君の瞳に恋してる

平日 15時~18時


彼女へ僕が連絡をする王道の時間

僕は通常、会社の机で携帯を充電しているので、震えればすぐにわかる

対して彼女は業務中は携帯をしまっており、震えても気づくことは無い

15時に彼女の退社を見届けてからコンタクトを取るのが1つのパターン

しかし流石にずっと携帯をさわってる訳にもいかない

なので15時のラインは挨拶と簡単な連絡

それ以上の細かな意思疎通は17~18時くらいが常


18時以降に彼女から連絡が来ることはない

もちろん僕からもしない

二人で定めたルールではないが、互いに相手の事情を配慮した枷




火曜17時にライン送信


僕:お疲れ様

僕:宿題できたかな?

真:お疲れ様です

真:木曜天気良くないみたいなんですよね・・・

真:私ハレ女なのに

真:でも前回も雨だったんですよね・・・

僕:うむ。前々回のランチも雨だったけどね

真:(泣いているスタンプ)

僕:でも少しづつ天気予報変わってきてるから大丈夫だよきっと

真:ですよね?雨確率も40%まで下がりましたから

僕:ハレ女の効力でもっと下がるだろ

真:(笑ってるスタンプ)

僕:で、宿題の方は?

真:カップヌードルミュージアムとか三渓園とかですかね?

真:カップヌードルの方だとオマケもありそうだけど

真:三渓園は行った事無いし

真:あるいはマリンタワーとか

真:行きたい場所多すぎて迷っちゃいます

僕:マリンタワーは閉鎖中だから三渓園にしよう

僕:行った事無いけど、多分山下公園付近からバスとかあるはず

真:じゃあ三渓園でお願いします


~速攻で三渓園への交通手段を検索~

タクシーでも近そうだけど昼間のバスとか空いてそうで趣もありそう

ここはバスだ


僕:直で行けるバスありました

僕:20分弱で着くみたいだね

真:良かったです

僕:ついでに天気予報で雨率20%まで下がった

僕:さらに☀マークを目視!

真:良かったです

僕:流石ハレ女!

真:(喜びを表すスタンプ)

僕:じゃあ具体的な待ち合わせ場所は後程

真:私は日本大通りから歩きます

僕:僕は元町中華街からだけど、どちらでも変わらない感じだね

真:そうなんですね

僕:11:30から受け付けて、11:45から乗船できるみたい

真:わかりました

僕:じゃあ明日連絡します

真:お願いします

僕:はしゃいでスマン

真:(笑いのスタンプ)


僕の帰路の地下鉄は30分

その間のやり取り


その日の夜

僕は三渓園への交通手段を再度調べ、バス停の場所もしっかり把握

彼女をエスコートするにあたり、ノープランで途方に暮れるとか絶対嫌だから

水面下でしっかりと計画を立てつつ、当日は努力の欠片すら見せずにいる

それが粋ってやつだ


無論、彼女に課した宿題に対応する下調べも万全だったはずだが、流石に三渓園は正直ノーマークだった

僕は歴史的建造物みたいなものに殆ど興味が無いのだ

しかし三渓園は、俄然デートコースに組み入れるべき場所だった

何故なら、基本観光地なので知人に遭遇する可能性が殆どないのだ

そして平日午後なら、来園者自体少ない様子だ

そう、三渓園は歴史的建造物であるとともに、広くて静かな公園なのだ

これほど彼女とのデート

平日に仕事を休んでするデートに相応しい場所はない


彼女に宿題を課しながらも僕にも一応のプランはあったが、三渓園はベストチョイスと言える選択だと思う


当日はマリーンルージュが起点

ちなみに彼女はマリンルージュと呼ぶ

サザンの唄ではマーリンルージュ

これは歌い方のアクセントだろうけど


正式にはマリーンルージュ

HPで何度も確認しているから間違いない


マリーンルージュはサザンの唄に出てくるクルーズ

できれば、その後のコースも歌詞をたどるのが王道だろう


唄のデートコース


マリーンルージュ(で愛されて)

大黒ふ頭(で虹を見て)

シーガーディアン(で酔わされて)


ここから構築していく


まずマリーンルージュはクリア

予約も取ったし乗り場も確認済


そして大黒ふ頭だが、調べると山下公園から直通のバスが出ている事が判明

ここでも平日の観光地バスは空いてそうだし、趣があると言う思考に至る

所要時間20分程度

何より当日は雨予報がハレに変わりつつある雰囲気

これは虹とか見えちゃうんじゃない?

と、大自然の大盤振る舞いに図々しくも期待しよう

バス到着場所の近隣デートスポットを調べると


あった!


