桜羅と、三人きりの対話の夢  2

「───確かに、似てるっちゃ似てるか」



 回想を終え、そんな感想が和輝の口から零れる。


 桜羅が、先の鏡介の問いに答えを返す。


「い、いえ。私の警戒対象は主に人、と言いますか…………正直、警戒するかと言われたら答えはNO……です」

「あ、ホントに超似てた」

「──やっぱりか………」


 『やっぱり違うのか』と、言外にそうと分かる鏡介のため息が虚しく響く。


 容姿、髪型、顔に性格に、声と喋り方。話せば話す程に共通点が見つかっていく。


「結局何の話?」


 桜羅が話を戻し、わざわざこ こ空き教室に連れてきた目的を問う。


「単刀直入に言う。不知火桜羅さん。貴女は、俺とカズ……そこの響谷の幼馴染、桃倉知花と瓜ふたつなんだ」


「えっ。それって、ドッペルなんとか? えと、それとも──」



 ──そっくり瓜ふたつな人が、この世には三人いるらしい。



 その言葉を受け、和輝が首肯する。


「そりゃあ……俺も思った。超現実味ねーし、そこまで行ったら寧ろ──そう思ってもしゃーねーよな」

「だよな。同感だ」


 全く同じ人間が二人いる。と言われるよりは、そのドッペルなんとかを信じた方がまだ現実味があるし、何より簡単だ。


「そんなんUMAの専門家じゃあねぇし、超知ったこっちゃねーな」


 それが全員の総意だった。


 それでもなんとかしようと、そう和輝が言おうとしたが、桜羅の浮かない顔がそれを遮った。


 何故か緊張した面持ちで、何か訳あり顔で、───とても辛そうに。


 なんとか絞り出した科白は、鏡介のトラウマを穿った。


「───私の意見としては、赤の他人なのでどうでもいいのですが」

「なんか超冷てぇな!」

「……………………」


 乾いた音が響く。それは、鏡介の舌打ちだった。

 和輝でも慣れない鏡介の怒り。和輝はその琴線が解らずにしばらく狼狽えていた。


 そして、それ舌打ちをどう捉えたのか、おもむろに、桜羅が立ち上がり、帰ろうとする。


 ───桜羅はどうやら、モカより大分気が強いようだ。人見知りというよりは、ただ単に一人が好きなクチなのかもしれない、と和輝は思った。


 その他は目を見張る程に似てるが。


「──ちょっ、待っ」


 スタスタと、桜羅は教室から出ていってしまった。


 その少し後、廊下から声がしてくる。


『ん? もう話はいいのか?』

『はい。大丈夫です。お騒がせしました』


 勝手に昴と話を終わらせ、遠ざかっていく気配がする。


「………コウ、どうする?」

「────」


 鏡介はしばらく呆然と。いや、悄然とした様子で、桜羅が出ていったドアを見つめていた。

 やがて和輝の方を見ずに一言。


「やっぱ女ってめんどくせぇ」


 何となく、鏡介の怒りに思い当たるものがあった。

 即ち、



「あー………、そーいやコウってばモカ以外の女子超嫌ってたなー」



 そうだった。言い方が悪ければ知花以外の女子に興味が無い、と取れなくもないほどに、鏡介は女子が嫌いだった。


 ──主に、絡むのが。関わるとも言っていい。


 何があったのか和輝は知らないが、気付けば鏡介はこう・・だった。

 話してくれる様子も無かったので、特に和輝も知花も触れなかったのだが。


 ともかく。





 ───こちらのコミュりょく、相手の性格的にも、深追いは止めた方がよさそうだった。

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