第3話 勝利の剣!サイボーグ大爆発!
「ここからが本番だぜ!」
クローズはゾードスの巨大剣を力いっぱい振り払い、三郎のもとへ駆け寄る。
「大丈夫か?自分が今どうなってるか分かるか?」
「…あぁ。俺は助かったんだな。」
「ついでにお前の仲間も助かるよ。」
「ホントか!」
「おう!見てろ! じゃあ続きは後でな。」
「ゴチャゴチャと何を喋っている! さっさと勝負しろ!」
「ちっとは待てねぇのかよお前。 気の短ぇサイボーグだな全く。」
「うるさい!ディバイディングソード!!」
むかっ腹を立てたゾードスは頭についていた西洋兜の鶏冠のような部分をブーメランのようにヒュンと跳ばした。
「しゃらくせぇ!」
クローズは飛んできた鶏冠ブレードもといカッターブーメランを横一閃になぎ払い、地に落とす。
「やるな貴様!」
「じゃあ私からも行くぜ!」
ゾードスのもとへと三郎に向けた慈愛の感情から殺意へと切り替えた彼女は、刀を右に構え、全力で走っていった。
「接近戦だな。よかろう!」
巨大剣を右手に持ち、左手を細身の長剣に変化させ、クローズを本気で叩き斬る構えでいた。
「どりゃぁ!」
クロスさせた2本の剣を振り払い、彼女をXの字に切り裂かれる様をまざまざと見てやろうとした彼だったが、クローズはヒョイとジャンプするとクロス斬りを避け、背後に着地すると同時に背中に一太刀浴びせた。
「がぁぁぁ!」
『サイボーグならば刀で傷つくのはおかしい』というのが世の中の常識というものだが、クローズの刀は常識の先にある存在なのである。
彼女が振るう刀は黒薔薇家に代々受け継がれるもので、その家名前の由来となった守護神として祀られ、黒い花を咲かせる薔薇の木の根元に埋まってたという不思議な金属鉱石を使って作られた。
その金属は地球上の物質とは異なるものであり高い硬度を誇る他、守護神の黒薔薇に含まれるエキスが染み込んでいる。
薔薇の花(特に香り)は記憶力向上に効果があるといわれているが、守護神はそのエキス自体にありとあらゆる物質や生き物の記憶力を向上させる力を持っている。
そのエキスが染み込んだ鉱石は高い記憶力を持ち、刀へと加工された。
つまり学習能力を持った刀であり、一度斬ったものの物質や成分を覚え、次はさらに容易く斬る事が出来るようになるのだ。
先ほどのようにサイボーグを斬る事が出来たのは一度それに準ずる物質を一度斬ったことがあるためだ。
当然、悪用すれば災いの元になるため、キチンと教育を受け、正しい人格を持った黒薔薇家の第一子にのみ受け継がれる。
だが、年功序列なのは最終的な話であり、第一子でもその資格がないとみなされれば受け継ぐ権利を失う。
美棘は教育を受け、人格を認められた長女かつ第一子であり、実はお嬢様なのである。
「馬鹿な…この鋼の身体が…」
「驚くのは早いぜ。なんたって今からお前を倒すんだからな。」
「!!??」
「一気に決めてやんよ。」
彼女は刀を一度鞘に納め、マスクの下でにやりと笑った。
「まぁあの調子じゃもう少しで終わるわね。
こっちは一瞬で終わるのだけれどね…」
クローズを降ろして、麗華もといベレザンナはマッハフルールで待機していたが、さっと自分も下車するとブラックサイボーガー戦闘員の頭に向けて手持ちの光線銃をお見舞いしていた。
「ぐえ!」
「うが!」
次々に糸の切れた人形のように倒れていく戦闘員だったが、幸か不幸か光線を逃れた残党が彼女を直接攻撃に来た。
「んふふ。いらっしゃい。天国へ逝かせてあげるわ。」
「うぉぉぉ!」
ベレザンナは剣を振り上げようとした戦闘員の目の前で逆立ちしたかと思うと、スラリと長い足を戦闘員の首へ絡ませた。
「うぐぐ!」
「さようなら。」
そのまま力を入れると、バキという音と火花を上げて首が90度以上傾いた戦闘員は抵抗をやめ動かなくなった。
とうとう最後の一体になり、彼女の顔はソイツのすぐ目の前にある。
「お疲れ様。」
ドン!
