あの日、何が起きたのか振り返る夢

 しっかり馴染んだ鏡介達は、年長になる頃には更に仲良くなり、週に一回は必ず誰かの家で晩御飯を頂いたりと、まさしく幼馴染でございといった関係になっていた。


 付け加えると、和輝の部屋からは鏡介の部屋へ飛び移れるのだが、和輝の家の窓の方が高い所にあるため本来一方通行である。小五のときに和輝は、背の高さと身体能力のゴリ押しでギリギリ帰還していた。あれには鏡介も知花も大いに驚いた。一番驚いたのは和輝の母だが。


 そんなこんなありながら、三人は中学生になっても仲良しであり続けた。

 そして、三人もこの関係がずっと続くのだろうと思っていた、思い続けて十何年のそんな頃。



 ──事件は起きた──



 中二の秋。委員の仕事が長びいて帰りの遅くなった知花が、十字路をよく見ずに渡り、横から乗用車にねられた。即死ではなかったものの、恐くなった運転手がその場から逃げたのだ。


 時刻も委員会のせいで午後七時、秋のそんな時間から態々わざわざ外出する人もおらず、発見された頃には息絶えていた。


 ぶつかった後も意識はあったようで、その場にはったようなあとがあり、それが痛々しさをより一層引き立たせていた。


 運転手は逃げこそすれ、ドライブレコーダーより飛び出した知花にも責はあるとされ、運転手はそこまで重い刑は課されなかった。


 そして悲しいことに、そもそも、知花の委員の仕事が長びいたのは、鏡介が熱で学校を早退したからなのであった。


 その報せを聞いた鏡介は驚き、悲しみ、意味はないと知りながら亡き知花に謝って許しを願い続けた。周りの大人は同情や慰めの言葉をかけたが、知花の帰りが遅れた理由を知らない大人達の言葉など鏡介の心の自己嫌悪の渦には容易たやすく跳ね除けられていた。


 それからの鏡介の心の沈み具合は天井知らずで、それでも普段通りの生活を送る他のクラスメイトの中鏡介は際限なく悲しみをつのらせていた。


 鏡介の心の傷は凄まじく、知花の葬式の時などは死んだという事実を認められないあまり、鏡介を誘った両親や親戚、果ては親友の和輝にまで当たってしまった。


 知花の家族や、和輝達も当然悲しんでいるはずなのに。悲しくても受け入れて葬式へ臨んでいったのに、鏡介は1人、現実を受け止められないでいた。


 幼馴染の、それも初恋の女の子が、二度と会えない所へ行ってしまった。それは、まだ中学生だった鏡介には重すぎる運命だった。


           ✼


 どこの時勢にも馬鹿はいるもので、知花が死んで数ヶ月後のある日、昼の休憩中に、親の影響で風紀やマナーに厳しかった知花が居なくなったことで喜んだ阿呆者がいたのだ。これで廊下で追いかけっこ鬼ごっこが出来る、と。


 流石に小声だったものの、たまたま通りかかった鏡介はその話を聴いてしまう。その後は、怒り狂った鏡介と阿呆生徒3人の乱闘が始まった。鬼気迫る鏡介に、3人はしかしあとには引けなかったのか応戦し、当然鏡介に勝ち目はなかったのだが、このまま言われっぱなしてなるものかという精神からくる怒りの力が、止めに入った教員二人では抑えきれない程の熱を生み出していた。


 この日の話は『二科単騎大乱闘』と裏で呼ばれ、どう見ても悪いのは不良達にも関わらずに鏡介が『情緒が危ないヤツ』、『暴力的なヒト』と蔑まれた。主な理由は鏡介は打ち身だけだったのに対し、生徒1人は骨折、鏡介より遥かに大きい体育教諭も顔に青痣を作ったことだ。


 このときの鏡介を止めたのは駆けつけた和輝で、側に寄って何かを囁くと途端に崩れおり咽び泣いて止まったらしい。


 高校になってから明らかに悪口を言われることは無かったが、それからというもの、朝にカズが迎えに来る時、登校時、HRホームルーム時や放課後の下校時と、知花のいない生活に、鏡介の心の傷は悪化の一途を辿っていくのだった。

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