闇に堕ちた長男
楽しい話を聞かされて、テンションが上がったのか下がったのか。
もっともわかりやすく説明をするのなら、その日が早く来ないかなと思う。
「思い出すのは、犬の叫び」
時々その気配や存在をを感じるが、未だ敵か味方もわからない。
「あれはどっちなんだろうな」
誰にも話してはいない、何故なら物事は不確定な要素が多いほうが楽しめるのだから。
★
珍しく緊張感があった気がする話し合いを終えると、ぼくは一人学院内にある図書館に来ていた。
保健室のように学院の庭に建てられていて、外部の人間も利用できるようになっていたようだ。
外から見ると、体育館程度の建物に見えるが実際はその大きさが図れないほどに広い建物だったりする。
置いてある蔵書数は世界でも三指に入る量だと、初めて来たときに司書に自慢された。
「ここは静かでいいんだよな」
図書館内はしっかりとエリア分けされていて、ぼくが向かうのはその最奥。
禁書エリアと言う場所だ。
ここにはまず覚えることが出来ないような凄い魔法書、知ってしまうと魔法社会から追放されてしまうような情報が載っているような、国宝級の本が本棚に並べられている。
「あの学院長なら、みんなが利用できる図書館に危険な本を置いても不思議じゃあないな」
そうはいっても、禁書エリアは絶対に人が入れないような結界が張られているらしいのだ。
でも、禁書エリアなんて存在すら知らず、図書館をぶらぶらと探索していたぼくは、不思議とその中に入れてしまった。
管理人の怠慢か、それとも何らかのどうしようもない理由があったのか……。
詳しくはわからないが、一度中に入れたぼくは図書館の結界に認められてしまい、好き放題に禁書エリアを利用できるようになってしまったのだ。
それと同時に、魔法を使えなければなんの意味もないとはいえ、管理者権限のようなものも手に入った。
「知りたくなかったな」
これらの裏話は全てヴィーに聞かされたことであり、今の状態でこの事実を知っているのはぼくとあいつだけ。
この情報は今から数か月前、初めて図書館を利用した時期に知ったことだった。
★
閑話休題、ぼくはいつものように禁書エリアに入り込む。
別に読みたい本があるわけでもなく、調べたいことがあるわけでもない。
ただ、ここは静かなんだ。
「煩わしいものがない、楽だ」
ここにはルシルやフルーツですら、手続きをしなければ入れない。
今の時点ではだが、絶対の隠れ家の一つだ。
「まあ、本気で気を抜いていると利用者が来るんだけど」
本当に、滅多にないことだが正式に許可を得てここになんらかのことを調べにくる輩はいる。
例えば、今も一人熱心に調べている見覚えのある人物が一人。
あまりにも懐かしい顔なので、見間違いなのかと思ったりもするほど。
「ちっ、せっかく侵入したのに見つからないか」
その男は、どうやら不法侵入者らしい。自由に利用出来る場所なのに不思議な話。
そういえば悪い奴になったと聞かされていた。
「これでは無限を救えないか、だが蔵書量は計り知れないんだ。どこかには正解があるのかもしれない」
懐かしい話だ、男はぼくを助けるために闇に堕ちたらしく、昔から何も変わっていないのがよくわかる。
勘違いだと、余計なお世話だと、何度も説明して来たのに。
……まだわかっていないのか。
「オレは諦めないぞ、あの呪われた子供を必ず救って見せる」
いわく、ぼくが他者を理解できないのは呪われているかららしい。
まだ魔法なんてものを知らなかった小さいころ、絶対に呪いを解いて助けてやると何度言われたことか。
その言葉はぼくにとって、冗談でしかなかったが。
この男にとってはずっと本気で、その明確な勘違いを人生を通してずっと貫いてきたらしい。
暫くの間、ぼんやりと男を眺めている。
声を掛けようなんて発想もなく、ただただ懐かしくて見つめていた。
が、いい加減飽きて興味を無くしかけたころ、ようやくこちらに気づいたらしい。
当たり前と言えば当たり前の話で、ぼくは姿を隠しているわけでもなく、堂々とこの場にいるのだから。
まだぼくに気づいていないほうが不自然なぐらいだ。
「誰だ!」
ご挨拶だな、今頃気づいたくせに。
「この顔を見忘れたか?」
挑発的に尋ねてみると、面白いほどの動揺が伝わってくる。
「……無限、か? 何故ここにいる?」
当然のことながら、向こうはぼくが魔法と言うものを知っていることすら知らない。
当時、こいつと最後に会ったときのぼくはまだ子供で、何も知らなかったのだから。
「ああ、ホント懐かしいな長男。楽しく生きているか、呪理?」
男の名前は呪理(ジュリ)。
シホやキイチの兄で、六年前に独り立ちしてどこかに行ってしまった男。
もう二度と会うことがないと思っていた、三兄弟の長兄であった。
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