第二章
第19話 入学
目の前にあるのは、何度も見たリデスタル学園である。試験発表がされた日に貰った制服を着てオレは校門前に立っていた。制服は魔法やら体術やら実技系の科目も多いからか、かなり動きやすく出来ている。
今日、オレはこのリデスタル学園に遂に入学することになる。
先日、入学試験の試験結果が発表されていた。結果は、オレが首席だった。あの後、制服と一緒に試験結果が紙で渡された。
・筆記試験300点中295点
・剣術試験200点中650点
・魔術試験200点中450点
はぁぁぁぁぁぁ!?
オレはその場でそんな風に言ってしまった。いや可笑しい。そもそも筆記試験300点とかその時点で論外だとも思ったしそれを295点取れてるオレもキモいと思った。
だが、何より剣術と魔術も点数が可笑しすぎる。200点中の650だよ!650!三倍だよ!?三倍!
流石に点数が論外過ぎるとも思ったりした。
しかし、今更かといつの間にか怒りが呆れに変わっていた。
まあ、点数は隠されてもいるので点数に関してはもう良いのだ。しかし、だ。問題は『首席』ということ事態に問題があるのだ。
今までオレはクズで、しかも頭が良いだけで運動神経もクソ、魔法もろくに使えない劣等的な奴だった。オレの予想ではその事実ら殆どの者が知っている。
だからこそ、問題がある。
首席という立場は皆が憧れの眼差しを送る様なまばゆい存在だ。しかし、それは皆が狙っている立ち位置だ。つまりその首席になった人はある程度は、嫉妬の眼差しを受ける事になる。
しかし、それがクズであるオレなのだ。つまり、より嫉妬、他にも憎しみ、そして怒りを受ける事になるのだ。
つまり、これからオレは学園生活、苦戦確定なのだ。オワコンなのだ。
流石のオレもそこまで考えられていなかった。
正直、学園に行く気になれない。
「…………今更しょうがないか」
オレは自身の頬を両手でパシン!と叩いた。ヒリヒリと頬が痛む。恐らく赤く染まっているだろう。よし、これで少しは切り替えられたかな。
「よし、行くぞ!」
オレは校門をくぐった。
入学式が始まる時間は8:30。今の時間は8:05。念には念を入れ早めに来たつもりだったのだが、既に登校してる人が多く、少し驚いた。ちなみに父さん達は後で来るということ。
校門を抜け、歩いていると。
「見て、クズ王子だ。首席だって」
「どんな卑怯な手を使いやがったんだ?」
「でも、その場にいた人は凄かったって言ってるよ」
「どうせなんか細工でもしたんだろ」
そんなオレに対しての文句がそれはもう出るわでるわ。オレの耳に死ぬほど入ってくる。聞こえていないとでも?
すると、後ろがザワザワと少々騒ぎがする。
後ろを向いてみると、そこには金髪をツインテールに結んだ美少女がいた。それはまさしくエヴァナスタ・エピソードである。
「あれは!入学試験次席のかの有名なエピソード家の長女、エヴァナスタ・エピソード様だ!」
「可愛いなあ~」
「きれいだ」
彼女もその身に制服を纏っており、それは良く着こなしており綺麗だった。反応がオレとは真逆過ぎる。
と、彼女がオレに気付く。すると、早足でオレに近付いてくる。そして、オレの目の前に立った。
「……なんだよ」
「……あなたがアークヴァンロード、ね」
そうですが何か。すると、ビシッと指をオレに指してきた。
「覚えておきなさい、私はエヴァナスタ・エピソード。誇り高きエピソード家の長女、貴方に続く入学試験次席よ」
「まあ、次席なのは初耳だけどお前自体は知ってる。試験でも目立ってたしな」
「ふうん、まあ、貴方の方が目立っていたと思うけれど?」
「まあな」
「………まあ、いいわ。すぐに私の方が強いということを証明してあげる。首を洗って待っているといいわ」
そう言い残すと、彼女は後ろ髪をバサッと掻き上げて去って行った。オレはその姿が、何処か綺麗に見えた。
※ ※ ※
中に入り、そこから体育館へと向かう。この学園では別名、室内型実技訓練館とも呼ばれている。そこに向かうと、イスが並べられており、首席から十位までの人は前から順番に座り、他は自由だった。
そして、8:30。入学式が始まった。
式の中では騎士団長のバエリオだったり学園長のメレナだったりが挨拶をしていた。まあ、メレナは一言「頑張れ!」で終わらせ、全員を苦笑いさせたのは言うまでもない。
さて、そろそろ式も終わりかな。
しかし、オレはこの時油断しており思わぬ不意打ちを受ける。
「それでは最後に、今回の入学試験首席より挨拶を頂きます。首席、アークヴァンロード・ジュリネオン君」
……………………はい?
