第46話 信頼関係

ドカッっとドアを乱暴に開けて、ホテルに帰り深いため息とともに高そうなソファーに座り込んだ。

今回の古文書の内容は衝撃的だった。私はトオルでさえも信頼できるか難しくなってきている。最初に来た目的は事件の黒幕を見つけるはずだった。だが誰も彼もが疑わしくなってきている。普段嘘をつくことのないコンピューターでさえ分からない状況だ。量子コンピューターは本当に信用できるのか? 

まだ開発が完全でないかもしれない。そう考えると思考が深い深い黒い闇に染まっていくのが恐ろしい。


D 対策本部と米軍内に裏切り者がいる可能性がある限り公に議論ができない。これはトオルの安全確保のためにも必要な事だ。私はただのリポーターだったんだ。こんな世界を救わなければ、ならないような役割は場違いだ。耐えきれないほどの重圧と人類の生命の重みが両肩にずっしりと乗っているとしたら堪える。


久しぶりのバーボンウイスキーに氷を入れロックで酒を飲む。酔っていなければ正気を保てる自信が今の私にはない。


ドラコは本当に敵なのだろうか?未だにドラコは人類を攻撃しているわけではない。ただ疑わしいというだけだ。そして私達はドラコを使って、お金儲けや名声を得ているのも事実だ。ドラコが人だったら法では裁けないだろう。疑わしいだけでは殺人は問えない。


私の魔法を公表せずに隠したがっていたのは、何故だろうか。ひょっとしてドラコは私を子供ごと、さらう予定だったのだろうか。トオルと私に意図的に魔法を覚えさせ、神より命を宿した時に、その子が必要なのだろうか・・・・・・・・・


疑い始めるとキリがない。トオルからの好意も違うのではないかと自暴自棄になり始めている


私は煽るように、ぐいっと酒を全部飲み込んだ。ブルッと震えるほどの酒の強さがカーっと燃え上がるようだ。まぁやってやるわ。私がトオルも守る。もしも子供ができたら子供も守るわ。ドラコが邪魔をするなら倒してやる。権力が必要なら奪い取る。お金が必要なら儲けてやるのよ。ドラコが敵対するとわかったら行動すればいい。今はただ疑いの眼差しを持って淡々と準備をするだけだわ。


思考がだんだんとクリアになってきた。複雑に考えてもしょうがない。今できることを一歩ずつ進めていく。どんな時でもそれは必要なことだ。


人間は獣の世界では強くはない。集団でいるから強いのだ。その集団を壊してはいけない。集団をつなぐのは信頼だ。頭を働かせて知恵を使って歴史を紡ぐ。 そういえばトオルは疑いもせずに私に秘密を打ち明けた。あいつは何時も何かをぶちまける。王座の才でサポートするのも悪くはないが覇王が正しいかはわからない。もう、面倒だから私の尻に引いてやろう。姉さん女房になる。それがきっと一番楽だ。


思い出してきて笑いがこみ上げてきた。そういえばトオルは生け贄だったんだ。クックと笑う


私も生贄みたいなもんだった。でも今は違う。魔法もある。火と土の魔法を使ってどうやってドラコに勝てばいいのだろう。土の魔法でドラコを壁で囲う。そうしたら、中に火をともせば一酸化炭素中毒で呼吸ができなくなるかもしれない。しかし、私達はドラコの呼吸方法すら知らないのだ。お金のために秘密にし過ぎたかもしれない。


世界最大IT企業を味方につけて、その組織と施設を使ってドラコの全貌明らかにする。そうすれば勝てる道も見つかるかもしれない。うっすらとだが道が見えて来たのかも知れない 。機密も少しずつ公に出していく。そして仲間を増やすんだ。きっと黒幕の思惑は私達に団結させない様に動くはずだ。相手への嫌がらせは徹底的にだ。


さあ明日から毎日あいつらをこき使ってやるわ。 此の時に女王のオーラと呼ばれるものを纏っているとは本人を含め誰も知らない…

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