第44話 大統領候補の噂

ロズウェルからもらった携帯電話は軍にはもうバレていたので、新しい番号の機密用の電話を用意した。


事の経緯を説明するために私はトオルに電話した

「トオル久しぶりね」

「おうジェーンか。そっちはどうだ」

「大丈夫よそれで、調べたわ。小島さんを襲ったのは軍の暴走のようね」

「じゃあジェームスってやつか」

「残念だけどジェームスは関わってないわ。他の黒幕がいるみたい。その調査はジェームスにやらせてるので結果待ちよ」

「そうかあいつアメリカ居たのか。道理で探しても見つからない訳だ。悔しいな」

「でも血液を欲した企業は分かったわ。その企業と友人のエリザベスに解析調査を依頼したわ」

「なるほどな。じゃあ大体調査は終わったんだな。戻ってくるのか」

ジェーンは天井を見上げて深いため息をついた


「残念だけど、まだ無理ね。もう少し黒幕を調べたいし、解析結果が出たら一番に見たいもの」

「分かった。体に気をつけてな」

「あなたもね。それじゃ」


やり取りが終わった後に寂しさが体を襲ってくるような気がする。気のせいだとは思ってはいるが好きであることには変わりはない。やっぱり寂しいのだ。この寂しさを紛らわすために CNN に歌の代金を請求することに決めた。これは日本語で八つ当たりという事を最近覚えた。


翌日 CNN のボストン支局に寄り、トオルが歌っている島唄の歌の著作権について話した。役員の私にとって文句を言えるのは既に支局長か社長しかいない。

「トオルの歌を勝手に使うのは許せないわ。いくら一部が出演料に入っているとはいえヒットチャートに出すのはおかしいとは思わないの? 」

「まあその歌込みであの値段で買ってると思ってますんで、嫌なら裁判しますか? 」



こう強気なのはボストン支局長だ。最近意地悪になったと言うか、こういう高飛車な人を見ると潰してやりたくなる。

「あら、なかなか凄い事言うのね。ドラゴンの映像はもう要らないっていう事かしら」

焦って社長が間に入ってきた

「いやいやジェーン君の旦那の歌は人気があるんで、正式に録音してもらって買いたいと思うんだけどどうだろう」


「金額はいくらかしら」

「一曲あたり1ドルが限界だけどそれでいいかい」

「分かったは旦那は説得してみるので正式な契約書にしてちょうだい。全額種子島に寄付するわ」元々は種子島で生まれた島唄だ。彼らにも与えなければいけない。


出されたお茶をゆっくり飲みソファーに沈み込むように座る。歳なのだろうか硬い椅子はどうも背中が痛い。そんなことを思っていると社長が新しい話題を提供してくれた。


「ジェーン君は今ある事で噂になってるよ」

「どういうことかしら」

「近々ある大統領選があるだろう。そこで君を応援につけたほうが勝つと世論が見てるのさ。大統領候補に擁立する噂もあるぜ」


その話を聞いた私は目を大きく見開いて彼に対して言った

「そんな暇なんか全然ないわ。何でそんな事になってるの」


彼は物欲しそうな目をしながら言葉を続けた

「じゃあきっとどこも応援しないとテレビで喋ればすぐ沈静化するさ」


もっともな話だと思った。私は今調査している結果が出るまでは少し暇なので出演に対して了解をした。出演する番組はポニーのウォッチショーと言う番組だった。いわゆるポニーが質問して私が答えると言った質疑応答のような形だ。

もちろん出演料はトオルと同じにしてもらった。


「司会者のポニーよ。よろしく」

差し出された右手に私も握手で答える

「ジェーンよ。よろしく」


「今世界で一番有名なレポーターだと思うけどもその事についてはどう考えていますか」

「とてもラッキーだったと思っているわ」

というつまらない質疑がしばらく続いた 。


「ところで今噂になっている大統領選には興味はあるの」

「民主党も共和党も特にどっちも支持してないわ。私を支持してくれる政党に協力しようかしら」

「両方の政党があなたを支持すると言ったらどうするの」

「そしたら民主党も共和党も私を支持するなら私が大統領ね。ふふふ」


「それもそうね選挙する意味がなくなっちゃうわ」

そんなつまらない会話をしながらテレビ番組は終わった。

特に何とも思っていなかったが、翌朝の新聞の一面に私の顔写真と大統領選出馬を表明と書かれていた時、歯磨き粉を吹き出して崩れ落ちたのだった。CNNに一杯食わされた気分だった。

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