少しずつルールがわかってきた

 


「雑魚共はほうっておけ、俺がなんとかする」


「そうか」


 疑問はいらないだろう、こいつは真面目でプライドが無駄に高い。


 完璧を自分に求め、失敗を恐れるので出来ないことは口にしない。


「無限よ、さっきも言ったが神の炎に燃やせないものはない!」


 青色の炎をその手に宿し、解き放つ言葉を唱える。


「たかだか水が炎に逆らうな、ゴッドフレイム!」


「バ、バカかお前は!」


 主席くんを起点にして、青い炎が全方位に広がっている。


 その光景を見てギースが悲鳴を上げた、自分たちも一緒に燃やされると思ったからだろう。


 だが、青い炎は水だけを選んで燃やしていく。


 気付けばこの空間に満ちていた、全ての水が蒸発していたのだが……。


「バカかお前は! 空気中の水分やぼくたちの体に含まれる血液まで燃やし尽くす気か!」


「し、しまったあ!」


 少しだけ焦ったぼくの言葉が、主席くんの心に突き刺さった。



 ★



 危ないところだった、本当に。


「絶対にやると思ったんだよね」


 全ての水を主席くんのゴッドフレイムが焼き尽くした後、普通に空気が充満するいつも通りの教室に戻った。


 水蒸気爆発などの科学的な全ての問題は起きなくても、主席くんの魔法のせいでぼくらは全滅するはずだった。


「よくやったぞ、お前たち!」


 だが、長い付き合いのせいか全てを予想していたギースとグリムによって、決定的な危機は回避された。


 大体の功績はギースにあり、伊達に一番魔法使いらしい男ではないらしい。


 具体的には二人の使う稚拙な魔術を、ギースの魔法陣によって増幅させたらしい。


 やはりあの魔法陣は、凄すぎる物らしいな。


「それでシナモン、この攻撃がジャッジによるものだというのは本当ですか?」


「間違いないな、あの声がいい証拠だ。俺はジャッジ共が関わっている事件にも目を通したことがある。将来的には討伐して名をあげる予定だったからな」


「シナモン、無限にも説明してあげないと」


「そうだったな、どうせ貴様はジャッジなど知らないだろう」


 親切にぼくにも教えてくれようとするが、あいにくと知っている。


「そんなことはいい、それよりもこれからどうする?」


 どちらかというと色々と説明しなければならないのはこちらのほうなので、この話題を直ぐに終わらせてしまおう。


 もちろん、ぼくに説明する意思などない。


「まだ攻撃は終わっていない、俺たちが勝利した場合も声が聞こえるはずだからな。最優先は戦力を増やすことだ。そして、まずはその人形を介抱してやれ」


 主席くんの優しい言葉に、ぼくは嫌々この役立たずの人形に救命措置を施してやった。



 ★



 頑張って危機を乗り越えたフルーツを連れて、ぼくらは教室を飛び出す。


 それと、目で合図して詳しいことは話すなとフルーツに伝える。


 伝わったような気がするが、それよりも初めて溺れた経験に怯えてしまい、ぼくの腕を掴んで離さなくなった。迷惑この上ない。


 そして、まずは隣のクラスの様子を窺う。


 ぼくらには色々な思惑があるが、まずは情報が必要と言う意味で意見が一致したのだ。


「これは、どういうことだ?」


 主席くんの困惑した声がぼくたちに響く。


 その言葉の意味はよくわかる。


「おそらくは呼吸が出来るようになって外に逃げて行ったクラスと、全員が原因不明で死んでいるクラスがありましたね」


 ようやく動揺が収まったフルーツが冷静にそう口にする。


 だったら腕を放してほしいのだが、そう言うと文句が返ってきそうだ。


「廊下にも死んでいる生徒がたくさんいた、多分だけどこれは二種類の攻撃がされているってことだろうさ」


 ぼくはそう判断する。


「それは、ジャッジの人間が二人同時に私たちを攻撃しているという意味ですか? それとも、ジャッジとそれ以外の勢力が、同時に私たちを攻撃していると言う意味ですか?」


「クーデターだからね、ジャッジ以外にも色々な敵がいるんだから後者の可能性が高いだろうねえ」


「待て、クーデターとはどういう意味だ?」


 おっと、口が滑った。


「貴様ら、さっきからなんらかの事情を知っているような口ぶりだな。全て話せ!」


 うーん、面倒だなあ。


「悪いが守秘義務があるんだ、ぼくの師匠から絶対に話してはいけないと言われている。すまないが本人から直接聞いてくれ」


 ありもしない守秘義務で主席くんの追及をかわし、説明をルシルに押し付ける完璧な作戦を実行する。


「む、ならば仕方ない。あのルーシー・ホワイミルトならば深い考えがありそうだ」


 あるわけないだろうが、世界最高の魔法使いと言うものに理想を持ちすぎだ。


 ぼくらは今、自分たちだけでの解決を簡単に諦めて、学院長室に向かっている。


 それほどまでにジャッジが危険だと主席くんは判断したし、戦力を集めることが安全だと判断したみたいだ。


 ちなみに、窓の外は見ない方がいい世界が広がっている。


 恐怖によって学院から逃亡しようとした奴らが一人残らず死んでいて、地獄のような風景が広がっているのだから。


『十人生き残る』


 また新しく声が聞こえた。


『ジャッジ第六席の敗北。全ての死者は生き返り、第六席は半年間魔法が使えない』


「……は?」


 なにやら面白い声が聞こえた。


「死者が生き返る?」


 ぼくは学院の外に目を向けると、ほんの僅かな人間が動き出し、少ししてまた倒れた。


「フルーツ」


「単純な話です、声の通りに水によって少数の溺死してしまった人間が生き返り、別口である原因不明で死んでしまったのでしょう」


 なんてわかりやすい説明だ。


 これはいるぞ、確実にジャッジ以外の敵が。

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