日課と、その意味についての夢

 鏡介は着替えを済ませ、廊下に出て日課を始める。視線を廊下の壁に向けると、神棚の真横に五枚の遺影が──神と同格、ということになるのだろうかと思っている──並んでいる。それらに向け手を合わせ、目を閉じる。


 昔は、両親がしているからという理由だけで、意味も分からずこんなことや黙祷もくとうなどをしていたが、今ならこの大切さがよく分かってきたと思う。別に黒魔術にはまった訳でもなければ、神やなんやを信じだした訳でもない。


「モカのお陰だよ。ありがとな」


 それらの遺影の一番右の一枚。横のひいおじいちゃん達──まだ死ぬ前の元気な六十代の写真だ。会ったこともないが──とは違い、そこに写っていたのはまだ少女だった。鏡介は彼女に向かって微笑み、目を開けて真っ直ぐと見つめる。





─────今から三年前、鏡介の幼馴染の桃倉知花ももくらともかが交通事故で亡くなったのだ。




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 二科一家は、鏡介がまだ四歳の頃、この場所に引っ越して来た。四歳で、しかも初めての土地で鏡介はとても怖かった。しかし、幼稚園ですぐに話しかけてくれた男の子がいた。その子は、僕は響谷和輝ひびやかずきだと名乗り、園舎を案内してくれ、子供に大人気の仮面ライザーなど趣味も合い、一緒に帰ることになる程にすぐ意気投合した。そしてお互いの家が隣同士だと知ったのだった。


 ある日、和輝が「もうひとりあそんでいい?」と聞いてきた。鏡介が承諾すると、和輝が連れてきたのは女の子だった。鏡介は記憶に無かったが、どうも同じ幼稚園のクラスの子らしい。


 その子は和輝に隠れながら桃倉知花ももくらともかと名乗った。和輝が連れてきた理由は簡単で、知花は人見知りのせいでなかなか友だちに話しかけられないらしい。親と、先生二人という親しい大人、或いは和輝くらいしか面と向かって話せないらしいのだ。


 和輝とは産まれた病院が一緒で、家も二軒隣で近いので──そこに挟まれる二科家──親も仲が良いらしく、なら僕達の間に住んでいる鏡介なら、と思ったらしいのだ。その時既に鏡介・和輝・知花の母親達は家でお茶会をする仲だったのだがその話は置いておく。


 結論から言えば、和輝の企みは一応成功で、知花は鏡介とも仲良くなり、更にもう一人、鏡介と仲の良かったクラスの子とも話せるようになった。


「ねーコウ、きょーもあそぼー」

「いーよーカズ。モカもよぼーよ」

「いーねー!」


 こうして、急な引っ越しでうまくやっていけるか母は不安だったが、鏡介はしっかり周りに馴染んでいったのであった。

 因みにコウ・カズ・モカというのは、鏡介の

「きょ」が幼稚園児には難しく、

「き、きよ、うーん・・・こすけ」と、いくら言っても進歩がなかったので頑張って練習することに飽きて定着したものだ。諦めでもある。そしてその際、和輝と知花にも渾名を付けようという話になった。短略というより言い安さを重視した結果のこの呼び名である。まあ、要は諦めであった。

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