決して届かないもの
「あとは、むげんの散りざまの話かな」
「散りざまって言うな」
なんて言い草だ、ギリギリセーフだろうが。ぼくはまだ、生きている。
「あはっ。どこまで覚えてる?」
「変な目玉を、ぼくの全身で貫いたところ」
夢でなければ、その辺りだ。その確率が低いとも、思ってはいない。
「あれは、流れ星の一人。その本物の瞳だよ」
「はーん」
「だから、恨まれちゃったね。当たり前だよ、一人の人間の片目を奪ったんだから」
そんなことを言われても、困る。こっちだって必死だった。
「正当防衛だろ。ぼくは悪くない」
「そうかな? 流れ星は、世界を修復するために動いたんだよ。それにむげんの行動は、自分の身を守る行動じゃあないよねぇ」
言われてみると。自分が悪い気がしてくるから、不思議なものだ。
一方的な行動は、世界を守るためのもの。ぼくの行動は、邪魔をされたことが気に入らなかったから。
……うん、こっちが悪いのかもしれない。
「でもまあ、やったことは戻らない。戻そうとも思わない。怒っているかな?」
「怒っていると思うよ。でもむげんの存在は、まだ知られてはいないと思う」
「なんで、正面から堂々と攻撃したけど」
「向こうは向こうで大変だったから。世界を修復するのは、片手間では不可能だよ」
言われてみればその通りだが、それでは不意打ちになっていたのか。
それも気に入らないな、正面から出会ってみたいものだ。でも現実になったら、脇目も逸らさずに逃げることにする。
「なら問題はないか。何も気にせずに、のほほんと生きていくよ」
「正体がわからないだけで、必死に探すかもよ。出会ったら、危ないね」
「大丈夫だよ、片目の奴には近づかない」
近づかないし、話しかけない。関わらないし、遊ばない。
この思いを忘れない限りは、どうにでもなるだろう。
「しかし、ぼくの行動には意味がなかったのか」
「……凄く意味があったと思うよ」
意味を求めての行動ではなく、衝動的な行動だった。だからそこには、一つの価値も必要なかったのに。セカイはそこに、何かを見出す。
「本来は不干渉な流れ星を引っ張り出して、世界に大きな影響を与えるようになった。強すぎるから並行世界に行っているのに、戻ってきたんだから」
「だから?」
「危険度は、何段階も上がったね。他の流れ星たちも、興味を持ってしまうかも」
嫌なことを言う。
学院長より強い奴らは、他の世界に行ってしまう。でもそれは、あくまでも自分の意志である。
退屈な元の世界に戻ろうと思えば、簡単に戻れるのだ。
「なんでだよ、興味がない世界に帰って来るなよ。異世界でも並行世界でも行って、二度と帰ってこなければいいのに」
会いたくなったら、こっちから行く。だから危険な奴らは外に出ていろ。
そんなスタンスだから、世界は平和なのに。
「今回の件ってさ、みんな覚えているのかな?」
「覚えているのは、あたしとむげん。流れ星が全員と、世界の壁の連中かな」
結構な人数が、記憶を残しているものだ。
「それと誰かが報告して、魔法政府にも知れ渡っている。世界の危機は、隠してはいけないものだからね」
世界の危機を、隠してはいけない。
……深い言葉だが、意味は聞かないでおこう。なんだか、嫌な予感がする。
「世俗に詳しくなったものだ。暇なんだなあ」
「あはっ。細胞たちを知るだけなら、面白いからね。それに、むげんのためにもなる。むげんこそ、もう少し世の中に興味を持ったらどう?」
「興味を持っても、直ぐに忘れるから」
覚えていられないものに、興味はない。なぜ覚えていられないかと言うと、興味がないからだ。
「でもさあ、流れ星って何が目的なんだろうな」
「どういう意味?」
「なんで異世界に行くんだよ。何を目標に生きているんだ?」
元の世界が退屈なのはわかる。でも、退屈な人生にも意義は見いだせるだろう。
つまらない日常を、のんびりと生きる。それはそれで、幸せなものだから。
ぼくは嫌だけど。受け入れてみれば、問題はなかったりもする。
「それは明白だね。流れ星はみんな、ここを目指しているんだよ」
「……は?」
さらっと言われたせいで、頭が混乱してしまう。この場所を目指してる、最強の奴らが?
「なんで」
「目的は様々だよ。崇高なものから、くだらないものまで。まあ、細胞たちの尺度だけどね」
まあ十人もいるんだから、目的は様々なのか。
どう聞いても、ひとくくりに出来る集団じゃない。一人一人が、適当に遊んでいるみたいだ。
「この場所にはなんでもある。そして、どんな願いだって叶うからね」
セカイが手を振ると、景色が様々に移り変わる。
綺麗な花畑が、広大なビル群に変わり。熱い砂漠に変わったと思えば、氷河にもなった。
「あはっ。ここは全ての原点で、あたしが生きている本質世界。極めた細胞たちがここを目指すのは、当たり前と言えば当たり前だよね」
その言葉には納得しかなく、こいつを目指す流れ星どもに同情する。それはもう、涙が出そうなほどに憐れみを覚える。
……どれだけ凄くても、どれだけ強くても。セカイに届くわけがないのだから。
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