鈍い破裂音と共にスローモーションのように倒れる戦闘員。
さっきまで戦闘員の心臓部が存在していた空間には光線銃を握ったベレザンナの手があった。
「私の仕事はここまでね。」
被っていたメットを取ると、汗をかいた美人の微笑があった。
ビルの中では首領ボー・ザイグン配下の4大サイボーグへの逆転が始まるまで、そう時間はかからなかった。
「針地獄一丁目!」
ジルドスへ止めを刺しに逝こうとしているメッサーを背後から長針で貫こうと飛び上がるニドルス。
「悪いなアグス…」
アグスごとキルロッサを真っ二つにしてしまおうとして、鉈を投げたナダス。
彼らの想定の中ではメッサーは天井ごと長針で貫かれ、磔状態に。
キルロッサは仲間の犠牲と共にパックリ割れた死体になる算段である。
通常なら成功確立は高かったであろう戦法だが、超人軍団の軍団長が立てた作戦がそれを導き、結果はぬか喜びどころか死であるとは思わなんだろう。
「貫けぇ!」
「割れろぉ!」
「ハッ!」
「エイ!」
今までそこにはいなかった誰かの声と共にサイボーグの計画は狂いだした。
「え?何?きゃぁぁぁ!」
ニドルスは長剣が飛んできたところまでは理解できたが、柄から鎖が伸びていて、それが針に絡みついているという奇怪な光景に頭が真っ白になってしまった。
そのまま剣の重みに耐えかねて、針サイボーグは地に落ちた。
「な、何者?」
「ワヒヒヒヒーン!」
見ればそこには鎧を纏った馬がいて、その背には自分を落とした和洋折衷な鎧デザインのバトルテックスーツの戦士がいた。
「突撃剣隊所属、エクス!」
「おのれぇ!」
「成敗タイムです!」
(間に合ったみたいだね、じゃあこの盾のやつを仕留めよか。)
メッサーは安堵すると狙いを定めた。
一方でキルロッサに迫る鉈は急に軌道を変え、明後日の方向へ飛んでいってしまった。
さらには鉈の通り道には古代ギリシャの戦士のような鎧を纏った戦士が短剣を構えて立っていた。
「我こそは古代と現代の申し子、マッハ・スパルタン。よく勘違いされるがこの鎧はギリシャではなくスパルタリスペクトだ。」
「邪魔するだけならまだしも、聞いてもないことベラベラ喋りやがって!」
「すぐ頭に血が上るようでは戦士として三流以下である! よって、私が戦士が何たるかを今から見せて差し上げよう!」
(スパルタンは暑苦しいけど、戦士としては一流だからな。知恵と力と勇気の子なんてトップが褒める実力者…)
4対4の戦いに持ち込んだところで、勝ったも同然である。
空中へ飛び上がったメッサーはすでに狙いを定めていた。
「終わりだ。ギロチンスラッシュ!」
急降下するとジルドスの首、間接部分をめがけて刃を差し込もうと動く。
「そうはいかん!ガード!」
両手の盾を合わせて防ぐジルドス。
「だが、結末は一緒だ。」
「な!?」
メッサーは組み合わされた盾の上に立ち、首に刃をすっと下ろした。
「ぐぉぉぉぉぉ!!」
叫ぶジルドスに対し何一つ動揺せず刃をグリッと動かし、さながらマグロ包丁のように扱うと、叫び声が聞こえなくなると同時に首が落ちた。
「サイボーグは首で十分だろう。ロボットならば心臓部も気をつけねばならないがな。」
切り口から流れる血だかオイルだか判別がつかない液体を眺めながらそっと呟いた。
「ジルドスをやってくれたのね!もう許さないわよ!」
「ええ、許してもらわなくて結構です。同じくらい貴女方の行いは許せませんから。」
「このぉ!」
「来ますよ、ノブル!」
乗っている馬に呼びかけると左手で手綱を握りなおし、飛び掛ってくるニドルスを右手の剣で迎え撃つエクス。
