Side Episode 1【親友の苦労 1】

「はぁ………」


 二限の終わった後の休憩時間。俺──響谷和輝は廊下で超盛大なため息をついていた。



 もちろん理由は、あのヤツのことだ。



 それこそ、『そっくりさんが転校してきて超ビックリしました』で終われるのなら万事問題なし。悩む理由がないんだが、どう見てもアレは『そっくりさん』という次元を超越して、十次元プラスmにまで突入するほどの似通い様だった。


 アイツが転校してきたことで、コウはあの後からずーっと超呆けた様子だった。


 ───きちんと当てられたら答えるから尚更心配なんだよなぁ。はてさて、あれは本当に呆けたと言えんのか。


 一応四組に来てみたけど、コウは机に突っ伏す訳でもなくただずっと座っているだけ。俺が遠くから声をかけても反応超無いし、今も身動き一つせずにいやがるから、こうして廊下の壁にもたれかかって、超くつろいでいるという訳。


 兎も角、まずはあのアマの方からなんとかせねばなるまい。そう決めてから俺は思考をま───


「ひ、響谷くんっ!」

「うぉわっ!」


 超突然話しかけられて変な声を上げてしまった。振り返ると、そこにはやや明るい黒のボブの女生徒が。ジッとこっちを見つめている。


「なんすか? 俺、大事なヤツとの将来設計について超真剣に考えてたんですけど」


 嘘じゃない。嘘じゃないんだが、どっかそこはかとなく、親友の女友達と結婚した後についての話にも聞こえなくもない、そんな言い回し。


 まぁ別に、俺はこの女生徒の話の内容を超何となーく察していた・・・・・・・・・・から、意図せずこんな返しになった。


 実際、女生徒の方もその返しに一瞬だけ驚き、次いで目を伏せた。ただ数秒後には元気を取り戻したのか、再びしっかりとした目線を送ってくる。


 コイツは・・・・なかなか骨があって面倒だな……。


「わ、私! お隣の………二組の山崎です!」

「…………一組の響谷だけど」


 ふふ。少し笑って「存じてます」と言われる。


 女生徒───もとい山崎さんの後ろから「ガンバレ!」なんて声が聞こえてくる。


 恐らく超仲の良い連中なんだろ。俺には聞こえてないとでも思ってんのか、数m空けた所から穴があくほど見つめてきてる。


 ……………ああ、超超めんどくせぇ。こっちはコウの事で忙しいってのに。


 友人の声援を受けた山崎さんは、やっとこさ話を切りだした。


「えっと………と、突然なんですけど………」

「あ大丈夫。話しかけ方から突然だったから超今更感」


 先程と同様、つい言葉の端々に棘が出てきてしまう。


 まだ、俺も慣れてねぇのかな………。


「───こ、これ! 受け取ってください!」


 そう言って突き出されたのは、一通の便箋。


 ピンク色の封筒から中の文字がうっすら読める様な、それでも何でもない、超どこにでもあるような可愛いヤツ。女子の好きそうな。


 これまた可愛い感じのマスキングテープで封がしてあって、『中』は恐らく───まぁ、恋文ラブレターだろうなぁ。




 ──俺、響谷和輝は、何故か。本っ当に何故かモテる。こう言っちゃなんだが。


 自分としては特に好意を振りまいてる気もしてないし、好かれる要素なんて超無いはずなんだがなー。よくこうやって告白なり、ラブレターを渡されたりする。


 別に恋愛はしないって訳じゃあないけど、どうも乗り気じゃないってゆーか、そんな感じで、だからこれまでのらりくらりと断って来た。


 コウは超全く生気の無い目で『モテ男』なんてはやしてたけど、実際問題、俺にその気が無いんだからいい迷惑だ。


 昔に一回だけ、俺のどこがそんな告白するほどにいいのか聞いたら、別のクラスなのに「運動が出来てカッコイイ」だの、大して話したことも無いのに「優しいトコロが素敵」だの言われた。コウじゃないが、何故かは気になるものの、あれ以来恐ろしくて聞けてない。


 運動が出来て……なんて、レギュラー入れる様になってから言われたいもんだな。結局、俺的に自己評価は出来てない判定だから超嫌味にしか聞こえてかなわない。


 そんな訳だから、俺には恋愛している余裕なんて超無い。無いし、余裕があったとしてもする気は無い………と思う。

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