鉄華の薔薇(汚れ仕事遂行集団の女戦士が愛と平和を守る話)

凩三十郎

第1話  凶悪サイボーグSOS

「へへ、初心だなお前。いいよ、私がしっかりリードしてやる。」


「お、男なのに面目ない…」


「そう冷めるようなこと言うなって。私はそんなお前が大好きなんだからさ。」


「そうか。ありがとう。」


「んじゃ、そろそろ始めっ…」


  ガタガタガッターン!


「あ”ぁ”いでで。」


「あんた寝言馬鹿みたいにデカいわね。」


「ん”あ? あぁ…夢か。」


「いい年してベッドから落ちて目覚めるってのはどういう了見よ?」


「お高くとまってるお前にはわからんさ。肉欲含みつつ求めあう愛なんて。」


「あら?言ってなかったけ。私ベッドで男の子にマウント取るの得意なのよ?」


「お前のそれは愛なんかないだろうに。」


「さぁどうかしらね?」


素敵な夢から覚めたこの肉食系のレディ、黒薔薇美棘(くろばらみとげ)は寝ぼけ眼であっても愛を語ることはできるようだ。

対して、美棘をからかうもう一人のレディ、毒牙麗華(どくきばれいか)はもっと早くから起きており、ハキハキと喋っていた。


時刻は午前10時を回ろうというところで、ようやく目を覚ました美棘は麗華とダイニングでコーヒーを飲みながら、ぼんやりテレビを見ていた。


「ドラマとニュースばっかでしょーもねーなぁ、この時間は。」


「この時間のニュースは午後にも夕方にも繰り返されるのがオチよ。こんなもんだらだら観てたら時間の無駄。」


美棘と麗華は今こうやってのんびりやっているが、無職というわけではない。

ちゃんとした仕事が二人ともあり、それなりに稼いでいる。

だが、忙しさの波が激しく、死ぬほど忙しいときもあれば、只今のようにもの凄く暇なときもある。

まぁ、この仕事は忙しいほど世も末なのだが。


『臨時ニュースです。午前10時半現在、新宿のビルの一角が爆破されました。

爆破されたビルは6つの企業が入っており死者は少なくとも100人以上、けが人は1000人を超えるとのことです。繰り返します。』


「もしかして仕事かな?」


「連絡を待ちましょう。」


急に顔つきが変わる二人。やがて…


(ピーピーピーピー)


「おう!アタシだ!やっぱりか。今すぐ行くぜ。」


「話が早いのは嬉しいのだが、もうちょっと聞け。」


「ん?」


「私から言えるのが一番楽なのだが、別でこれから指示を出さねばならない。トウクに変わる。」


「あ!ちょっと軍団長!」


「話を聞け言うとろうが。全くもう。」


「スンマセン、トウク隊長。」


「ホンマにしょうがないやっちゃ。いや、そんなことはどうでもええ。お前には討伐やなくて警護を頼みたいんや。」


「そりゃどうしてさ? アタシは実力落としたつもりはないよ。」


「そういうことやない。今回の事件の犯人はブラックサイボーガー言うて凶暴な改造生命体、サイボーグテロリスト集団。現場に偵察へ出たモンが、幹部や構成員を過去のリストや事件と照らし合わせて割り出した。せやけど現場にいる人数とリストの人数が合わん。杞憂といえばそこまでやが、避難するモンや表部隊の救助を狙って他のサイボーグが別で潜んでるかもしれへん。そこでお前に頼もういうこっちゃ。」


「そうは言ってもよぉ。今確認されたサイボーグ共を片付ける方が大事じゃねぇの?」


「それならもう他の突撃剣隊のメンバーが対処に向こうたで。」


「マジかよ…もっと早く言ってくれよ。」


「んふふ、残念ね。」


「黙ってろパツ金!」


「落ち着け美棘。救助の警護に表部隊の三郎君がおるぞ。」


「…ったくしょうがねぇなぁ…わかった。すぐに救助隊の警護へ加勢する!」


「おう!頼んだで!俺も現場へ向かう。現地でまたの。」


一連の通信を経て美棘と麗華は爆破された新宿のビルへと向かう準備をテキパキと始めた。


「スーツと武器の調節は大丈夫そうだな。」


「私は小間使いちゃんのエネルギー量と弾数を確認しなきゃ。」


先ほどの空気からは一変して真剣な顔つきの二人。


「準備はいいか?」


「ええ、完璧よ。」


「やっぱり三郎君ってアナタにとっては重要事項なのね。ふふ。」


「う、うるさい!行くぞ!」


「まぁ照れちゃって。」


美棘と麗華の所属場所は防衛隊の裏。通称裏の部隊と呼ばれているところで、暗殺や討伐・破壊工作といった物騒だけれども、誰かがやらねば平和が脅かされてしまう事態への対処をメインの仕事としている。

その反対に表の部隊というのがあり、救助や暴徒の捕縛・有害な巨大生物の駆除に警備などをメインとしており、先ほどの三郎はその中の警備隊の隊長を務めている男だ。


因みに、美棘が夢の中で逢瀬を楽しんでいた相手は彼である。



「マッハフルール発進スタンバイ。」


「OK 異常なしいつでもいいわ。」


準備を追え地下の車庫もといドックへ向かうと、黒と紫を基調とした乗用車に乗り込み現場へ向かう寸前の二人。


彼女らが駆るこのシボレー・コルベット状の車、マッハフルールはただの乗用車ではなく様々なギミックや兵器が搭載されたスーパーカーで、二人の友人である科学隊所属のメンバーに製作してもらったものだ。


「行くぜ!」


「ええ!」


美棘がギアを1に入れ、アクセルをグッと踏み込みながら左足をクラッチから離す。

マッハフルールはドックの中に暗い細い道を走り始めたかに思えたが、その道の先がいきなり明るく開け、外の景色が見えた。

マシンの発進をセンサーが感知し、自動で扉を開けたのだ。


二人が住んでいる家はよくある一軒家だが、地下のドックがとても広く、地上へ向かうための通路が裏山まで続いており、余裕を持ってこのスーパーカーを維持することができる。


「さてさて、久しぶりの出動と来た。ここはひとつ爆走といこうかね。」


「私は助かるわ。その方が早いし。」


「じゃあスーツの装着しとけよ~」


「言われなくてもやるわよ。なんだかんだで長いんだからこの仕事。」






新宿の爆破されたビル内にて


「ハッハッハッハッ。脆弱な人間共が。何が医療のためのサイボーグ技術だ。このようなすばらしい技術を威力最大に使わないとはまったく持って弱者の考えよ。」


「ボー・ザイグン様。防衛隊の、裏の輩が来ました。」


「ようし返り討ちの準備だ。それと生き残りの人間や救助などを行う哀れな人間を弔ってやれ。」


「ハイル・サイボーグ! 鉄と肉が混じりし同胞たちよ! ザイグン様の作戦を決行せよ!!」


「「「ハイル・サイボーグ!!」」」


「「「ハイル・サイボーグ!!」」」


ブラックサイボーガーの企みは、くしくもトウク隊長の読みどおりであったが、読みの先にある勝利を手にするには、出動するメンバーが悪魔のサイボーグ共を打ち倒すことが必要不可欠である。


戦いは勝たなければ、意味がない。



                             {続く}

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