手足から沢山の針を出し、スクリューのようにグルグル回りながら突進してくるサイボーグに乗馬の女騎士は、すれ違いざまに勝負を決めることを選んだ。
「死ねぇぇぇ!」
「そこだぁ!」
飛ぶサイボーグと馬が重なって見えたとき、切り裂きの音が木霊する。
「あぁぁぁぁ!」
ニドルスの右腕が火花と液体を上げて飛び行く。
「止めです。チェーンスラスト!」
右手の鎖つき長剣を投げ、かろうじて立っているニドルスの心臓部を貫き、柱に刺す。
「リターン。」
柄から伸びているチェーンを引っ張って心臓部をもう一度通り、剣を手元に戻すエクス。
彼女もまた戦士として手練れであった。
「あっちは終わったらしいな。こっちも終わりにしようっと。」
「人が腹を痛めているというのに、その言い草は…」
「うるせぇぞ!サイボーグ!」
一度刺されているアグスは文句をキルロッサに垂れたが、そんなものは気休めにも何にもなるわけがなく。
「えい!地獄にでも行っとけ!」
刺さっていた2振りを抜くと、右に薙いで仕留めに掛かる。
「…アックスインパクト!」
斧を振り上げ抵抗を試みるアグスであったが、そのがら空きの態勢が死因となるんだから行動は後先考えなばなるまい。
「じゃあな!クロスファングブレイク!!」
「あ”ぁぁぁぁぁぁ!」
剣がキラリと輝き、Xの字に軌道が描かれると、アグスは機械音と破裂音の二重奏を奏でながらこと切れていった。
ジジッ!ガガガ‼プスン!ビビ!
お世辞にも心地よい音だと呼べる代物には程遠いが。
「まぁこんなもんっしょ。」
「さすがはキルロッサ殿。私もすぐにカタをつける!」
「お、俺一人だと!」
「さぁ!決着の時ぞ。」
「いいだろう!仲間を犠牲に勝とうとした時点で俺は失うものなど何もない! 兜割り一鉈!」
「マッハ剣術、ラケダイモーン一刀!」
ほぼ同時に刃を振り下ろした両者だがナダスの大鉈が届くことはない。
「両断されたのは俺だったか…なぁぁぁぁぁ!」
痛みなのか死にゆく恐怖なのか。絶叫を上げ、鉈サイボーグは真っ二つになり世を去った。
「古代から伝わる剣術、そして現代の加速技術。これらのハイブリッドこそ私が授かった新たなる武道である!」
「なーんだいそりゃ?」
「よくは分かりませんが彼なりの道なのでしょう。」
「終わったんだからもういいじゃないか。」
メッサー、キルロッサ、エクス、マッハスパルタンの4名は集まると互いに感想を述べあい、メットオフすると同時に仕事終了を実感するのだった。
戦士たちの正体は、彫が深くダンディズム溢れる顔の中年男性、橙色の髪と少しだけあるソバカスが眩しいやんちゃそうな女性、生真面目そうな目のぱっちりした女性、短髪の茶髪のラテンっぽい顔の男性。
個性豊かな普通の人間たちである。
「なんなんだ…その刀は。」
「へっへっへ。オーラソードって知ってるか?」
「オーラ? ソード?」
「人間の体内に眠ってるデケェ力を光にして
マスクの中で不適に笑みを浮かべていたクローズはゾードスの巨大剣に対して、青白い光を放つ刃で立ち回っている。これは刀を別のものに変えたのではなく、もとからある刀にエネルギーを纏わせたものである。
超人軍団は何かしらの人智を超えた能力を持つが、そのうちの1つがこの体内の精神力をオーラエネルギーに変換し、威力を持つ光線として実体化させることである。発現には何かのきっかけ―精神力を研ぎ澄まし、何かしらのアクションを起こす―が必要であり、クローズの場合は一度鞘に戻し、集中して抜刀することで発動できる。
