第8話 ダンジョンで

「ダンジョンに行ってみる気はないか?」

「ダンジョン?」


十歳になったオレに父さんは朝ご飯の最中、唐突に言ってきた。

あれから一年という月日が経ちオレは様々な成長を遂げた。


まずは身長についてだが、今は152ある。結構大きいと思う。顔立ちはそこまで変わっておらず相変わらずである。


体術においてだがつい最近父さんと互角、またはそれ以上にまで上がっている。

剣を空振るだけで土を削り風を切ることができる。また、脚力も筋力も異常な程に上がっている。細身ながらしっかりと筋肉をつけており、今は400㎏の重りをつけて剣を振ったりしている。


脚力だが、今やオレは本気で飛べばマンション30階位まで多分飛べるだろう。また、速さも上がっておりそれに関しては遙かに父さんを超している。


続いて魔法についてだ。

五大属性は勿論のこと他にも様々な属性を覚えた。その五大属性から派生されている属性もあるのでかなりの量だ。

しかし、最近本を読んで属性は百個もないと書かれてあった。古いからかもしれないが少し今の疑問である。

ちなみにオレは「無詠唱」で魔法が打てる。実はキャサルナを救出したときから既に使えていたのだがそれが異常だと後々知った。今やオレは魔方陣を出さずして魔法も使える。


まあ、要するに全てにおいて異常ってわけだ。


だからか、最近父さんには人外認定され掛けてしまった。10歳でこれでは色んな意味で先が思いやられるとも考えてしまう。

けれどこの力を託されたのなら精一杯頑張ろうと最近改めて気合いを入れ直した。



───閑話休題───



「ダンジョンって冒険者の人とかが行くあれのこと?」

「ああ、良い機会になると思ってな」


ダンジョンとは簡単に言うならモンスターが沢山いるところである。様々なモンスターに出会えるのでかなり行き当たりばったり感もある場所でもある。ただ、しっかりとダンジョンは階級事に分けられてある。

強い奴がいるダンジョンには強者でも負けるようなモンスターが多く行く人も少ないという。


「ちなみにダンジョンって何処のダンジョン?」

「東のウェードの森の中にあるダンジョンだ。ダンジョンランクはCだから普通の場所だろう。まあ、恐らくAのダンジョンでもお前なら余裕だと思うけどな」

「流石にそれはないと思うけど、別にいいよ。行って見たかったし」

「うむ。ちなみに私は同行しないから一人で行って来い」

「じゃあ私が行きます!お兄様いいですよね!」


オレは頷くと同時に声を発したのは妹のキャサルナだ。彼女は今はマジでオレと仲が良い。つい最近致し方なく添い寝したりもした。

ダメって言ったら泣くんだもん……

そんな彼女が一緒に行きたいと言ってくるがオレはどうしても反応に困ってしまった。


それは単純明快実力が足りないからだ。今のキャサルナは魔法も覚えたてで、体術も余り良いとはいえない。そんな彼女を連れて行くとなると正直オレの負担も大きくなってしまう。だから、どうにかして断ろうとオレが考えていると、父さんから救いの声が。


「お前はまだダメだ。もう少し経験を積んでからな?」

「うう、分かりました……」


父さんの言うことに素直に頷くキャサルナ。だが、顔がしょんぼりしているのでオレは慰めの言葉を掛けた。


「また今度一緒に行こうな、連れてってやるから」


すると、彼女の顔は光り輝くような笑顔になる。


「はい、ありがとうございます!大好きです!お兄様!」


そんなことを言いながらオレに抱きついてくるキャサルナ。

1年前のあの事件からずっとこんな感じなんだよなぁ。ここまで懐いてくれるとはオレも予想していなかった。


オレは朝ご飯を食べ終えると早速ダンジョンに向かうべく自分の部屋に戻り準備を始めた。



     ※     ※     ※



しばらくしてから、すぐに支度を済ませたオレはすぐに家を出た。

ダンジョンは家からは少し遠いということから馬車で行くことになる。

オレの住む国、それはマターファルネという名前で他の国に比べてかなり軍事力や経済力のある先進国である。


ちなみに,この国を支えている国王がネクロムという男で有名な一族ダクスタ家の者だ。そんな王家の公爵家だと言うのだから内は結構凄いと最近改めて分かった。


ダクスタ家が住む城、ギルデガルデ城はマターファルネの真ん中に位置しておりその周りの街を王立都市「ラティナベルグ」と呼んでいる。そこからそれぞれ東西南北の街に分けられている。

東の街「シリウス」西の街「ガルティナ」北の街「ウルガス」南の街「ルワルツ」。その中のシリウスにウェードの森があるのは言わずもがな。

オレの住む街はルワルツなのでほんの少し遠くなのだ。


30分ほどしてオレは東の街、シリウスに到着した。馬車から降りてオレはダンジョンに向かう。

オレが歩いていると街の人々からはかなり視線を貰った。


実はオレのクズが知られているのは実質、ルワルツとラティナベルグだけなのだ。手広く悪事を働いていたわけではないらしい。

まあ、大事な王立都市に知られている時点で積んでいると思うんだけど。

つまりこの視線はどちらかと言えば「この子カッコいいー!」に近い視線なのだと思う。

いやでも自意識過剰すぎるか?

