恋におちて
これまでも眞紀とデートする為にこまかい嘘を重ねてきた
しかし、今回は急に決まった土日の泊まり
仕事のせいにはできそうも無い
昨夜、眠れない布団の中で僕が考えた口実は急な同窓会
僕の閉じたアカウントへ連絡が来ていたが、昨夜まで気づかなかったと言う設定を作り、綻びが出ないように言葉少なく嘘をついた
妻が怪しんでいる素振りも見えたが、それに気づかない事を装い僕は嘘を付き通した
家の問題はどうにかなった様子だったが、僕にはもう一つの心配があった
それは・・・
眞紀は本当に来るのだろうか?
来たとしても本当に泊まるのだろうか?
いままでの経緯を考えれば、あり得ない事ではない
しかし、確認を取る事も念を押す事も、よい方向には転がらないと思った
僕はドタキャン覚悟で当日を待った
最低限の待ち合せのみの連絡しか取らずに
12月14日
無事に眞紀と合流し、僕達の熱海一泊旅行が始まった
横浜から熱海までは在来線で1時間半
いつものように他愛ないハナシははずむ
熱海に着く
僕たちはどういう風に見えるのだろうか?
夫婦に見えるのか?
それとも不倫丸出しなのだろうか?
そんな、どうでもいい事を気にしていても仕方ない
他人にどう思われても良いのだ
知人に会う確率も0ではないだろうが、その時はその時
僕は頬を両手で張って気合を入れなおす
何の気合だろうか?
とりあえず食事をして、眞紀のリクエストで僕たちは初島へ渡る船に乗った
眞紀と船に乗るのは2回目
そう、マリーンルージュ以来
あの時とは違い、窓から見える景色はどこまでも果てしなく広がる海
食事をするわけでも無く、ただ一緒に座っているだけ
眞紀を窓際に座らせたので、僕の視界には眞紀と海
ただ眞紀の横顔を愛おしく見ていた
僕の視線を感じたのか、時折眞紀が振り返り
何?
と、聞いてくる
僕は黙って頷くだけだった
初島を散策し、灯台に登った
天気が良ければインターコンチネンタルホテルも見えるらしい
でもこの日は晴れていたが見える事は無かった
僕は誰もいない灯台の展望台で眞紀を後ろから抱きしめた
眞紀も僕の手を包み込むように受け入れてくれる
夢のような時間
僕の最高の至福は、またもあっさり更新された
初島から本土に戻る頃、日は暮れていた
僕と眞紀は宿へ向かう
部屋に二人きり
当たり前だが二人きりだ
眞 温泉入ろうか
僕 一緒に?
眞 混浴じゃないよここ
僕 混浴だったら一緒にはいるの?
眞 バカ・・・
僕 バカなのは仕方ないよ
眞 そうだよね
眞 私もバカだし
僕 バカはバカ同士だよ
眞 何それ?
僕 温泉いこうか
眞 うん
一緒に大浴場へ向かう
先にあがった僕は部屋で眞紀を待つ
10分くらいだっただろうか?
いろんな思いが交錯していた
そして眞紀が帰って来る
半乾きの少し開いた髪の毛
コンタクトではなく眼鏡
薄化粧をしているようだったので聞いてみたがスッピンだった
全然変わらない
むしろ色気が増していた
なんとなくぎこちない僕と眞紀
どうでもいいテレビを見たり、少し飲みなおしたりしていた
僕が耐えきれなくなったわけでもなく、ましてや眞紀から誘ってきたわけでもない
何かのリハーサルをしていたかのように自然にその時は来た
僕と眞紀は愛し合った
多分、最初で最後の事である事はお互いに知っている
惜しみあうわけでもなく、悲壮感もなく
僕と眞紀は愛し合った
こんなにも綺麗で
こんなにも美しい
そしてこんなにも可愛い
眞紀は最高の女
世界中の男性全てに対して優越感を感じていた
ただ不思議と眞紀と離れたくないとは思わなかった
強がりではなく、本当に思わなかった
そんな事を考えながら、僕も眠りについた
僕は眞紀よりも早く起きた
カーテンから差す朝陽が眩しかった
そして、僕の腕の中の眞紀をずっと見つめていた
瞬きをなるべくしないように
その姿を焼き付けるように
愛おしくてたまらなかったが、その眠りを妨げないように
ただ見つめていた
やがて眞紀は目を覚まし、少し枯れた声で
眞 おはよう
僕 おはよう
僕 やっぱり眞紀はかわいいね
眞 バカ・・・
僕 バカ同士でしょ?
眞 そうだけど・・・
僕たちはその日もいつも通りにデートをし、普通に観光して帰路についた
横浜駅到着は16時
僕 お茶でもしてから帰る?
眞 うーん・・・
僕 お茶すると流れでご飯食べるだろうし
僕 ついでに飲んだりするとキリが無いよね?
眞 うん
僕 今日はこのまま帰ろうか
眞 そうする
僕 じゃあね
眞 二日間ありがとう
僕 うん
僕と眞紀は各々の家族の待つ場所へ戻った
熱海のお土産を買う事もなく
1枚の写真も撮る事もなく
何事もなかったように家へ帰った
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