」

「なんでも!!」

「……もしかして、そもそも使えないとか?」

「………」


急に黙ってしまう彼女。

どうやら図星だったようだ。

魔法にも色々ある。その属性の魔法だけの攻撃魔法だったり、防御魔法、他にも色々あるのだがエヴァナスタは炎魔法と風魔法以外攻撃魔法が使えないということだ。


「魔法使うの上手いのにもったいないないな」

「う、うるさいわね!しょうがないでしょ!」

「でも、そんなお前に耳寄りな情報」

「?な、なによ?」

「魔法を合体させたらどうだ?」


オウム返しで聞き返してくるエヴァナスタ。

これはある意味オレの実体験でもある。風の魔法と炎の魔法は絶妙に相性がいい。恐らく彼女が主に使うのがその魔法二つなら、合体させることも覚えて良いと考えた。


「合体って、どうするのよ」

「どうするも何もまんまだぞ」


そう言うとオレは両手を広げ、右手から炎、左手から風を創る。

風はタツマキのように回転させている。


「これをこうだ」


手を近づかせてゆっくりと炎を風に混ぜると風は炎を纏う。

名付けて炎風ウィレア、の完成である。


「こんな感じだけど」

「………」


黙り込んでしまった。

オレは気を取り直して彼女に言う。


「これ、結構な威力がでるんだぜ。そうだな……」


周りをキョロキョロと見渡すと、タイミング良く向こうから大きな猿がやってきた。体長五メートル程だろう。その猿に向かいオレは手を掲げると先程の炎風は槍の形を創造していきすぐに炎風の槍が完成する。


炎風槍ウィレアトール


オレの槍は見事に猿の腹を穿ち挙げ句にはその威力が伝播して猿の体は塵と化した。

あら、結構抑えたのだけれど。

オレはコホンと咳払いしエヴァナスタに言った。


「じゃあ、やってみろよ」

「は!?出来るわけないでしょ!魔法を混ぜるなんて至難の技よ!?むしろそんな次元を超してるわ!」

「そうか?頑張ればお前なら出来ると思うけど」

「魔法を混ぜるだなんて考えたこともないから感覚がイマイチ分からないのよ!」 


感覚が分かんないのか。

しょうがないな。

オレは彼女に近付くと両手を前に差し出した。


「ほれ、手ェ広げて乗っけろ」

「えっ?」

「はよ」

「あ、う、うん」


彼女は両手をそれぞれ掌を空に向けて広げてオレの手に置いた。

その手を軽く握るとエヴァナスタはビクッ!と反応し顔を紅潮させる。緊張しすぎ。それとオーバーリアクションだ。


「それで、じゃあさっきのオレみたいに風と炎だせ」


頷くとブツブツと呟き先程の自分の様に炎と風を出した。


「いいか?ここからだぞ」


オレはゆっくりと彼女の手を近付かせる。そして、二つが混ざり合い見事に炎風が完成する。こうすることである程度混ぜるときの感覚を覚えるはずだ。


「ま、こんな感じだな。今の感覚、覚えとけよ」

「も、勿論よ!私は覚えたら後は速いんだから!」

「おお、そりゃすげえ。ちなみにだけど、慣れれば普通にポンと出せるぜ」


こんな風にな、とオレは手を広げれば炎風を創った。

慣れるには三ヶ月毎日の様に練習したんだよな……大変だった………。


オレで大変だったのだからエヴァナスタはもっと苦戦することになる事になるだろう。そうおもっていたのだが、あれからダンジョンを更に進む内にアイツはいつの間にか炎風を普通に出せつつあった。次席の実力を舐めていたな。


と、脳に直接声が響く。


『あ、ああ、聞こえるかーおまえら』


聞こえてきたのはメレナの声だった。

これは「通信魔法」という魔法で賢者が誰かに連絡するのをしやすくするために作られたと言われている。賢者さん、理由よ、理由。


『そこまでだ。ちゃんと狩ったモンスターはしまってんな?そんじゃあ、こっちに帰ってこい。早く帰ってきた奴には褒美をやるぞ』


何処かで男達の歓声、そして女達のため息が聞こえた気がした。

さっきエロいことはしないってメレナが言ってただろ……




     ※     ※     ※




オレは走って、エヴァナスタは軽く飛びながら二人で出口へと向かっていた。褒美に興味がないとはいえ、一番ではありたいとエヴァナスタから要望があったのでオレはしぶしぶ了解した。


