第19話 リベンジ
旅行以来、私たちは4人でいることが多くなった。
そんなこともあって吉田さんや釜田さんを、香帆ちゃん紀ちゃんとお互い名前で呼び合うくらい親しくなるまでに時間はかからなかった。理絵は紀ちゃんと本の話で盛り上がっていて、香帆ちゃんも私のつまらないギャグに笑ってくれるようになった。
実に学校生活は平和だった。
でももうすぐ学年は変わってしまう。3学期に入ってから急に仲良くなったのでクラス替えが寂しいと思う。学力別にクラスを分けることもあって香帆ちゃんとは、恐らく違うクラスになるだろうし。
関係が深まったのを機に、この2人にならということで私たちの関係もカミングアウトした。
最初は2人とも驚いた様子だったけれど、今も変わらずに仲良くしてくれていて良い友達を持ったと思う。
「香帆ちゃんの好きな人、春日井だったんだね」
理絵はベッドを背もたれにしながら足を延ばして寛いでいる。
ここは私の部屋。今日は理絵が私の家に泊まることになっていた。
旅行の時に泊まりの約束を理絵としたが、今日がその日だ。
「翼はモテるよね。良い人だと思うよ、優しいしカッコいいし……ツッコミが気持ち良い」
「優はつっこんでくれる人が好きなの?」
「無視されるよりは断然良い」
「あたし結構優につっこんできたつもりだけど、春日井のつっこみとどっちが良い?」
「春日井かなぁ」
「ねーーー。すごいやきもち焼きそうなんだけどー」
「焼いてくれるの? やったー焼き餅食べたかったんだよね、醤油つけて」
「ぶっちゃけ優は春日井のこと意識したことないの?」
なんだ、これにはつっこんでくれないのか。
つっこむ余裕がないくらい本人にとっては重要な話なのかもしれない。
「んーどうだったかなぁ。YESかNOかで聞かれたらYESかなぁ」
「聞かなければ良かった~。もー最悪……」
理絵は体育座りになって顔を膝にうずめた。
「過去のことだからいいじゃん」
「やだーーやだーーうえーん」
すねた声をあげる理絵。
「理絵だって深瀬のこと好きだったくせに」
「あれは良いの。一瞬だったし」
「良くないから。深瀬が必要以上に筋肉ムキムキになって理絵が幻滅したら良いのにって思いながらプロテイン渡してたからね。バイト終わりに」
「あはは、なんでそうなるの? あーそういえば七瀬さんからプロテインもらったって嬉しそうに深瀬が言ってたの思い出したわ……」
理絵は顔を上げて笑った。
相変わらず理絵と深瀬は仲良し。
「深瀬はゲイだから理絵と仲良くしてても良いって思うけど……。他の男だったら嫌だな、と思う」
「あたしたち女同士で付き合ってるのに、男の人にやきもち焼くって変な感じだね」
「性別に瞑想してる」
「ねー」
もう男に嫉妬すれば良いのか女に嫉妬すれば良いのか分かんないや。
深く考えず、気楽な関係でいられたら良いなって思うけど。
「お風呂沸いたと思うから先入っちゃって」
両親が帰宅する前に、お風呂は済ませる予定だった。
ちなみに、妹は泊まりの学校行事で家にはいない。
彼氏とも仲直りして順調そうで、今回の行事で一緒に肝試しするって興奮気味に話していた。今頃、肝試しを堪能しているんだろうか。怖がったフリなんかしちゃって抱き着いちゃったりしちゃってるのだろうか。
「ねぇねぇ、一緒に入りたいなー」
理絵は少し甘えたような声で私の顔を覗きこんで来た。
旅行で一緒に温泉に入ることを躊躇って部屋のシャワーを浴びた私だが、今はもう覚悟はできている。
どっちにしろ後になって見せるものなんだ。恋人同士で一緒にお風呂、なんて妹の肝試しに負けないくらいには良い時間になりそうだし、やるか。
「家の風呂だから狭いけど良い?」
「全然良いよ。ちなみにどれくらい?」
「狭すぎて身体ハマって風呂から出られなくなったことある」
「ええ、そんなに狭いの?」
「嘘」
「嘘かーい!」
――――――――――――――
浴室に響く水音。
まず第一に……綺麗すぎる。感想はそれしか出てこない。
白い肌に形の良い胸、くびれたウエストラインに長い脚。下着姿は見てきたから想像はできていたけれど、やっぱり綺麗だった。なにせ色までも……。同じ人間なの?
