桜羅と、三人きりの対話の夢 1
「────取り敢えず。何があったんだ?」
東校舎の空き教室に移動──偶然、HR前に鏡介と蒔菜が来た場所だった──して腰を落ち着けたところで、昴が話を切り出す。
「それについてなんですけど先生、ちょっと、俺らだけにしといてくれませんか」
和輝は、椅子に座って、先程からずっと静かな鏡介に目を向ける。
「あー……、まぁ良い。廊下にいるから、終わったら呼びなさい」
「超ありがとうございます。なるべく聞こえない様にしますんでお願いします」
あぁ、と残し、修二が昴と共に教室から出ていく。ドアが閉められ、完全に三人きりになったところで、最初に口を開いたのは意外にも桜羅だった。
「ひ、一つだけ聞いていいですか……?」
「なんだ? 一つと言わず、何でも超聞いてくれ」
「ま、まずなんですけど………」
「ああ」
「私……、これから
「は?」
その質問に、隣に座る鏡介ばりに目が虚ろになる和輝。
「────超一応聞くが、何て言った?」
「…………? こ、これから私襲わ───」
「超分かった。聞き間違いじゃなかった」
あくまで、『和輝の聞き間違いではないこと』が分かっただけである。
「それで結局どうなんですか?」
「廊下には先生いるぞ? しかも二人」
「警戒とは大事なのです。私、石橋を叩き過ぎて壊して叱られるタイプなんです」
「あーそう。超共感しねぇわ」
和輝は基本行きあたりばったりだ。別に意外でもなんでもないが、ごくたまにマトモな思考回路で動くときがある。──ごくたまに。
なんて中身の無いやり取りを交わし続け、一向に本題に入らない和輝。そんな和輝を急かすこともなくいきなり、唐突に。
「───なぁ、暗い夜に交差点渡るとき、貴女はどうする?」
「うわっ。コウ!? 大丈夫なのかよ!」
「ああ、俺自体はいたって大丈夫だ。──どうだ?」
『虚ろな目』状態から回復した鏡介が、開口一番にそんなIFの質問を飛ばす。
そういえば、と和輝は思い出す。今はもう遠い記憶だが。
知花は生粋の人見知りで、小学二年の秋の頃、男子に苛められ、更に人間不信が悪化したときがあった。あの時は鏡介や和輝までもが知花に距離を置かれ、半泣きの鏡介と共に知花に事情を聞いたものだ。
あの時は確か、先生や親に相談するでもなく、その連中に呆れた和輝と、知花の態度に泣かされた鏡介の、恨みと怒りで十割の鏡介の拳が苛め男子共に突き刺さったことで決着。知花の好感度上昇と、ボコられた男子への救護スキル獲得を報酬に終わった。
いや、終わったのだが、その恐怖を引き摺っていたのか、それ以降もやや人見知りが加速していた気がする。
出会って最初の頃や、それこそ苛められていた時ほどでは当然ないのだが、知らない人、そこまで親しくない人と接するときには必ず警戒が先に来ていた。
知らない人は未知の人種だとでも思っているのか、何をされるのか分からないというのは過去の経験則から思って仕方ない部分はあるが、ちょっと過剰なのだ。鏡介や和輝達、非人見知りにとっては。
けれど知花の場合は、別に周囲に常に気を配っている訳ではなく、話しかけられてからスイッチがONになる。
具体的に言うと、校舎の曲がり角で人とぶつかり、謝られては「ごめんなさい」が言えずにどもっている。そして、それを学習せずに繰り返す。
いつも事故を起こし、その度にどもっていたが、ただしぶつからない様に気をつけはしない。
ひたすらに、鏡介達を使って会話の練習をしていた。そして、ぶつかってはどもっていた。
そんな、ほわっとしていると言うか、どこか抜けているのが知花だった。
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