1章 モカのいない日常

自分の、身の上話をする夢


 とある街のとある家、とある一室のとあるベッドの上、二科鏡介にしなきょうすけは目を覚ました。


 別に右手に不思議な力が宿っている訳でも、不幸体質でもない。共通点は黒髪くらいか。


 日本人らしく黒髪黒目、男子らしく背は170の後半。割とどこにでもいる見た目の高校二年生だ。

 いや、ただ少し。

 ───そのが少し、異質だっただけ。

 底冷えするような目つき、鋭利に光るその目は、けれど少しやつれたような気怠さが同居していて。見る者に病的な印象を与えていた。


 鏡介の部屋も、容姿に近しい色──モノトーンで揃えられていた。元々の部屋に、申し訳程度に置かれた勉強机とベッド。割と大きな本棚、家具らしい家具はそれだけである。


 この部屋にはクローゼットが元から──壁に埋まったタイプのものが──ついているので本当にそれだけの空間である。更に、子供部屋にしては少々広いせいで、余計に寂しく感じられる。


「あー・・・・・ねむ


 声もまた高校生特有の低さを帯びた声で。ただ、セリフの幼さから途轍とてつもなく違和感を感じる。

 窓の外から雀の鳴き声が聴こえてくる。傍らの目覚まし時計が狂ったように鳴り出した。


 なんだ、まだ暗いがもう六時か、そう思って鏡介は枕元を探る────

「・・・・・・・・・・・・・・」



 五時だった。



 (全く、夜明け前に鳴くなんて迷惑な。呆れ過ぎて二度寝する気も失せたよ───というか本当に狂っていたとは・・・・・)


 いつの間にやら、鏡介の瞳には先程までの冷たい光は無くなり、年相応とも言うべき穏やかな瞳をしていた。あちら・ ・ ・が素で今は隠しているだけなのか。あるいは、何か鏡介をそう・ ・させる出来事でもあったのか。


 鏡介は真面目な性格をしている。いや、目的の為なら手段をも選ばないクチだ。所謂いわゆる合理的主義者というやつ。


 という訳で、まだ頭はボンヤリするが、二度寝せず登校の準備をすることにした。こんな狂った時計信じて二度寝なんぞできっこない。鏡介は頭を軽く振り、着替えることにした。


 体つきは至って平凡。高校生らしく割としっかりしているが、どこか痩せこけた感じがするのは気のせいだろうか。──でもまぁ、帰宅部六年目の鏡介に綺麗な筋肉を要求されても困るが。


 なにせ運動というか体を動かしたりするのが苦手で、キャッチボールくらいならともかく、シャトルランなんてやってられない鏡介だ。


 因みに、体育の実技成績は五というまるで意味の分からない嫌い方である。体育の先生もさぞ憂いているであろう。この成績も筆記だけのものではないことから、余程の嫌い方と見える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る