大切な、大切な家族の夢  2

 ラブコメや少女マンガなど読んだことが無いが、それでも恋人というのには憧れた。


 自分から告白して、OKを貰って……もしかすると別の人が立ちはだかるかもしれない。フラレるかもしれない。けど良い。恋愛に、友情と青春を綯い交ぜな  ま  にして、追加で少しだけ男の決闘みたいな。それが鏡介なりのラブストーリーだった。



 けれど今は。

 今更、望めない。



 このタイミングで大切な人が出来てしまうと、また喪ってしまいそうで。自分はもう嫌なのだ。


 例え片思いの相手でも、幼馴染でも、親友でもだ。もう一度大切な人を喪ってしまえば、今度は自分は原型を保てなくなるだろう。二度目は無い。確実に。あり得ることではないが、何故か漠然とそう判るモノがあった。


 次喪うのは家族かもしれない。今はまだ目の前にいる虹架かもしれない。だから、決して関わらず、拘らず、想わず、縛られない。それが、鏡介の己に課した【四原則】だ。


 今既に関わってしまった人は仕方がない。が、大切を亡くすよりは、知らない他人が死んでいく方が余程マシだ。周りになんと言われようが、そこだけは変わらない。


 日本では年間に、交通事故だけで四千人もの生命が無くなるらしい。その一つ一つに悲しんでやる必要も、義理もない。まして、すくってやることなど。


 ──自分には、人には。他人の時間を奪っていくことしか出来ないのだから。



           ✼



「……いちゃん? お兄ちゃん?」

 思考の海から帰還すると、鏡介の肩を揺すっている妹の姿が視界いっぱいに映った。


「ん? あぁ寝てた」

「立ったまま!?」


 変なのー。と笑っている妹を見ていると、やはり「失いたくない」という思いが込み上げてくる。


 失いたくない。だが、今度は自分が消える番かもしれない。一瞬だけ、モカの所へ行けるなら良いかもな、と思った。

 不覚にも、思ってしまった。


 自意識過剰かもしれないが、自分が死ねば、悲しんでくれる人がそこそこいるはずだ。家族とか、和輝とか。親戚の姉さんも、結構仲が良かったし泣いてくれるかもしれない。それ以外には浮かばなかったが、万が一自分が死ぬのなら、悲しんでしまう人も少ない方が良いに決まっている。


 結局、人はどうせ死ぬ。それは人が人である限り不可避だ。なら、「大切」が先に逝ってしまうなら出来るだけ悲しむ回数を減らし、自分が先に逝ってしまうのなら、そのせいで悲しんでしまう人数を減らす。


 それが、知花を失い、絶望を垣間見た鏡介の、短い人生なりの最大の決断だ。


 虹架が、未だ笑いを引き擦りながら脇を抜け、洗面所に消える。鏡介は意味も無くリビングのソファにうつ伏せで寝転がる。


 ────そういえば、虹架は何故朝五時過ぎから起きているのか。鏡介が知らなかっただけでいつもそうなのかは分からないが、あとで聞いておこう。



「……ッ。────────違うんだよ」


 今も、また。


 知らぬからと、今も新しい虹架の一面を知ろうとした。こうしてまた思い出が増えていき………亡くせば弾けるのだから。


 やめようと決めたのに、いつもこの調子で。後々に後悔してしまう。


 結局人間は、何を決意しようが、いつもこれまでの生き方は結局変えられない。


 秘めて、決めて、藻掻いて、足掻いて、間違って、やり直して、乗り越えて、慣れて、過ごして、そして、失っていく。


 今はまだ、秘めた段階だから、これから藻掻いていくんだろう。それまでは歯痒いだろうが、それも結局乗り越えて慣れていくしかない。


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