この能力はクローズが元から持っている能力ではなく、超人軍団団長がもっとも得意とするもので、彼に稽古をつけてもらい習得したものだ。
健全な精神は健全な身体に宿るという信条の元で超人たちは修行し、能力を発現。それを他者にも教え共有することで部隊は成り立っている。
「わけの分からぬことをぉ!」
「チョウ!」
「これでもか!」
「ジン!」
自分の刀の倍以上もあるゾードスの必殺武器をいとも簡単に受け止めるクローズ。
「人間にあんなことが出来るのか!?」
遠くで見ていた三郎はただただ異次元の剣戟をぺたっと座り込んで見る他なかった。
「おっし!もういいだろ!」
「!?」
「終わりにしようぜ。」
「嘗めるなぁ!!」
巨大剣と左手が変化した長剣でゾードスは怒りの一撃を向けた。
「アンダー鉄砕き!」
オーラを纏った刀を下から振り上げ、武器の破壊にかかる。
その時―ビキビキ!ビシビシ!グワァラッシャーン!
「ウソダァァァァ!」
思わず子供のような悲鳴を上げるほどあっさり自慢の剣は壊れてしまったのだ。
「悔しがったところで遅ぇ!覚悟しやがれ!」
武器がなくなり、左手をなくし、頭部のカッターも大分前に弾かれ、もう使えるものがなくなったゾードスは狂ったように特攻した。
「ウォォォォォ!!」
「近づいてくれるとはありがたい。食らえ! 黒薔薇剣・オーラ十文字!」
「ギャァァァァァァァ!」
―ドカーン―
力いっぱい横に縦に切り裂いたところで、ゾードスは何も残さず爆散四散した。
「ふう! 終わりだな。」
美棘はメットを取ると三郎に駆け寄って言った。
「な? 言った通りだったろ。」
「君は、なんと言うか…凄いね。」
「へへ! これが生業だからね。お前こそよくがんばったよ。あそこで一矢報いようだなんて思っても実行できる奴はなかなかいねぇ。」
「俺は、ただただ情けなかったと思ってるよ。男の癖にビビッてわめいて、部下まで危険に曝して。」
「馬鹿! こういうのはな勇気を持って生き延びたモン勝ちなのさ! もっと堂々としろおめぇ!」
「精神面でも敵わないな…」
「大丈夫、大丈夫。十分立派な精神力だったよ。」
「んふふ。アツいわね。」
「うわ! パツ金いつの今に!」
「君の仲間か?」
「そうよ~ 彼女のお友達。」
「誰がお友達だおめぇ! 勝手に人の家に住み着いといて!」
「いいじゃないのよ、仕事でよく組むんだし。」
「何かと役立つから辛うじて置いといてやってるけどよ。能無しだったらとっくに追い出してんだよお前は!」
「喧嘩はよした方がいいって! それに能力だけ買ってるみたいで可愛そうだ。」
「あら、いい子ね。」
「ご、誤解すんなよ!
「へ?」
「あらあら!」
「あぁぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃ!」
こうして幹部級サイボーグを倒した美棘、麗華、そして突撃剣隊メンバー。
だが、
「やるべきことがある」
そういい残し行方をくらましたボー・ザイグンがまだ残っている。
「部下たちはもう終わったみたいやな。後は俺にまかしとき。」
突撃剣隊隊長トウクは刀を構えると野球の素振りのように振り上げ、ザイグンが現れるであろう場所を張っていた。
彼の中には明確な勝利のビジョンがあり、メットのしたの顔は自信に満ち溢れていた。
つづく
鉄華の薔薇(汚れ仕事遂行集団の女戦士が愛と平和を守る話) 凩三十郎 @ki104violin
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