感情の問題
世にも珍しい筋斗雲から降りると、ぼくたちは大きい街に辿り着いた。
フェリエの別荘があり、一室を与えられた。ぼくの好きに使ってもいいらしい。
よく考えたら。あいつらの予定を知らないのでこれからの行動を決めかねていると、大きな足音が二つ。扉をノックされて。
乗り込んできた人の姿も、二人分だった。
★
「……ありえないぜ」
「同感じゃ……」
連れ出されたのは、街から少し離れた荒野。不審者の正体は、チャラ男と爺さん。
ぼくがなにをしているかというと……。
「これでわかっただろう? ぼくは、好きなだけ魔法を覚えることが出来るんだ。使えないけどな」
半信半疑だった二人に、証拠を突き付けていた。具体的な手段としては、二人の魔法を覚えたのだ。
「本の魔法も、骨の魔法も習得できた。これが証拠だ」
手に持っているカードを、二人に見えるように振ってみる。そこには正確に、魔法を覚えた証が。
EXの数字が、二つほど増えている。オリジナル魔法を、二つ習得したと言うことだ。
「けどよ、相変わらず魔力は感じないぜ」
「……つまり、魔力がなくても魔法を覚えることが出来る体質か?」
パニックが深く考え込みながら、何かを呟いた。
「この世界には、不思議な体質を持つものが多い。魔法使いでもないのに、超常現象を起こせるもの。人でありながら、化け物の手足を持つもの」
「魔力がなくても魔法を覚えることが出来るってのも、体質だってことか?」
「それがもっとも説明がつく」
二人で勝手に納得しているが、それは違うだろう。
「偉い奴らが、ぼくに魔力があるって言ってるんだぞ」
「なにか事情があって、お前さんを騙しているのかもしれぬぞ」
「例えば?」
学院長やルシルならともかく、トワが嘘を吐くとは思えない。あれは考え方も、精神構造も。まともな人間とは違う。
うっかり嘘をついても、現実の方を変えて誤魔化すやつだ。
「普通の人間と魔法使いの上下関係を、崩す原因にすらなりかねんからな。魔力があることがわからないのなら、お前さんは魔法使いの一員と言える」
この世界は魔法使いが、普通の人間を支配している。
暴力など使わなくても、圧倒的な存在感には逆らえないし。魔法を使った経済活動には、科学文明では勝てない。
何かの間違いで戦争を仕掛けても、一人も殺さずに場を収めることが出来てしまう。
これだけの実力差があって、対等な関係が築けるわけもないのだ。
「へえ」
だが、なんといっても強さこそが物を言う。魔法使いが強いから、この構造は成り立っている。
その中で、圧倒的に強い普通の人間が現れてみろ。革命や下克上が起きることは、想像に難くない。
違った未来の始まりになることを、理事長たちは恐れたのだ。
……ということを、長々と説明された。
「そんなもの、力で抑えつければいいだろう?」
特殊な力だろうが、特別な力だろうが。育ち切る前に、仕留めればいいのだ。
「今の平和を崩したくないのじゃよ。感情を置いておけば、世界は上手く回っておる」
上下関係と言っても、大きな問題なんてない。
魔法大陸なんてものを作ったり、魔法使いの隠し里なんてものもある。新しい文化を作り、人口を増やしていることで様々な問題は解決された。
食糧問題も、人口増大問題も。文化の停滞や、人間同士の争いも解決している。これらの全ては、魔法使いが普通の人間を支配していることによる恩恵だ。
ただ一つ。支配されていることに対する感情論だけが、いつまでも残っている。
「普通の人間たちは、それらの利益を全て奪ったうえで、魔法使いと対等になりたいのか」
「逆に魔法使いを支配したいんだよ。力もないくせに、夢ばかり見てやがる」
所詮は奴隷だからな。
まあ、説明はよくわかった。新しい意見も多く、参考になったと言えるだろう。
この世界は潜在的な危険を抱えていて、その起爆剤になることを恐れたと。
……考えすぎだ、陰謀論にも程がある。
「何度も言うが、ぼくには魔力がある。お前たちこそ、夢を見ているんじゃない」
「でもよお」
この国の魔法使いは、あまり強くない。普通の人間とは比べ物にならないが、魔法使いで言うと真ん中ぐらいだ。
その理由は、文明と調和していることにある。最新科学なども利用し、科学的な強さを必要だと考えている。
魔法とは神秘だ。簡単に言えば、謎だ。不思議だ。理不尽だ。
強さの根幹を削って、新しい強さを求めている。ようは中途半端だ。中途半端な奴らが、強いわけがないんだよ。
「お前たちの話は疲れる。そんなことよりも、報酬の件をよろしく」
ぶつぶつとうるさい二人を置いて、街に向かって歩いていく。
久しぶりの臨時収入だ。現金をもらうと、あの鬼に全てを没収される。
だから珍しい魔道具などを、いただくことにした。全部エキトの店に送らせて、後で代金の分だけ遊ばせてもらおう。
オチが付かないことを祈ろう。例えば……。やめた、現実になりそうだ。
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