仲間

 


「さて。そっちの質問には答えたな。今度はこっちの質問に答えてくれや」


 フェリエに纏わりついている黒い影を、ボンヤリと見ていたら、ファングがそんなことを言い出した。


 慌てて視線を戻すと、ニヤついた顔が癇に障る。


「まだ聞きたいことは山ほどあるぞ」

「……それは後回しだ。日が暮れちまう」


 まだあるのか、と呆れた顔と声。仕方がないだろう。興味はないが、知らないことが多すぎる。


 情報が物を言うのは、どこの世界でも同じだ。身を守ることと、楽しく立ち回るために必要なものなのだ。


「お前は、何の目的でおれっちたちについて来たんだ?」


 真面目な顔に戻して、よくわからないことを聞いてくる。


 ファングのその質問に、ぼくはなんと返せばいいのだろう。


「そんなものはない」

「嘘つけよ。これは綿密に練られた計画だろう?」


 どこがだ。


「地下に落ちた時に、サクリの奴としっかりと考えたんじゃねえの? 見事なフォローだったぜ。うちのリーダーを丸め込んでいたからな」


 あれは完全にアドリブだ。サクリの奴ですら、驚いていただろうよ。


 協力するから、黙っていろといっただけだからな。


「あの小僧の心変わりも、お前がそそのかしたんだろう? あんなことを言う奴じゃない。もっとフェリエの奴にべったりで、ものを考える奴じゃなかったからな」

「そうじゃのう、心配になるほどに妄信していて。いつまでも子供のような理想を語っていた」


 追撃するように、パニックも会話に参加してくる。


 ああ、確かにそんな感じだったな。でも、別にぼくがそそのかしたわけじゃない。


「大したことは言ってないよ。フィアのことを悪者にしたいようだったからな、人間はそんなに単純じゃないって言っただけだ」


 自分が語った内容なんて一々覚えてはいないが、大まかにはそんなことを言ったと思う。


「でもその程度で、人の心は変わらないだろう? あいつは自分の意志で何かに気づいて、自分の意志で行動を起こしたんだよ」


 そもそもの話だが、サクリの奴に関心なんてない。


 必要なのはあいつの持っていた情報と、その思想にぼくがどう思ったかという現実だけだ。


「十分に影響を与えていると思うぜ。実際にあいつは外に飛び出たからな」

「……だからなんだよ。何が言いたい?」


 さっきから話が回りくどい、あの少年に影響を与えたからなんだというのか。


「ありがとな」


 唐突に、頭を下げられた。


「ワシからも礼を言う。お主のおかげで、サクリの奴は成長をした。その末にどうなるかはわからんが。良い影響だと、思っているよ」


 メディも続き三人に頭を下げられているが、どうしろと言うのか。


「気にしなくてもいい。さっきも言ったけど、ぼくはなにもしていない。あいつが勝手に、少しだけ頑張っただけだよ」


 その言葉で三人は顔を上げる。機会を窺っていたのか、もう一人も……。


「僕からも、感謝の言葉を。感情的になってすまなかった。大切な仲間が心配で、冷静になれなかったんだ。……ありがとう」


 近寄ってきたフェリエは、頭を下げないが素直に礼を言った。


 感謝の言葉は悪いものじゃないが、何もしていないので居心地が悪い。


「お前たちは、随分と仲がいいんだな。まるで家族みたいだ」

「……そうだな」


 素直にうなずいたのは、四人とも。


「もう随分と古い仲だし、ずっと協力して助けあって来たんだ。仲がいいのは当たり前だろう」

「サクリの奴は、まだ一年ほどだけどな」

「それでも、もう仲間じゃよ」


 メディも頷いている。本当に仲がいいな、気味が悪いほどに。


 家族も友もわからないぼくには、理解できないものに感じる。それでもきっと、いいものなんだと整理しておこうか。


「お前たちのパーティーは、仲が悪いのか?」


 フェリエの直球の質問だが、さてどう返したものか。


「よくわからないが。少なくとも仲間がいなくなって、心配なんてしないな」


 ぼくは。


「怪我をしても、治療をすればいいだけだし。暗い顔をしていても、自分で解決しろって感じだ」


 ぼくはな。


「仲間が裏切ったり、離れたりしても、新しい仲間を作ればいいと思っているよ」


 ぼくはそうだ。


 ……他の奴らがどう思っているかは、全く知らないが。


「冷たい奴らだな、フィアは仲間を何だと思っているんだ!」

「ホントだぜ、人の心を持ってねえよ!」

「全くじゃ、パーティーを組む資格なんてないわ!」


 みんな怒りの表情を浮かべて、リーダーであるフィアに憤っている。


 仲良しパーティーには、ぼくたちの考えは理解できないものなんだろう。


 さて、個人的な考えを語ってみたが。果たしてあいつらは、どんな風に考えていたのかな?


 今度聞いてみるのも、面白いかもしれない。

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