再起動

 


 あれ、意識がとんでいた。なにをしていたんだっけ。


 おぼろげだけど、何か巨大なものと戦っていた気がする。決して許されない悪と戦い、正義の味方として敗北したような……。


 そんな、充実感を感じている。


「よかった、気が付きましたか!?」


 心中で、自分の頑張りを褒めたたえていると。近くから焦ったような、心配したような声が聞こえた。


「あん?」

「本当に良かった。会話の途中で、突然声が途絶えたから心配したんですよ」


 ぼくは会話中に、意識を失くした。……ああ、少しずつ思い出して来た。


 サクリに、ためになる尊い話をしていると。突然眠気が襲い掛かってきたのだ。


 その内容は、ちっとも覚えていない。素晴らしいことを語っていたと信じよう。


「心配?」

「当たり前じゃないですか!? こんな暗闇の中で、二人しかいないんですよ。不安で不安で、泣きそうになりましたよ!」


 なにを情けないことを。年下だからと言って、いっぱしの魔法使いだろうに。


 ぼくを見捨てて、脱出するぐらいの気概はないのか。


「悪い悪い。なにか不思議な力が働いたんだ」

「不思議な、力ですか?」


 話を続けようとしたら、悪寒が走る。このまま続けたら、また意識を失いそうだったのでやめることにした。


「それよりも、何か進展は?」

「ありません。声が途絶えていたのは、一分ほどでしたから」


 そんな短い間では、何も出来ないと言いたいのだろう。


 うーん、ぼくの身に何が起きたのだろうか。


「まあいいや、何の話をしていたかな?」

「我々の話を、興味深そうに聞いていましたよ」

「……そうだったそうだった」


 なんとなく思い出して来た。名前と、戦いの動機を聞いていたんだ。


 サクリとファングの話を、聞けたんだよな。


「じゃあ、次」

「……この会話は、不公平だとは思いませんか?」


 あん? 不公平だと。


「ソレガシたちの話をするだけでは、偏りがあるでしょう。無限殿の話もしてください。それで、公平だと思いませんか?」

「ちっとも思わない。そもそも、公平なんて興味がない。ぼくだけが得をして、それでいいじゃないか」


 公平とか平等とか、美しいけど必要はないだろう。


「むう、年下相手に大人げない。ソレガシは貴方たちの話を聞きたいんです」

「なんだ。だったらそう言えばいいだろう。公平だなんて言うから、ややこしくなる」


 それなら話してもいいと思う。つまらない駆け引きみたいなことを、言わないで欲しい。


 小賢しいことは、賢い奴だけが語ればいい。頭の悪い奴は、いつだってストレートな気持ちをぶつければいいのだ。


「で、何が聞きたいんだ?」

「そうですねえ」


 質問しておいて、内容が決まっていないのか。


 それなら、ぼくの質問に答えていればいいのに。


「……同じことを聞きたいですね。何が目的で、フィア殿について行くのですか?」

「人それぞれだな」

「では、無限殿は?」


 正直に言っても問題ないだろう。大した話でもない。


「契約だよ。フィアに成果を出すと、報酬がもらえる」

「その、魔力のない無限殿が雇われたのですか? 頼み込んで、後ろをついているのではなく?」


 こいつは……。ぼくを舐めているな。戦えない奴を、フィアが仲間にするとは思えないのだろう。


「人間には、色々な取り柄があるものだ。ぼくだって、いいところがあるのさ」

「確かに。度胸があり、優れた剣を持っていますね。役立つ場面は、あるのでしょう」


 疑問符が付きそうな言葉だが、お前よりは強かっただろうと言いたい。


 魔力が絶対ではない。……いや、ほとんど絶対だけど。


「他の方々は?」


 もうぼくに対する興味は薄れたらしい。これ以上語れることもないが。


「フルーツは、護衛だな。トワは、学院の協力者。つぼみは、武者修行」

「フルーツ殿に、トワ殿に、つぼみ殿ですか。みなさん優秀ですが、利己的な理由ばかりですね」


 それはそうだろう。ぼくたちはフィアに思うところなんてないのだ。


 出会ったばかりだし、深く関わる気もない。なによりも、魅力がないのだから。


「それなら主の側についても、問題はないのでは? むしろ、より魅力的だと思いますよ」


 そうかもしれないが、その選択肢は選べないだろう。


「悪いけど、負ける戦いはしないよ。報酬が手に入らないと困るし」


 最終的な結論は、そこになる。


 どちらが勝とうが関係はない。この国がどうなろうが、知ったことではない。


 自分本位だと思うだろうか。でもそれは仕方がない。


 思い入れのないものに、深い気持ちを込めることは出来ないから。


「無限殿も、勝つのはフィア殿だと思いますか?」

「うーん。まあ、そうかな」


 打つ手はあるし、付け入る隙もある。それでも、勝敗が動くほどではないかな。


「……そうですか。あんな人が、どうしてそんな強さを」


 昏い声が聞こえる。含むものは、大きそうだ。


 ……よし、ほんの少しだけフィアを褒めておくか。


 それがきっと、サクリの慰めになる。

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