美術の先生が「女性の身体の曲線こそ究極の美だ」なんて言ってたけど意味が分かった気がする。見事な造形美にため息が漏れそうだ。目線のやり場に困るのであまり見ないようにした。
「優、恥ずかしい?」
そんな私は今、お風呂の湯船で彼女に後ろから抱きしめられている。背中に感じる胸の柔らかい感覚と小さな2つのでっぱり。耳元から理絵の声がして、またそれが狭い風呂に反響して変な気分になる。
「恥ずかしいに決まってるじゃん。しかもこんな体勢、くっつきすぎ」
「当たってるの分かる?」
「……いつからこんなにえっちな子になっちゃったのかしら。お母さん悲しいわ」
「あはは。今日は優がお母さん役?」
「そうだね」
「でも今のポジション的には優は妹って感じ。小さい頃、お姉ちゃんがよくこうしてくれたの思い出すなぁ」
理絵には歳の離れたお姉さんがいる。こうしてくれたとは言うけれど、さすがに姉妹でこれはやりすぎでは?
「私も一応妹いるしお姉ちゃんだけどこんなことしたことないよ。今となっては裸晒すと汚物を見るような目でにらみつけた挙句、叫ばれて逃げられる」
「あはは、優の身体が綺麗だから嫉妬しちゃったんじゃないのー?」
更に腕に力を込められ、体と体の隙間が完全になくなった。
「のぼせそうだから少し離れて欲しいんだけど」
「やだよー。こうしてると愛し合ってる感じがするじゃん」
「愛し合ってるって……理絵は平気な顔していつも恥ずかしいこと言うよね」
「えへへ、優の反応が見たいからね」
すると理絵の手が私の胸に伸びてきた。
優しく包むように触れられた。
「ちょっと……」
「意外と胸あるよね」
「理絵には負け――ゃっ、」
理絵の指先が私の少々固くなった突起に触れたので思わず声が少し漏れた。
「んふふふ、かーわいっ」
抵抗しようと身体を離そうとするが、後ろから抱きかかえられていて、かつ水の抵抗がある中でなかなか抜け出すことができない。
思えばいつもいつもやられっぱなし。それでいいのか? 私はそのまま終わりにするつもりはない、反撃したい。今日こそは……。そう思いながら、唇を噛みしめて理絵からの止まない攻撃に耐えるのであった。
―――――――――――――――――
お風呂から上がった私たちは夕飯を済ませて、寝るまで部屋で談笑した。
理絵の分の布団は敷いてない。どうせ敷いたって使うことはないのは分かっているから。
もうお風呂で見せるものは見せた。失うものなんて何もない。
私はやると決めたらやるんだ。そうやって今まで覚悟を決めて行動してきたんだし、今日も例外ではない。
「理絵は地面で寝てもらって良い?」
電気を消して言った。
「ちょっと、それはひどくない?」
「かわいそうな子じゃ……。このままでは飢えてしまう、あぁ、哀れな子供よ。わしにできることと言ったら手持ちのパンを少々与えられるくらいじゃろうか」
「なに、そういうプレー?」
「……冗談。こっちおいで」
ベッドに入った私は掛布団を持ち上げ、誘導する。
「えと……うん……じゃあ、おじゃま……します」
理絵は私の言葉に素直に従っておずおずとベッドの中に入ってきた。シングルベッドだから2人入ると少し狭く、密着を余儀なくされる。
理絵の髪から香るシャンプーの匂いが鼻腔を満たした。同じシャンプーを使っているはずなのに、理絵は特別良い匂いがする気がする。不思議だ。
「優、良い匂いがする」
そんな私もお風呂上りに、妹のコロンを勝手に借りて少しつけている。良い匂いなようで良かった。
私の方を向きながら恥ずかしそうに目を泳がせている理絵。これから先待っていることに期待しているような、そんな表情を見て火がついたように身体が熱くなるのが分かった。
「ねぇ、襲って良い?」
「え? 襲っ――んんっ…………優……んっ」
彼女の首に手を回して唇を奪った。突然のことに驚いた様子を見せながらも、理絵は私の頭に手をまわしてそれに応えてくる。小さく漏れる鼻息と、熱い口内の感触。
だいぶ興奮しちゃってるかも。心臓の鼓動が少しずつ早くなるのを感じる。
