シャットダウン

 


「他にも聞きたいな。無駄なことをしていないで、ぼくと会話を楽しもう」

「無駄ではないでしょう。このままではどうなるか、わからない。早く脱出の手段を見つけるべきです!」


 座り込んで諦めているぼくとは違い、サクリは一生懸命に頑張っている。


 暗闇の中をゆっくりと歩き、壁を見つけては失望し、出口がないことに絶望しているようだ。


 その姿を観察していても面白いのだが、時間の無駄になることも事実だった。


「名前を教えてくれ。ぼくが知っているのは、フェリエとサクリとファングだな。残りの二人は?」


 斧使いと、トワに失神させられた雑魚の名前を知らない。


 覚えていられるかは怪しいところだが、一度ぐらいは知っておいてもいいだろう。


「斧使いの方は、メディ。……もう一人は、パニックです」

「へえ」

「彼女は、何者なんですか? パニックはソレガシたちの中で、最も強い魔法使いです。それを、一睨みで気絶させるなんて……」


 あいつが何者か。それは難しい質問だ。


「名前は、トワだよ。学院から送られた、協力者の一人だ」

「学院の? その名前には、聞き覚えがないですが」


 どうやって説明するかなあ。なんて言うのが正しいのだろう。


 いや、これ以上は何も言わなくていいか。


「あれは、異次元生物なんだ。よくわからない、ヘタレ女だよ」


 これが、ぼくの本心である。少しの間だけど、セカイやトワに接して来た結論。


 凄い力を持っていても、臆病で根性のない弱虫。


 ……そう思っている。


「な、なるほど!」


 おや。ぼくの言葉に頷きながら、納得できたらしい。


「あの人が異次元生物ですか!? それなら、全てに納得できます。あの強さも、底知れなさも。異次元から来た未知の人間なら納得が出来ますね!」

「うんうん。その通りだ」


 どうしよう、面白いぞ。


「目からは高出力のビームを放ち、口からは灼熱の炎を吹くんだ。手からは無数の銃弾を撃つし、足にはなんでも切れるブレードが隠されている!」

「すごいすごい! でもそれって、ロボットでは?」


 急に冷静になられて、少しだけ方向を間違えたと自覚する。


「……今のは、ぼくの想像だよ。本当は、どんな不思議を隠しているのか想像もつかない。ただ、口から炎を吐くのは本当だよ」

「ええっ!?」


 さて、今度はどんな方向に……。


『あはっ。いい加減にしてよね』


 寒気が走った。聞こえるはずのない声が聞こえた気がして、ぼくの口は自然と閉じる。


 それでも。謎の悪寒に負けずに、もっとデタラメを……。


「強さを極めた魔法使いは、他の世界に旅立っていく。それは、自らがより強くなるために最適な方法だからです。つまり、他の世界にはまだ見ぬ強者で溢れている!」

「そうなんだ」

「こちらから向こうへ行くだけではなく、向こうからこちらに来るのは道理と言うものです。あの人は、何故この世界に来たんですか?」


 詰め込んでやろうと思ったけど、サクリは勝手に自己完結して話を進めていく。


 これ以上は無理だと思い、話を合わせることに決めた。


「それはわからないんだ。トワは自分のことを語らないし、まだ深い付き合いもないしね」

「なるほど。ソレガシたちには計り知れない、何かを求めているのですね? そうでなければ、劣った世界に訪れるわけもありませんから」


 トワが本当に異次元生物なら、その通りだろう。


 征服者として訪れるわけでないのなら、目的があるに決まっている。欲しいものがあるのか、探している人でもいるのか。


 デタラメだから、深く考える意味もないのだけど。


「今度会ったときに、多くの質問をするといい。気分が良ければ、快く返事をくれると思うよ」

「心の優しい方なのですね。異世界は怖いところではないのでしょうか?」


 それは知らないが、心の優しい奴ではないと思う。


 無遠慮に近づいただけで、ぶん殴られるのではないだろうか?


「何事も挑戦だよ、頑張るんだな」

「はいっ。ありがとうございます!」


 前途ある少年を、地獄に導いた気もするが……。


 殺されることはないだろう。これでよかったんだと思う。


「こっちも聞かせてほしい。君たちの詳しい話が聞きたいな」

「……それは、ちょっと。他人のことを語るのは、あまりいいことではないので」


 むう、色々と教えてやったのに。恩知らずな奴め。


 ……いや、よく考えたら。何も教えてはいない気がするな。


「なら君たち五人は、どういう目的で集まった集団なんだ?」


 一人一人ではなく、全体の話を聞くことにしよう。それなら、問題はないと思う。


「それはもちろん、主を大統領にするためのチームです。次代を導くのは、彼しかいないと思っていますから」

「全員が、その意志で統一されているのか?」

「はい。でもその理由は、それぞれ違います。ソレガシは、主を尊敬するがゆえ。ファングなどは、戦いが目的ですね」

「戦い?」


 選挙活動に戦いは関係ないだろう。


「本命は、フィア殿ですからね。様々な妨害工作や、直接的な襲撃などがあります。まだ大統領に成った後でも、この国を治めたり他国との争いが……」


 その辺りの優遇が、約束されているのかもしれないな。


 詳しい条件などは、推測することしか出来ないが。一番偉い人間の役に立てば、あらゆる目的が成功に近づくのは間違いないと思う。


「いいなあ」


 そっちのほうが、条件がいいかもしれない。今のうちに鞍替えするのも、ありだな。


 でもぼくがこの国に望むことなんて、ほとんどない。


 ……なしだ。今は、まだ。


 そんなことよりも、もっとデタラメを吹き込……。

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