そして、しばらくして最初の別れ道があった大きな場所に着いた。


「ふうっ。ここまで来ればもう一番は間違いなしね」


エヴァナスタが呑気にそんなことを言っていると、オレは何処かから殺気を感じた。

殺気が近付いてくる!!

オレは咄嗟に飛んできた殺気の混ざった何かをエヴァナスタをこちらに寄せて守りつつ右手で掴んだ。何かと思えばそれは矢であった。


「ちょっ!ちょっと!?」

「動くな」


オレのガチの声のトーンにエヴァナスタはゆっくりと頷いて動かない。

前方へと視線を変えると、そこには一人の女性がいた。見た感じですぐに分かる魔族である。


「また、魔族かよ」

「私の矢に反応し素手で掴むなんて。あんた何者だい?」

「答える義理はないな」


オレはエヴァナスタをゆっくりと手から離し後ろに下がらせると、魔族の女は口を開く。


「あたしはあんたの後ろにいるその女に用があるんだよ、どきな!」


そう言って彼女は弓を五本高速で放った。それらは猛烈な速度でこちらに攻めてくるが、それらを素手で掴むやら壊すやらして防ぐと足から錬金魔法を発動し彼女の後ろの地面が変形し大きな刺を創り出し胸を貫通させた。


「っはぁ!」


吐血すると、魔族の女はガクッと力が抜けて胸に錬金で作られた刺が刺さったまま絶命した。

あれっ?案外すぐにくたばったな。

そんな風に考えた後、エヴァナスタの様子を見るとえらく顔を深刻そうにしている。

うーむ、やはりそろそろ聞く頃合いかな。

オレは彼女に口を開く。


「なあ、エヴァナスタ。お前何で───」


続きを喋ろうとした、その時だった。

ドガァァァァァァン!

地面が砕けるような、否、想像を遙かに超える音が外から聞こえた。

今度は何だ!?

オレは質問を取りやめすぐさま出口へと向かう。エヴァナスタは深刻そうな顔をしたまま着いてくる。


外に出ると、そこにはメレナがいた。それも吐血し体がボロボロの状態で。

そして、その傍にはまたも魔族らしき人物がいる。くそっ!何なんだ!次から次へと!


「メレナ!」


そう、呼ぶと同時に今度は後ろから声が聞こえた。


「アークヴァ──」


声に反応し後ろを向くと、エヴァナスタの口から体まで、下の魔方陣から出てきた黒い帯の様なモノが巻いた。声を出したくても出せないのでヴーっ!ヴーっ!と言っていると、魔方陣の中に一瞬で吸い込まれる。


「エヴァナスタ!」


掴もうとするが、そんな場所がなく魔方陣に入っていった。前に体をむき直すと、魔族の女が一人立っておりその手には先程いたエヴァナスタがいた。


「目的は達成よ。悪いわね、この子は貰っていくわ」

「良いわけねえだろ!」


オレは地面を蹴って相手に向かって走り出すが、目の前にメレナの傍にいた魔族の女が立ち塞がる。


「邪魔だ!」


拳を握り締め相手に向かって打ちこもうとするが、避けられてしまう。すると、相手もオレの腹に拳を打ちこんでくる。今までの中で最も重く、速い一撃だった。そして、左足でオレの腰に更に蹴りを入れ、飛ばした。


一直線上に吹き飛ばされ、少し遠くの大岩に叩きつけられる。そして、そのまま地面に倒れた。


「ノルマは達成。すぐに戻るわよ」

「むう、私は若い少年倒しただけで不完全燃焼…」


そう言って彼女らは去っていた。オレは歯を食いしばって地面に思い切り拳を叩きつけた。

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