第9話 正体
オレが助けた女の人は黒髪のサイドテールが特徴的なメレナ・エミリアという名前で御年23歳、とてもお淑やかな女性だった。
子供であるオレにも敬語を使ってくれたり、ダンジョンを歩いているときに「ここ段差だから気を付けて下さいね」と注意してくれたり、とても良い人だった。
ちなみに彼女は西の街ガルティナから来たとの事なので、オレを知らないのも無理はないだろう。
そんな彼女とダンジョンで共にモンスターを倒しつつ無事に戻ってくることが出来た。
「後は階段を上るだけですね」
「それならオレの魔法で上に上がりましょう」
そう言ってオレはメレナさんの前に立つ。そして魔法を発動しようとしたときだ。
「 ――ま、もう必要はねーけど」
メレナさんの声のままそんな声が聞こえた。今の声は………メレナさんなのか?
と、その刹那に後ろから気配を感じて右に体を移動させるとオレが立っていた場所を中心に地面が揺れた。
土埃が舞っており人の姿は見えない。しかし、それが誰かは言う必要もない。
「んだよ、避けんなよ」
土煙を手で避けながら現れたその姿は間違いなくメレナさんだった。
「それが正体で…正体か?」
「まあ、そうだな。俺はこういう人だ」
一人称が「俺」って、どこのヤンキーだよ。
オレは正直、気付かなかった。メレナさん………いや、メレナの雰囲気やオーラまで全てが先程までとは明らかに違う。
ここまで隠すことが出来るのは彼女の技なのだろう。
「というか、さっきの攻撃は明らかに殺しに来てたんだが」
「ああ、そうだな」
「………何が、目的だ?」
「教える義理はねーな!」
そう言うと彼女の姿が消えた。
すると後ろに気配が現れる。オレはしゃがむと蹴りがオレの上を空振った。
危ねっ!
その後上を向くとそこには上げられた足が。
オレは跳び前転をしてその場から避けると、踵落としが炸裂しゴォォォン!と大きい音が鳴り響いた。
「ガチで……殺しに来てんのな……」
「当たり前だろ」
歩きながら近付いて来る彼女にオレは自然と身震いしてしまった。理解した。
彼女は、強い。
しかし、逃げる余裕もないだろう。つまり、やるべき事は一つ、戦うだけだ。
「逃げてばっかじゃ何も始まんねえぞっ!?」
喋っている最中にオレは彼女の目の前に移動する。加速魔法を使えばこんな事余裕だ。そしてそこからオレはジャンプしながら上に向かって蹴る。それを顔の寸前で避けられるとオレはそこから空中で回転して回し蹴りを入れようとする。
しかし、それも簡単に避けられてしまう。すると拳が目の前に現れ空中では避けることも出来ず、腹にそれが入る。
そのまま吹っ飛ばされ壁に打ち付けられる。
オレは壁から落ちて地面に落ちる。周りには煙が舞っている。オレはこの間に攻撃態勢に入った。
炎魔法で炎を生み出すと、それが弓矢を形作る。これは炎魔法と、その属性から形を作り出す「創成魔法」を使うことで成したものだ。
炎の矢を弓にセットして、弓を力強く放った。
その矢はまっすぐ彼女に向かっていく。すると、彼女は男勝りな豪快なけりをする。そこで激しいぶつかり合いが起こるが矢は力負けし消えた。
「今、明らかに殺しに来てたよな?子供でも殺人は犯罪だぜ?」
「お前が殺しに来てんだから別にいいだろ」
オレは今度は矢を三本創成し弓を引いた。
すると、メレナは魔方陣を展開しそれを拳の前にかざし、その拳は燃える鉄拳となり炎の矢を破壊した。
「その実力、ただもんじゃねえなぁ。オレの聞いた話じゃ運動神経も悪く魔法も使えないって聞いたぜ?クズ王子さんよ」
「結局オレの事も知ってるんだな」
「まーな。でも、あたしはお前の被害には遭ってねえからクズかどうかは知らねえな」
「なんだよそれ」
「ほら、戦いの最中だぜ。話は禁物だ」
「そうだな……って後ろ!?」
いつの間にか彼女はオレの後ろにいた。瞬きよりも速くなかったか!?
そして燃える鉄拳が襲うが、オレはその拳を今度はそれを受け止めた。なんだこれ重い!
「受け止めんじゃねーよ!」
「やなこった!」
オレはメレナの拳を放り捨て態勢を崩すと、その隙に彼女の腹にアッパーカットを決める。
しかし、直後にオレの体に彼女の蹴りが入った。
壁に向かって蹴り飛ばされるが、今度は壁に打ち付けられず足をついて着地し。そして、壁を蹴って腹を押さえるメレナの方へと飛びライダーキックの如く飛び蹴りをする。
しかし、それをメレナに片手で止められてしまう。
「ちっ」
「子供のくせに暴力かい。なら暴力的指導だ」
すると、今度はメレナの手が銀色に染まりオレの顔にその拳を炸裂させる。先程とは比べモノにならないほどの威力だ。
壁に打ち付けられるどころか壁を破壊し上が崩れガラガラと大岩がオレを襲った。
「どうした!そんなもんか!」
子供相手にそんな事言うんじゃねえよ。
押し潰す一つの大岩を上に持ち上げてオレは埋もれた岩から出てきた。
「子供でありながらその筋力とタフさ。そして、無詠唱に魔方陣を出さずして魔法を使う魔法のセンス。お前みたいなのは初めてだぜ」
「だろうな……」
転生者にチートは付き物だしな。
でも、考えてみれば10歳児がこんな喋り方しないよな。オレはオレのままで話をしている。やっぱり子供らしく話すべきかな?