私は彼女の上にまたがるように体勢を移動させた。旅行の時と逆だ。
「はっ……はぁ……はぁ……なんか積極的じゃない? どうしたの?」
上から顔を見下ろすと、力の抜けた表情で目を潤ませている理絵がいた。息が少し上がっているのが分かる。自分がいつも寝ているベッドに理絵がいる。そう思うだけでゾクゾクとした感覚が全身を駆け巡った。
「理絵が上の方が良かった?」
「いや……なんか優がこうやって求めてくれるのは、嬉しいけど……」
「私はやる時はやるから」
「んーっ……なんか……ドキドキする」
理絵の胸にそっと手を当てると、形の良い胸の奥から脈打つ鼓動を手の平に感じた。自分にドキドキしてくれている。それだけですごく嬉しい。でもきっと私も同じくらいドキドキしている。
「本当だ。心臓、ドキドキしてる」
「ちょっと、……恥ずかしいって」
「いつもこういうことしてくるのは理絵の方だよね? 少しは気持ち分かった?」
「それは優がかわいい反応してくれるからで……」
「お風呂で私にしたこと、理絵にもしてあげる」
「やっ」
理絵は手で胸を覆ってしまった。
「……」
無言で見つめると、おもむろに手をどけてくれた。
「照れ屋さんはどっちなんだか」
「そ……そんなこと、なっ……」
先端への刺激に加えて、理絵の首に小刻みについばむようなキスを落とした。
「ちょっと優、く、くすぐったいって……」
「我慢して」
今度は首に舌を這わせた。
彼女は目を瞑り、ひたすら私の舌の動きに耐えていたが、とうとう抑えきれなくなり、曇った高い声が喉元から漏れ始めた。女の人のこの声を直に聞く日が来るなんて思ってなかったけど、すごくそそる。
「んんっ……」
「親が下で寝てるんだから、あんまり声出しちゃだめだよ」
とはいいつつ、たくさん声を聞きたいと思ってる自分。
唇にそっと人差し指を当てる。妹は隣の部屋だから、あえて妹がいないタイミングを狙った。両親の寝る寝室とは距離があるから大丈夫だとは思うけれど。念のため、ね。
「……優ってSなの?」
「そういうつもりはないけど……理絵がかわいい反応してくれるから」
「うぅ……」
「いじめられるの嫌?」
「そんなことは……ないっ……。優にだったらいじめられても良いというか……」
困ったような顔をしながら口元に手を当てて上目遣いで見上げてきた。かわいい。支配欲が沸き上がる。
理絵ってこんな顔もするんだね。自分の手によって組み敷かれている彼女は抵抗する素振りを見せない。もっといじめたい。じらしたい。ふつふつと沸き上がる感情。自分にはそういう素質、ないと思ってたけど……理絵のスカートを何度かめくった時に少し感じていたそれが、何十倍も膨れあがって、私の中で爆発しそうになっている。
「その手、どけて?」
私の言葉に従って、おずおずと口元から手をどけてくれたので、彼女の唇を甘噛みした。
「ホン……トに…………はぁ……やば……いっ……て……」
理絵はキスの合間に唇が離れるタイミングで声を発する。
「何がやばいの?」
「こんなキ……ス、ずるいよぉ」
「こうしたかったんじゃないの?」
「うぅ……」
理絵の耳に触れるとすごく熱くなっていた。
そんな火照った耳に口を近づけて囁く。
「理絵が欲しい」
理絵は身体がビクっとなって、ひゃっと声をあげた。
耳、弱いんだね。そっか。
「ねぇ、声出しちゃダメって言ったよね?」
彼女の手を覆うように上から自分の手を絡めた。
指と指を縫うようにして握り返される手に熱がこもる。
「分かった……我慢する。我慢するから……もっとあたしを求めてよ、優」
「そう思って家に呼んだんだよ」
「……」
「大好きだよ」
「あたしも好き。今すごく幸せだよ、優」
再び理絵に唇を重ね、ゆっくりとパジャマのボタンに手をかけていく。
私は欲望のまま彼女に触れ、そして彼女も私を求めたのであった。
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