第2話 倒せ!火花のサイボーグ戦線
道路を時速2500kmで走る車がある。
「やっぱり、「アイツ」のメカニックはマジで便利だな。」
「ちゃんとお礼言いなさいよ。」
「親かお前は。」
「さて、もうすぐかしら新宿は?」
「おう。あっという間だよ。」
「ホントにちゃんとバトルテックスーツ着ないと身体どうなってるのかしらこれ。」
「肉塊だろ、肉塊。」
美棘と麗華はいつの間にか特殊戦闘用スーツを身にまとって、スーパーマシンであるマッハフルールを最高速度にしていた。
車のボディには空気抵抗をなくすための特殊バリアが張り巡らされており、決して無理な改造で走っているわけではない。
そして二人が着ているバトルテックスーツは装着者の身体に合わせて設計されており、ただでさえ高い戦闘能力や身体能力を飛躍的に向上させる。
また、スーツには防火や対電磁波・衝撃・急襲などに備えるために強度があり、下降しやすいチタンを何倍にも強化したニュースーパーチタニウムが使用されており、安全面も考慮されている。
すなわち、マッハフルールの超スピードに人体も耐えられるのである。
「準備はいいかしら?クローズ。」
「それ家でも聞いただろ、ベレザンナ。」
お互いを急に変な名前で呼び出したのには当然理由がある。
これは公私をしっかり分けるために考案されたコードネーム制度で、任務中はこの呼び名を使わなくてはならない。
というのも命を取るか取られるかの現場なのでメリハリなしというわけにはいかないからだ。因みにコードネームは基本的に自由であり、個人で考えて申請しても、上司に考えてもらってもよい。ただし、やたら長い名前や呼ぶのが憚られる恥ずかしい名前はご法度である。
もしあなたが、面白半分で下ネタが入った名前や寿限無のような名前を申請しようものなら、響きはカッコいいが日本語に訳すと「馬鹿」「間抜け」などになる外国語にちなんだコードネームを与えられ、晒し者になるだろう。
「三郎くん無事かしらね?」
「一応、警備隊とやらの隊長だから心配は要らないだろうよ。」
「まるで付き合ってるかのような言い草ね。ちゃんと声かけてあげたの?」
「軽しゃべったことあるぐらいだし、表と裏じゃ本拠地違うからなかなか会えねんだよなぁ。」
「まぁ、今回でいいところ見せることね。」
「人命が最優先だ。」
「根は真面目なのよねこの女。」
スーパーカーはひたむきに走り続け、現場はすぐそこまでやってきた。
事故現場のビル内ではブラックサイボーガーの首領であるボー・ザイグンが配下のサイボーグに命令を出し再び動こうとしていた。
「よし、ゾードスは命令どおり救助隊と生き残り、それから警護共の抹殺に行ったようだな。さて、そろそろ出てきたらどうかな?始末屋共。」
ザイグンはすでにビル内に潜入していた突撃剣隊の面々にわざとらしい台詞声をかけた。
「ばれたとあっちゃしょうがないな。」
「いいのかよオッサン!」
「任務中だ、メッサーと呼べ!キルロッサ。」
「ほんとにアタシに当たり強いなメッサーは。」
無機質なのっぺりとした目だけがあり、両耳に当たる部分に刃物がついたマスクの中年戦士メッサーとサーベルタイガーが真正面を向いたレリーフを額に輝かせ、尖った耳のような飾りのついたマスクの血の気が多い若い女戦士キルロッサが口喧嘩しながらザイグンの元へ姿を現した。
「貴様ら人を馬鹿にしているのか?」
「これは申し訳ない。少し注意をしてたのだ。」
「メッサーもムキになってたくせに…」
「ふん、そんな理由を聞いたところで貴様らを処分することに変わりはないがな。」
「そうだろうさ。こっちとしてもサイボーグの力で虐殺して覇者気取りな馬鹿を始末したいわけだから。」
「おー!カッコいいじゃん!」
「そんなことをほざいていられるのも今のうちだ。我の幹部サイボーグで捻り潰してやる!出て来いアグス・ニドルス・ジルドス・ナダス!」
ザイグンの呼び出しを受けてサイボーグ幹部が姿を現した。
全員もともと人間だが改造を施した結果、それぞれ斧・長針・盾・鉈の能力と特徴を持った異形の怪物に成り果てている。
「叩き割りの鬼アグス!」
「突き刺しの女神ニドルス!」
「鉄壁の守護者ジルドス!」
「両断の殺し屋ナダス!」
「4人か…手厳しいな。」
