第37話 人質事件

会議の帰り道にちょっと商店に寄って買い物をして、その帰り際に小島さんに会った。

「ちょっと社長。私の仕事の量が多すぎませんか」

まさしくその通りだった。ホワイトな企業を目指しているが、人手を増やしているもなかなか思い通りには、いっていなかった

「すまん。近いうちには責任者を増やそうと思ってるので、もうちょっと待ってもらえると助かる」


現実問題として責任者が足りないので何処かから引き抜いて来なければならない。ぶっちゃけて言うと D 対策本部以外は思いつかない。官僚は高学歴で頭がいい。私欲に走らなければ使える人間は多い。

そんなどうしようもない話をしていると小島の後ろからぬっと男がでてきた。男は刃物を持っており小島の後ろに回り込むと首筋に刃を近づけて俺に脅しをかけてきた


「ドラゴンの血を持ってこい。持って来なければ、どうなるかわかってるな」


男は狂気に満ちた目で、こちらを見ていた。短く切りそろえた金髪の髪に青い瞳、盛り上がった筋肉からは日本人を想像する人は少ないだろう。正直に言ってドラゴンの血を取ってくるというのは問題ない気もするが、小島が脅されているのは許せない。封印していたウィンドカッターを精霊に使うように小言で指示を出した。


「バシュー」


男の首の太い血管から血が大量に吹き出ている。小島はキャーキャーと喚き散らしながら座り込んでしまっていた。俺はそんな小島を引っ張り上げるとわき道にそれて休憩した。


「落ち着け小島。これは正当防衛だし、問題ない」

小島の方を揺らして正気かどうかを確かめてみた。精神的にはまだ大丈夫のようだ。本当は現行犯逮捕は現場にいれば誰でもできるが、逮捕までなので、後は過剰防衛になるだろう。


「小島よく聞け。これから俺はドラゴンを連れてあの男の死体を太平洋に捨ててくる。警察に自首するというのも一つの手ではあるが、魔法を使える俺は警察などに捕まってしまうと人体実験や細胞実験など非人道的な事を政府にやられるかも知れない。言ってる意味はわかるな」


俺の感情はどうしてしまったんだろう。人を一人を殺したというのに全く動じることがない冷静沈着で今までの俺ではないようだ。

小島の返事を聞く前にもうすでに俺はドラゴンを呼びに走り出していた。


「ドラコすまんがその男を咥えて太平洋に捨ててきてくれ」

俺は男から身分証明書と思われるものを全て取り出し服のポケットに大量の石を入れてやった。


「しょうがないの。捨てる時には儂がブレスで分からんように燃やしておくわ」


そうドラコは喋り男を口にくわえて太平洋へと飛んでいった。夜間の空を飛ぶドラゴンはその黒い鱗と重なり一見すると発見することはできない。夜間爆撃をするならば持って来いのドラゴンだった。


「小島さん送ってくよ」

そう言って小島さんの方に手をかけ女子寮の方に歩いて行った。


どうしてだろう。俺は浮気ぐせなんか全くなかったはずなのに小島の胸に目が釘付けになっていた。自分の中の何かがおかしいと思った。送り届ける時に小島には今日の事件を絶対に話さないように釘を刺しておいた。家について児島もやっと冷静になってきたようだ。


「そうですよね。社長さんは過剰防衛だったとしても機密を守ったりしなきゃいけないですし、捕まったらモルモットですもんね」


そう喋った小島の方は震えていた。俺に対して恐怖を抱いているのかもしれない。


「勘違いしないでほしいが警察には行かないが、対策本部や加藤さんには話をするよ。身元の割り出しとか協力してもらわないとできないからね。警察の様な小さな機関だと融通が効かずに規則通りにしか動けないから逆に危険なんだ」


少し安心したのか小島はシャワーを浴びてきますとその場をゆっくりと去っていった。


残された俺は今日の出来事と俺の心理状態が信用できなくなってきた。

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