は?なんで?オレそんな事言われてないし聞いてないよ?なんで?もしかしてまた、メレナがなんかした?だったらアイツしばくぞ。いや、しばくじゃ済まねえぞ。ありとあらゆるオレのイタズラをやった上でありとあらゆる魔法で懲らしめてやる。いや、でも本当にメレナがしたのか?まあ、いいや。取りあえず今は挨拶しないといけないな。はぁ、マジで嫌だわ。
と、僅か0.5秒でそんな思考を巡らせた。
そして、1秒後には
「はい」
と言えていた。我ながら凄いと思った。
何とか自分で考えながら壇上へと上がり、オレは拡声器の様なモノの前に立った。
話すことを歩いている時に考えていた。自分は今までクズと呼ばれるようになるまで、様々なゲスな事をしていた。だからこそ、こんなクズのオレの話など、聞こうともしないだろう。
しかし、それでも皆が耳を少しでも傾けてくれるように、オレは喋り始める。
「御紹介に預かりました。入学試験首席、アークヴァンロード・ジュリネオンです。今日、こうして入学出来たことを心から嬉しく思います。」
最初はこんな感じでいいかな。
「まず、第一に伝えたい事があります。私はクズです」
会場がざわつき始まる。まあ、唐突にそんな事を言われたら、この街ではなく他の街から来た外部生がどう思うか。しかし、そんな事は今となってはしょうがない。
「否、私はクズでした。今までやってきた非道かつ愚かな事。それは消して謝っても許される事ではないとは承知しています。」
オレは一息間を置いて喋る直す。
「それでも私はその罪を背負って生きる覚悟があります。まず、そこの姿勢が出来ていることをどうか頭の隅にでも良いので覚えておいて下さい。
また、自分が首席であることは誇りに思っていますが、だからといってその自惚れで終わらせるつもりはありません。
自分は9歳まで魔法が使えませんでした。本来なら魔法とは七歳の間に発源するもので、それ以降に魔法が使える事はあり得ません。
それが自分には起こったのです。しかも、それは人よりもより優れていました。しかし、それでも浮かれず努力し、首席という結果を手に入れました。それでもこれからを疎かにせずこれからを頑張りたいと思います。
アークヴァンロード・ジュリネオン」
そう言ってオレは頭を下げる。起こったのはまばらな拍手だ。しかし、それでも一歩踏み出せたのだという実感が何処かあった。
※ ※ ※
あの後、その場でクラス分けが行われ、それぞれがその教室に向かう事になった。ちなみにだが、この学園はクラス分けは実力で分けているわけではない。
オレのクラスはDクラスだった。
入ってきたときはやはり、何処か嫌な目線を貰ってしまったのだが、ネバーgive upで頑張ろう。
また、同クラスにはエヴァナスタもいる。やはりか目立つ。オレとは真逆な反応だが。
この後、ホームルームが行われる。そこで担任の先生が紹介されるらしい。普通の先生であって欲しい。
と、ガラッ!とドアが開く。そこから一人の女性が現れた……………………
「やぁ、諸君。俺がこのDクラスを担当する、学園長のメレナ・エミリアだ。よろしく!」
メレナじゃねえか!
コイツこの野郎!
すると、メレナはオレに目線を向ける。目が合うとパチッ☆とウインクした。
ムカつくんだよ!後地味にかわいい!
教室内は案の定ザワザワと音を立てる。すると、一人の男が質問した。
「あの、な、何故学園長が自ら担任を?」
「なに、気まぐれだ。実は担任をしてみたいと思ってな」
いや、違うな。絶対違うな。断言する。
「さて、このクラスだが、入学試験、首席に次席までがいる。競い合うには持って来いだろう。皆、それぞれ負けずに頑張れ!俺も全力でサポートする!」
そして、起こるメレナへの拍手。
見ろよ、あのドヤ顔。殺意しか湧かねえよ。
ともかく、オレの学園生活が幕を切った。
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