「わざと弱気なこと言っちゃって。」
「その2匹をやれぇ! 私は別でやることがある。何か手違いがあったらしい。」
「「「「ハイル・サイボーグ!」」」」
ビル内に響き渡るシュプレヒコールが合戦の合図となった。
ジルドスとニドルスはメッサーに盾と針先を向け、アグスとナダスはキルロッサに刃を向け襲い掛かってきた。
メッサーは自身の得物である柄が長い刃物、マグロ包丁の柄が長くなったような武器の柄でジルドスの右手についた盾でのパンチを防ぎ、刃の方でニドルスの針を突っぱねる。
キルロッサは2本の剣で振り下ろされる巨大な斧と鉈を払い、アグスとナダスを斬りつけていった。
「お前っ!その武器は一体?」
「ああこれはな、私専用の特注品でな。槍のようで薙刀のような剣さ。」
「ええい!この!」
ニドルスが針を飛ばしてくるが、刃ををくるくる回してすべて防いでしまう。
「じゃあトロそうな盾のからいくか。」
メッサーは足を一歩踏み出すと、すばやくジルドスに刃を入れた。
「そう簡単にやられてたまるか。シールドカッター!」
ジルドスは全身が盾のサイボーグで高い防御力を誇る。
だが、攻撃パターンが盾で殴るくらいになりかねないので、盾のなかにカッターやキャノンを仕込んでいる。
「おおっと!流石に戦闘用に改造されたサイボーグ。おいそれと殺らせてはくれないか…」
メッサーはジルドスの左手の盾に仕込まれていた鋭い長めのカッターを即座に愛刀で防ぐと敵の腹を壁上りの要領で蹴り上げ、最初の間合いへとんぼ返りした。
「今だ!シールドキャノン!」
先ほど蹴り上げた腹の中央が自動ドアのように開き、恵方巻きを齧るよな具合でボディから太く黒い砲身が現れた。
ドーン!という鼓膜を破る勢いの爆音が鋼鉄の巨弾とともに襲い掛かる。
「とおっ!」
メッサーは爆風を利用して跳び上がった。身に着けたマントが浮くのをさらに補助してくれているようだ。
「なにぃ!くそぉ!そんな高い所へ!」
(高い防御力といえど、関節部まで固めては動けんだろうからそこは弱いはず。)
メッサーは一気に首を切断するべく急降下して、胴と頭の間へ刃を滑らすことを決めた。
「ちょっと~ 私のこと忘れてない?」
針飛ばし攻撃を防がれ、放置を食らっていたニドルスは高跳びの棒くらいはある長大な針を剣のように手のひらから出すとメッサーに飛び掛かろうとしていた。
一方でキルロッサはアグスとナダスの二人を自慢の2刀流でいなし、戦いを楽しんですらいた。
「おうおうどうした?そんなナマクラじゃアタシは逝かねぇぞ!」
「嘗めやがってこのアマ!」
「両断してくれるわ!」
「来やがれ鉄屑ども!」
アグスは挑発に乗り、勢いよく斧を振り上げた。
猛虎の勢いの女戦士は懐に入り込むと、2刀を一辺に斧サイボーグにグサリと突っ込み、剣をグリグリと捩じった。
「ウグゥ!」
サイボーグとなって人間の器官がなくなったとはいえ、そこに機械系統が代わりに入ってるわけだから十分に威力を発揮できる。
「口ほどにもねぇな斧野郎!」
「それはお前もだよ!アグス!しっかり押さえとけ!」
メッサーの戦況と似たような感じで、ナダスは手持ちの鉈を手裏剣のように放ち、アグスごと真っ二つにしてしまおうとした。
「っ!」
外では、爆破事故の生き残りや怪我人が、表の防衛隊所属の救助隊と警備隊によって安息の地へと誘導されていた。
「剣持隊長!残っている人間はいません!」
「よし!全員移動開始だ!」
「その必要はない!ここで全員死んでもらう!」
ブラックサイボーガーの首領の命を受けた、彼の右腕である剣のサイボーグ・ゾードスが巨大なクレイモア状の剣を肩で打ち鳴らしながら戦闘員を引き連れ、奇襲を掛けてきた。
「なんだと!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
「もうやだぁ!」
警備隊隊員や一般市民は絶望した。
警備隊ならば戦えばよいではないかと思うかもしれないが、表の防衛隊は巨大生物駆除以外は基本的に殺害行為と思われる戦闘は禁止されており、世論や憲法を聞いて守っているという公的機関としての体裁を保つためにはこうするしかなかったのである。
というのもかつて、体に銃器を搭載し無差別殺人を敢行、怪人になり果てた犯罪者
