第2話 なんでそこでトラックが突っ込んでくるんだよ! と言いたくなるくらいいいとこで断ち切られる、異世界転生前の日常描写。
土曜の朝だというのに、今日のアーケード街には、もうたくさんの人が繰り出している。入口の広場には農協の出店だの、露店だの、そんなのも準備されていた。何かイベントをやっているらしい。そういえば、やたらチラシが飾ってある。
アーケード商店街のちょうど真ん中付近の人だかりから、チリンチリンと音が聞こえてきた。
なになに、秋の大抽選会。そういえば、何かチケットを貰ってたな。
カバンの中には、今月に入ってからこの商店街で買い物をした時にもらった抽選会の補助券が、ヨレヨレになって入っていた。
五枚で一回だから、三回できる。
せっかくだし、俺も並ぼう。
クジ運は悪い方だ。今まで参加してもらったものは、ティッシュ、クリアファイル、謎のキャラクターの缶バッチ。そんなもんだ。
どうせ当たらないだろうけど、看板に書かれた賞品を確認する。
三等、商品券。二等、お米。一等、ゲーム機。特賞、秘密。
……気になるな、特賞。まあ、どうせ俺がもらえるのは、参加賞のティッシュだろ。あ、違う。飴一個だ。セコイなあ。
横に置かれたベルを男性が取って、鳴らしている。
前の人が商品券を当ててしまった。こういう時は、だいたい次のヤツは当たらない。
ついてないな、と思いながら八角形の福引器を回す。正式名称は「新井式廻轉抽籤器(新井式回転抽選器)」と、言うそうだ。
白、白……
最後の三回目で出てきたのは……金色の玉!??
「おめでとうございます、特賞が出ました! 特賞、商品は……」
「商品は!?」
ガランガランガランと、大きなベルの音がうるさい。当たったのに興奮したのか、周りもきゃあきゃあ騒ぎ出し、ガシャン、ブオンと機械のような音までしてる。何の演出だ?
目の前でベルを鳴らしていた男性は、突然大声を出してベルを投げ出し、逃げろと叫んだ。
どういうことだ?
俺が振り向くと、トラックがすぐ近くまで迫っている。
ここ、今日は歩行者天国だよな!? あ、搬入許可車と書いた札が助手席に……、とか見ている場合ではなかった。
すっかり逃げ遅れた俺は、そのままトラックの下敷きになってしまった。
「はいはーい! おめでとうございま~す、抽選の結果、貴方に異世界転生スキル付きの特権が与えられまーす!」
「……っは!? トラックは?」
いや、はねられて死んだのか? 目の前にいる、この女性は? そしてこの遠くまで見通せるようで霞んで景色が消える様な、この不思議な場所はどこだ?
「貴方は亡くなったんですよ。ここは死後の、魂の領域です」
「ま、マンガみたいだな。……じゃあ本当に、異世界転生するのか……」
「そう。諦めてね、もう貴方の葬儀は終わってるわよ。見る?」
「いや……」
俺は死の直前の様子を思い出していた。そうだな、生きているわけがない。不幸中の幸いと言うか、新しい場所へいい条件で……ん? 抽選?
「心残り? 夢枕に立つくらいなら、出来るわよ」
「それよりもっっ! 特賞は何だったんだ!?」
「何ソレ?」
俺は死ぬ直前に人生最初でまさに最後の、クジで大当たりを体験したんだ! しかし肝心の賞品が解らないままだ。これでは心残りで、死んでも死にきれない!!
「俺が死ぬ直前に引いてた、商店街のクジ! 特賞を当てたんだけど、賞品が解らないんだ!! 何だったか、知らないか?」
「そんなの知らないわ。いいじゃない、死後の抽選に当たったんだもん」
「良くないっ! 気になってしょうがないよ!!」
「ん~。トラックが当たった、とでも思っておけば?」
「確かにあたったけど、クリティカルヒットだった、けどもっっ!!!」
そういうことじゃなく~!
結局、特賞の賞品は謎のまま異世界に行くことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます