2%の恋
@k-ASSY-t
読み切り
消費税が8%から10%に上がった。保育園の無料化などに使われるための2%らしいが私にはあまり興味が湧かなかった。もちろん消費税は高いよりは低い方が良い。だが払えと言われれば払う。それに反発しようとも思わないし増税の賛否にも興味はない。言われたことをすれば良いだけだ。私はそんな適当な性格で関心の低さは他人にも同様であった。
「そういえば綾香はもう増税チャレンジ済ませた?」
調子の良い声で話しかけてきたのは学校で私が唯一仲の良い人物と言える浅水だ。と言っても格別に仲がいいわけでもない。学校での暇な時間を紛らわせる為に一緒にいるだけだ。友達か?と聞かれると素直にイエスとは答えづらい、そんな仲だ。
「何それ意味わかんない」
「知らないの?なんでもキャッシュレスで買い物をすると5%還元されるらしいよ。だから買い物によっては昨日より安く買えちゃうってわけ」
なるほど、そういえば朝のニュースでそんなことを言っていたかもしれない。だからってそんな事をチャレンジっていうのはどうなのだろうか。
「でもそれって6ヶ月限定なんでしょ?増税への批判を紛らわせる為の姑息な手段じゃないの」
「え!そうなの!?だったら今のうちにいっぱい買い物しとかなきゃ!!」
こういう輩がいるうちは日本は平和なのかもしれない。ただ、浅水のこういう単純バカなところは嫌いじゃない。
「あ、綾香今、失礼なこと考えたでしょ?」
「そんな事ないよ。それよりももうすぐホームルーム始まっちゃうよ」
「うーん、上手いことはぐらかされた気がするけど今日のところはこれくらいにしといてやる!覚えてろー!」
なんで悪役でしかも負けてるんだよ。一人でそんなツッコミをしつつホームルームが始まる鐘が鳴り始めた。
どうやら今日は直近に迫った修学旅行の班決めをするらしい。3〜4人で班を作って観光地を回れとのお達しだ。私はこういう班行動の時は一番後ろを死守するという使命を自分に課している。だから中学生の時は見事に自分のポジションを守り切った。やはり何事もやり切った後の達成感は素晴らしいものだ、と数年前の事を思い出していると先ほどまで騒然としていた教室は若干の落ち着きを取り戻していた。普段から集まっているメンバーで次々と班ができていっていたのだ。
「私たちはどうしよっかぁ」
耳元で不意に呟かれたその一言で私は図らずも飛び起きてしまった。先ほどまで突っ伏していたのでいきなり飛び込んできた光によって私の世界に色が現れた。
「いきなり声かけないでよ」
「いきなりって何さ、私は最初からここにいたよ?」
「なら起こしてくれたらよかったのに」
「綾香またゲームで夜更かししてたんでしょ?だったら寝かせといてあげようかなって。まぁ流石にそろそろ班を決めないとだから起こしちゃったけど、てへ」
てへ、じゃないよ、てへじゃ。だが私は浅水のこういう気遣いができるところは純粋に好感が持てる。もし生涯を共にするパートナーができるとしたら浅水のような子がいい、そんな柄にもない事を考えてしまった。
「あ、今なんか私のこと褒めてくれてた?」
「そんな事思うわけないでしょ。てか勝手に人の頭の中覗かないで」
「やっぱ褒めてくれてたんじゃん、素直じゃないなぁ!」
浅水はよく人の考えてる事を当ててくるから油断がならない。それだけ観察眼が優れてるという事なのか、私には到底真似できない技だ。
「それにしても後1人どうしよっか。班は最低でも3人は必要なんだよね」
「最後に残った人と組めばいいんじゃない?もし誰も余らなかったら2人でも問題ないでしょ」
「それもそう…なのかな?ま、いっか。そういえば昨日妹がね…」
浅水のたわいもない雑談タイムが始まり私は相槌botと化す。いつもの、平凡な日常の1ページだ。例え消費税が上がっても、仮に日本の総理大臣が変わっても私たちの生活には大して影響し無い。でも、もし仮にあと2%でも私の心に正直なれたら…何か変化が生じるのではないか。そんな自分らしく無いことを考えながもう一人の班員の登場を待っているのだった。
2%の恋 @k-ASSY-t
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