オレのクズッぷりが広まっていないとは言い切れないしな。

オレは深く考えないようにした。


しばらく歩き、オレはウェードの森の入り口に到着する。ハリボテでウェードの森って書かれてるからわかりやすかった。

中は森と言えど比較的草木が多いわけでもないように思える。


しばし歩くと誰かが掘ったとは言い難い穴がオレを出迎えた。直径三十メートル程の大きな穴だ。穴の中には螺旋階段のようなモノがあり恐らくここから降りるのだろう。

オレは階段を降り始めた。最初はゆっくり歩いていた。しかし、歩き始めてから5分ほど経って気が変わった。

あまりの段数にオレはいやになってしまったのだ。そんなわけでこれからどうやって降りるか、それは勿論飛び降りに限る。


「よっ!」


オレは段からそのまま飛び降りた。足を下に向けた状態でかなりの速度を出しながら下へ下へと降りていき、そして数十秒程して地面が見える。

オレはそこで風魔法を風を出し速度を落とす。そして、そのままゆっくりと着地した。

ふう、中々楽しかったな。


と、そんな呑気な事を考えていると早速モンスターが現れた。

角の生えた虎で複数いる。

そいつらがオレに向かい走ってくる。

オレは腰に備えていた剣を抜き抜くと、まず一番近い右側の虎にオレは体を向ける。虎が飛び掛かってくると引っ掻こうと手を振るう。が、虎が動く前に既にオレが動いている。


オレは虎の後ろにいて既に首を切っており、その首はすぐにポトリと落ちる。

オレは顔だけ後ろを向き周りのオレを威嚇する虎に言う。


「そっちが殺しに掛かってんだから殺されても文句ねえよな」


虎は怯まず襲いかかるがそいつらをオレは持ち前のスピードで全員の首を切り落とした。

弱いなコイツら。

すると、横に洞窟のような大きな穴があった。恐らくここから進むのだろう。

オレは更に奥へと進んだ。

洞窟中を歩くと地下へと向かって作られていることが分かった。

そのダンジョンの階層ごとに敵が襲ってきたが難なく殺めた。階層が下がって行くと徐々にモンスターの強さも上がっている気もした。


そうして大体40階層程まで来たときの事である。現れた無数の敵を倒したときにその声が聞こえた。


「キャァァァァァァ!!」


オレはその声にすぐに反応した。方向はちょうど進行方向である。オレはすぐに魔法を発動する。

『加速魔法』。最近覚えた魔法だ。その魔法は読んで字の如く加速する魔法なのだ。地面を蹴ると同時に発動させオレは目にもとまらぬ速さですぐにその声の元へと向かう。


すると、オレがたどり着いたのは今までのダンジョン内にはなかった大きな場所である。天井も広く面積も広かった。

そこについたときすぐに目に入ってきたもの、それは大きな体をした狼と腰の抜けた女性だった。狼の毛は白毛でツヤがあり、その赤き双眸は女性を捉えていた。


一方の女性は腰が抜けて動けないようで未だに体が震えているのがこちらから見ても分かった。

しかし、逃げるわけには行かねえよな。

オレは炎魔法の超小型火球を作りそれを三つほど狼に当てた。

これはあくまで攻撃用ではなくこちらに気付かせるためのものだ。


すると、当然こちらに気がつきその赤い眼をこちらに向けてきた。よし、興味がこっちに引いたな。刹那、その狼は移動していた。今までのこのダンジョンであってきたモンスターとは比べものにならないほどに速くこちらに走ってくる。

速っ!


でもな。オレも前世じゃ鬼ごっこは得意だったんだぜ?

オレは魔法を使わずに走り出した。この空間は広いので走るには持って来いの場所だった。


「うぉぉぉぉ!」


オレは陸上部の走り方のようにして走り、そんなオレを狼が追ってくる。

何周も何周もこの空間を走り回ったところでオレは攻撃を仕掛ける。オレは狼の方へと後ろに体を向け急ブレーキを掛けながら後ろにズザザザザァと下がっていく。そしてスピードも落ち狼が目の前に来たときにオレは反撃に出た。


剣を手に持つとそこから『加速魔法』を使いすぐに狼の上へと壁を蹴りながら動いた。そして、そこから体を螺旋状に回転しその勢いでその狼の体を一刀両断した。

うおっ。結構簡単に切れた。

剣を振って血を落とした後に剣を鞘にしまう。

狼はその断面から内臓が溢れている。ちょっとグロいな。

その後オレは女性の元へと訪れた。


「大丈夫ですか?」

「はい。助かりました……まだ小さいのに凄く強いですね。あんなに大きなモンスターを倒せるなんて」

「いやいや、まだまだですよ。ちなみに何処か痛んだりします?」

「あ、いえ大丈夫ですよ」

「なら良かったです」


今自然と話をしてるからには恐らくオレが誰だかこの人は分かっていない。

まあ、それは当たり前か。


「今から僕は帰るつもりですがどうします?」

「あ、じゃあ一緒に行かせて貰ってもいいですか?」

「勿論ですよ」


オレはそう言うと女性と共にダンジョンを上がり始めた。しかし、この人が重要な人物であり、全てが父さんの思惑通りだということをオレはまだ知らない。





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