ぼくはいまきれーなおねーさんにころされそーです。
気持ち悪くなってきた。
「マジで、何が目的だ?」
「なあに、俺は強い奴に興味がすげえあるんだよ。だから人を察知したらああやって殺されかけの哀れな女を演じてんだよ」
「意味あるのかよ……」
オレは大岩の山に腰掛けた。
これでアイツが油断してくれればいいけど。すると、オレにも言ってくる。
「んだよ、この程度で疲れてんのか?そんなんじゃいい男になれねーぞ?」
「お前にそんな事言われたくねえよ」
「……なんか、お前本当に子供って感じがしねえな。何もんだ?」
「………イレギュラーな10歳児だ」
ここでオレの正体を明かしても意味があるかないかと言ったらそれは後者だ。
関係ない奴にこんな事を言ってもしょうがない。
さて、メレナも恐らく今は油断してるな。
「そう言えば……お前、言ってたよな。戦いの最中に話は禁物だって」
「だったらなんだ?」
「その言葉、お前にそのままお返しするぜ」
オレは岩に触れるとそこから魔法を発動するその大岩から円柱が飛び出しメレナを襲った。これは『錬金魔法』だ。岩やらなんやらを変成させることのできる魔法だ。
「なっ!」
その円柱をメレナが拳で破壊するとその隙に地面に降り、更に地面に触れて錬金する。
今度は六角柱を地面から突飛させメレナの体に直撃する。
そのまま体を突き飛ばし彼女は上へと舞った。そして、水魔法で水を生み出すと創成魔法で少し大きめの銃弾を作り出す。
指を鉄砲のようにして彼女に向ける。
『
オレはその銃弾を放つ。彼女はその銃弾を破壊する、が、それをすると考えた上でのオレのこの攻撃だ。手をくるっと回転させ水はその動きと同じ様に回転する。
すると、破壊された水がヒモのようになっていき、メレナの体をそれが巻き付け体を縛った。
これがオレの本当の目的だ。なんだかんだ殺すことは本望ではないのだ。
だから、縛って警察に突きだそうと考えた。
「くっそ。これ取れねー」
「観念しろ」
「10歳の子供に負けるとはなぁ。一生の屈辱だよぉ。」
「うるせえ、お前が弱いだけだろ」
「………それで?俺をどうすんだい?犯すか?」
「10歳にそんな事言ってんじゃねーよ」
昔の父さんと母さんか。
「取りあえず城に突き出す。んで、裁かれろ。てなわけで行くぞ」
そう言ったとき、メレナがぼやくようにして言った。
「………合格だな」
「は?合格?」
何言ってんのコイツ。
「いや、実はさ。これ、お前のお父様に言われてやったんだよねー」
「…………は?」
「お前のお父様がさ、学園に入るに当たってちゃんとした実力とか色々出来てるか知りたかったらしくてさ。入学試験みたいな感じでやらせて貰ったよ」
………………………頭が追いついていない。
つまり、ここまでのこの戦闘はオレが学園に入るに相応しい者かどうかを見極める為に入学試験を兼ねたモノだったってことか?
「仮にそれが本当だとして、何でお前なんだ?」
「俺が学園長だからだよ」
「…………えっ?」
「俺が学園長だ」
……………………嘘ぉぁぁぁぁぁ!!!
「嘘じゃないの!?」
「酷いなぁ。俺は学園内じゃ若き女神の学園長として有名なんだぜ?」
「まあ、顔が可愛いことは認めるけど…」
確かに言われてみれば動きや魔法の事などなんだかんだめちゃくちゃ強いのだ。学園長と言われてみれば不思議には思わないだろう。
「それはそうと、この魔法解いてくれね?思いの外頑丈で全然取れない」
オレはその言葉に素直に従い魔法を解く。すると、埃をはたきながら言う。
「お前はさっき言ったとおり体術においても群を抜いているし、魔法の力もとんでもない。何より一番心配だったお前の人柄もむしろ好印象だ。お前は試験合格だ」
「へぇ、戦ってるときは脳筋みたいな奴だったのにちゃんと考えてはいるんだな」
「当たり前だろ。俺は学園長だぜ?」
まあ、ともかくどうやらオレは試されていたらしく普通に合格したらしい。
「ちなみに、どこの学園なんだ?」
「俺の学園は「リデスタル学園」。東西南北の街を含めた中でも最も魔法から体術まで実力者揃いの学園だ」
「そんな学園に入れるとは光栄だな」
「でも、試験は一応受けてくれ。試験内容の剣術とか筆記とかは分からねーから」
「了解。あ、後一つ。口調とか呼び方とか直した方が良いか?」
「好きにして構わねえよ。お前は気に入った」
まあ、お前に気に入られてもな。
ともかく、今回の件は只の試験ということだったので一件落着だ。しかし、父さんは後でしばこう。
あっ、そう言えば。
「メレナはオレとは全力で戦ったのか?」
「まあ、結構本気だったな。強化魔法とか使ったのは久しぶりだったし」
嘘ではなさそうだ。
どうやらオレは本当に強くなっているらしい。自重するべきなのかもしれないが、まあそこら辺はおいおい考えていこう。
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