タワー的な展望台とスカイウォーク

これは決定かと思ったのだが・・・


調べを進めると重要な事態が判明

大黒ふ頭の施設は平日やってないのだ

調べても調べてもやってないのだ

つまり大黒ふ頭に平日行っても、ふもとを散歩してベイブリッジを見るだけなのだ

車デートならまだしも、公共交通機関で移動したのでは間延びしか想像できない


うむ

却下


でもクルーズ中に余裕で大黒ふ頭は見える。そこで虹も見る

これで2つ目はクリア


シーガーディアンは山下公園付近のホテルに属するバーだが、クルーズランチ終わりから直行するには時間的に無理がある

そもそも営業開始は早くて17時くらいだろう


ならばバーは、みずほふ頭のスターダストにしよう

一応行った事もある。雰囲気はかなり良い場所


夕方までは山下公園付近で過ごそう

大さん橋は屋上が良さげ

マリンタワーは閉鎖中なので・・・

中華街で肉まん食べるのも良し

彼女はアクティブだから、港の見える丘公園や外人墓地までの散歩も捨てがたい

最後にタクシーで移動し、スターダストで酔わされよう


これに彼女の宿題の成果を合わせればかなり満足度の高いデートができる

でもこれ以上詰めて考えると、分刻みの修学旅行のような行程になりそうだ


優雅に楽しく過ごす

構想はいろいろあったのだが、彼女リクエストの三渓園を挟もう

後は当日に成り行きで

血沸き肉躍る、とはこのような感じなんだろうか?




そして僕にはクリアしなければならない1つの問題があった

当日何を着ていくか問題だ


別に数多ある洋服からどんなコーディネイトで行くかを迷ってるわけではない

単純に、私服で行くか仕事用のスーツで行くかの選択である


平日に休みを取る事は多々あるが、寝間着の延長のような姿で出かける事が常で、長くても2~3時間程度で帰宅する

間違いなくデートのいで立ちではなく、時間も全然足りない


一番確実なのはスーツを着て、仕事の体で出かける事。詮索される要素が殆どない

或いはスーツで出かけ、何処かで着替える作戦

荷物にしたくなければ車で着替えれば良いだけの事だ


しかしそんな公衆トイレで着替える女子高生の様な事はしたくない

何より想定外のトラブルで、お着換えが露呈した時は怪しさ100%だ


暫し考えて

僕は妻に言った


「明後日私服で仕事なんだけど、紺のジャケットって何処にある?」


予想通り、何故私服なのかと問う妻


「なんか職員さんのお楽しみ会っぽいイベントに招集されちゃって、私服マストみたいなんだよね」


と、答える僕


想定通りのやりとりをして洋服問題を解決

特に怪しまれる事も無くジャケットを出してもらい、インナー等を合わせて妻に意見をもらいながら当日の衣装を決めた

僕がジャケットのありかを知らないのは凄く不自然な事なのだが、特に懸案事項にあがる事はなかった


もう一つ付け加えれば、日程は違うものの、そのようなお楽しみ会が存在する事は事実

しかしそのイベントに僕が出席する事は、今後も含めて多分ない


嘘は嫌いだ

つくのもつかれるのも


だからと言って、彼女とクルーズに行くとか言える訳もない

自分を納得させる為、僕は僕の言葉を強引に解釈した


「職員さんのお楽しみ会っぽいイベントに招集された」

を脳内で解釈


職員さん=彼女も職員さんと呼べないわけではない

お楽しみ会=僕にとっての最上級のお楽しみ会


つまり

職員さんのお楽しみ会に招集された、である

(元を辿れば誘ったのは僕だが)


現代文の解釈などど言うものは、解釈する側の自由

罪悪感はあるが、想いがそれを塗りつぶしていた


でも、ここだけ

今この時だけ見逃して欲しい


そう思いながら僕は三渓園を組み込んだデートコースの下調べを入念に行っていた




水曜日17時にライン送信


僕:明日の待ち合わせどうしようか?

真:マリンルージュの乗り場付近で11:30でどうでしょう?

僕:了解。じゃあ着いたら連絡ください

真:多分15分前くらいには着きますけど、着いたらラインします

僕:うむ

真:楽しみにしてます

僕:くるしゅうない



明日のデートに備え、膨大な時間を費やした

それは至福の時間、至高の雑務

そして僕は明日に備え、いつもより早く寝る努力をした


・・・が

・・・眠れない

寝ようとすればするほど眠れない

遠足前日の興奮した子供そのもの


仕方がないので羊・・・

では無く、マキマキを数える

ここでのマキマキはビジャブを纏ったイスラム美女であり、真木さんとは別のキャラクター


マキマキが1人

マキマキガ2人

マキマキが3人

・・・・・・


なんか分身の術みたいになってきたぞ?

訳の分からない睡眠導入法を試す、かなりおかしな僕

かつてこれ程、朝が待ち遠しかった事があっただろうか?

それでもやっと睡魔が訪れ、なんとか薄れゆく意識

最後に時計を確認できたのは2時頃だったと思われる


ようやく幸せ100%で、僕は浅い眠りについた

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