を現在の「表の防衛軍」の前身にあたる部署が銃殺したことへ、様々な人権団体や一部報道、情報を聞きかじった一般人から大量の苦情や抗議が来てしまい、解散の危機に陥ったことがあるため、命を奪うまでに至るような案件を「裏の防衛隊」を立ち上げたうえで丸投げし、極力非戦闘に移行したのである。
ちなみに、巨大生物駆除は動物保護団体と人的被害を訴える市民団体の間で板挟みになったが、災害にカテゴライズすることで難を逃れたようだ。
だが、巨大ロボットや戦闘機に人間が乗って攻撃してきた際は「人の命」が存在するため、「表」ではなく「裏」が対処しなければならない。
「チッ!」
警備隊の剣持隊長もとい美棘の気になる男、剣持三郎は殺傷能力がないショックガンと特殊合金警棒でゾードスの前に立ちはだかった。
「隊長!まずいですって!我々は戦闘については…」
「うるさい!今足止めをしなければ全員死んじまうぞ!」
「隊長!」
「生身とはトンだ大馬鹿者だな。まぁいい、抵抗の一つや二つしてもらわないとこっちも殺しの実感が湧かんからな!いるハズの連中もいないから、今は殺し放題だ!」
三郎は警棒で巨大な剣を受け止めた後に、ショックガンを至近距離で浴びせれば倒せなくても怯ませることは出来る筈だと考え振り下ろされる剣に交差させる形で特殊警棒を振るった。
「勇気がある、さしずめ隊長格はお前か。
ヨシ!コイツは俺がやる。戦闘員共は残りを片付けろ!」
「「「ハイル・サイボーグ!」」」
ゾードスは立ち向かってきた三郎の向けてきた警棒を剣であっさり叩き斬ると、彼の腹に球でも蹴るように勢い良く足を入れ吹っ飛ばした。
「あぁぁぁぁぁ!」
突然の衝撃に思わず声が出る。
「俺の趣味はな、勇気を持って歯向かってくる者を、しかも地位が上の者をボロ雑巾にするまで叩きのめすことでな。ことに感情的な奴ほど面白い。」
「うぐっ!畜生…」
「さらにそういう奴を潰す事で、仲間や守られる者たちは絶望し、無抵抗なまま戦闘員共に殺戮されていくのも愉快。
人間は俺たちサイボーグの使い捨て玩具にはぴったりというわけだな。」
「お前ぇ!!」
衝撃を受け、倒れこんでいた三郎は、視界に映る光景にただただ絶望するばかりだった。
戦闘員が片手に持った剣を振るって警備隊隊員や怪我人を襲撃している。
隊員は怪我人を守ろうと戦闘員の一撃を身体で受けたりと、滅亡のときが迫っていたからだ。
「やめろぉぉぉ!」
仲間が必死に戦う中で、倒れてはいられまいと気合を入れなおし、ゾードスに立ち向かっていく三郎。
「くたばれ!くたばれ!くたばれ!」
殺傷能力がないことを忘れるほどに勇気と狂気が混在した三郎は、剣のサイボーグにショックガンを連射していた。
「グハハハハハハハハハ!これは傑作だ!
いい顔だ。ズタズタにしてやる。」
ゾードスは三郎を嘲笑うと、天高く自慢の剣を掲げ、哀れな人間を無残な肉塊にしてしまおうとした。
のだがそのとき彼の目に驚くべき光景が広がっていた。
「いい趣味してんねぇ。鈍野郎。」
自分が斬り捨てる予定だった、か弱き勇者の目の前に、黒と紫の戦士が刀一本でその倍以上ある大剣を受け止めているのだ。
「何者だ!貴様!」
「地球安全防衛隊裏・超人軍団突撃剣隊所属、クローズ!」
「突撃剣隊はザイグン様のところへ向かった二人と隊長のみで、隊長はまだ現場に いないはず。」
「二人。いない。見事に引っかかったな!」
「何!?」
「私がトウク隊長に連絡をもらってるときに、超人軍団の責任者が別で指示出したんだよ!」
今回の任務を美棘もといクローズが受け取った際に、別個で指示を出すからと軍団長がすぐに連絡を絶ったのはそういうことである。
二人だけが現場へ向かい、トウクが遠くから指令を行っているという偽情報を流していたのである。
というのもボー・ザイグンは用心深い奴で、始めからフル戦力で挑んだ場合、全サイボーグを一点に集めて一気に潰しにかかってくるので少人数で行かせ、油断させた上で戦力を分散させる必要があったからだ。
「お・おのれ!」
「さぁ、逆転のはじまりだぜ!サイボーグ共!」
続く
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