訓練であり、マジな殺し合いが始まる

 


「では、始め!」


 教師の声により、授業が始まる。今から三十分間は戦闘禁止で、自分の作戦を決めることが出来る。


 自分のテリトリーを作るもよし、戦いたい相手を探すもよしだ。


「マスター、どうしますか?」


 今回はガチ戦闘なので、フルーツもぼくをマスターと呼ぶらしい。


「決まってんだろう、手当たり次第だ」


 今までは圧倒的に強い奴や、簡単に戦うのをためらうようなやつばかりが目の前に現れていた。


 だから敵に会っても対話や、逃亡が基本的な行動指針だったが今は違う。


 ぼくは本来、まどろっこしいことは好まない。


 だが、結局は自分で戦えないので、これでも妥協しているのだ。


「了解です。訓練場の中では、生物を殺しても室外に飛ばされてしまうだけなので安心ですね」


「ああ」


 つまり、ぼくも多少の無茶は許される。


 どいつもこいつも、一般人では魔法使いに勝てないと言う。


 それがどういう意味を持つか、試したくて仕方がなかった。


 魔法使いでも人間だ、やり方次第では勝てるのではないか。


「ですが、周囲に人の気配はありません。適当に移動しては効率が悪いのでは?」


「ならギースを狙う」


「理由は?」


「弱そうだからだ」


 奴は服装からなにまで魔法使いだ。


 つまり貧弱そうで、魔法が使えないぼくが狙うに相応しいと言える。


 とにかく近づいてしまえば、どうにでもなりそうなのだ。


「はい。甘すぎる思惑ですが、フルーツが傍にいればどうにでもなると判断します」


 舐めてんのかこいつは。


「そして、ギースの居場所は遠くありません。北方向に進めば数分で遭遇します。どうやら自らのテリトリーを築いているようですね」


「待ち伏せ、つまりは罠か」


「どうしますか?」


「何度も言わせるな、正面突破だ」



 ☆



 少し前にフルーツと二手に分かれた。


 フルーツが攻撃を仕掛けるので、安全なところで隠れていてくださいと言われた。


 そんなものは無視して、ギースの背後から奇襲をすることに決めた。


 とりあえず、フルーツに注目している内に後ろから殴ってみようと思う。


 ギースは大きめの岩の上に座っていた。その周辺一メートルぐらいには変な模様が描かれている。


 おそらくは魔法陣だろう。似たようなものを漫画で見たことがある。


 詳しくはちっともわからないが、フルーツが攻撃を仕掛ければわかるだろう。


 そんなふうに考えていると、フルーツが物陰から飛び出した。


 目に留まらないほど、では全然ないが全力でギースに向かっていく。


「では、死んでください!」


 フルーツは既に槍のようなものを持っている。ぼくと同じように近づいて攻撃することを選んだようだ。


 おそらくはフルーツも、ギースを弱いと判断したのだろう。


 だが……。


「炎よ、雷よ!」


 ギースが腕をかざすと、とてつもない勢いの炎と空からの雷がフルーツを襲う。


 驚いた、これは凄いのではないのだろうか。


 今の攻撃で人間の三倍もありそうな大木が、十の単位で焼け焦げた。


 クラスにいる大したことがない魔法使いどもなら、一掃できそうだ。


「本当に驚きました。あなたは雑魚ですよね? 本当はフルーツよりも強いのですか?」


 フルーツのストレートすぎる言葉に、ギースは苦笑する。


「いや、おれは弱いよ。魔力も少ないし、クラスの中でも全然下の方だ。でもそれはおれのせいじゃない」


「どういう意味ですか?」


 ギースはため息を吐いた。


「おれの師匠が魔法使いというものに拘る人間だって話したよね? なんでも、魔法使いなら全ての属性の魔術を使えないければならない、だと」


「本気ですか? 一つ、二つならともかく全てを? 例え初級魔術を使うだけだとしても、それだけで才能は枯渇するでしょう? それにただ魔法を覚えることとは違う才能が必要になります」


「ああ、だからおれの才能はもう枯渇したんだよ。とにかく時間がかかったし、おかげでこの年でもまともな魔法を一つも覚えていない。ただ全ての属性を使えるようにするために、人生の全てを懸けてきた」


 初級魔術は、例えば火ならマッチ程度。


 水ならコップ一杯を出せる程度らしいと聞いたことがある。


「信じられません、いくら師匠の命令だとしても」


 余程信じられないのか、フルーツは人形のくせに無表情が崩れている。


「大丈夫だよ、おれは後悔なんてしていない。それにする必要もない。今の威力を見ただろう? 初級魔術どころか魔法レベルの威力を感じなかったか?」


「確かに、その魔法陣が原因ですか?」


「ようは工夫だよ。頭を使って、死ぬほどの努力をすれば世の中のほとんどの物事は覆せるのさ」


 またもギースは腕を振るう。今度は一面を氷景色にして、光と闇をフルーツに解き放つ。


「まあ、魔法陣の仕組みは教えられないが」


「化け物ですね。油断していましたよ!」


 あの人形が、戦闘に夢中になっていく。まだ見ぬ強者を楽しんでいると言うところか。


 あいつは本当に人形なのか?


「だが、ここだな」


 ぼくが割り込むにはここしかない。ギースは戦い始めても岩の上から立ち上がりもしない。


 とりあえず一撃を食らわせるにはいい条件だ。


「ぼくも魔法使いの実力とやらを見せてもらうとしよう」


 できれば大ダメージ、殺せたら上々だな。

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