仲間?
ぼくたちは休憩時間を見計らって教室に入る。
先頭の方には一席だけがポッカリ空いていて、当然のように主席くんはそこに座った。
その近くでも多少は席に余裕があるようだが、ぼくはしっかりと距離を取り教室の後ろのほうに座った。
その日の授業はぼくにしては珍しく、真面目に受けていた。
最近はよっぽど退屈だったのだと自覚できるほどに。
だが、それも限界だった。
あと一時間で今日の授業は全て終わるのだが、あんまりにもつまらないので眠気が訪れる。
考えてみれば当然だ。
主席くんは時間割が進むほどに授業が難しくなると言った。
それはつまり、ぼくには理解することが出来ない授業。あるいは参加することが出来ない授業になるということだ。
最近まで普通の学校に通っていたぼくに魔法社会の専門的な知識などなく、魔力を利用するような実技などぼくに出来るわけがないのだから。
今だって飛び交っている言葉で理解できることは一つもない。
聞いたことがない言葉、聞いたことがない人名ばかりを黒板の前に立つ教師は口にしている。
さっきまでは窓から外の風景を眺めることによって意識を保っていたが、それにも飽きた。
教科書を読んでみてもよくわからないし、当然のごとくノートは真っ白だ。
一時間で起きることが出来るのかが疑問だが、何事もチャレンジだろう。
なあに、最悪明日の朝まで寝過ごしてもかまわないだろう。
☆
「貴様は何をやっている!」
突然の大声で目が覚める。
顔を上げて、周りを見渡すと主席くんが仁王立ちをしながら怒りの表情を浮かべていた。
「静かにしてくれ、頭に響く」
「それは好都合だ、貴様はもっと脳を活性させたほうがいい。それより授業中に寝るとは何事だ! 何をしに学院に通っている!」
「なにをしに?」
どうしよう、はっきりと暇つぶしに学院に来たと言えばいいのだろうか?
だが、それではさらに主席くんの怒りが増しそうな気がする。
……それはそれで楽しそうだ。
「退屈だから学院に来たんだよ。家で遊ぶのも寝て過ごすのも飽きたんだ」
「馬鹿か貴様は! ここをどこだと思っている、世界最高の学院をなんだと思っているのだ!」
その後もグダグダと説教は続いたがぼくは簡単に聞き流し、落ち着いたころにヴィーの家に帰宅した。
面倒ではあるが、いい玩具を見つけることが出来た。
退屈が収まるまではこの主席くんと関わるのも悪くないのかもしれない。
……当然、許容できる範囲での話だが。
☆
暫くは真面目に学院に通おうと思ったはずなのに、次の日も大幅に寝坊をした。
当然と言えば当然だ。一度アイラに起こされて朝食を食べた後、もう一度寝たのだから。
気楽に歩いて学院にたどり着く。
だが、今日は憂鬱な階段の前に先客がいた。
「む? なんだ貴様か?」
先に気づいたのは向こうで、声を掛けられる。
「お? 主席くんは今日も遅刻なのか?」
「黙れ、俺は初日以降は全て修行をしてから学院に通っているのだ」
「自慢にもならない」
「貴様に言われたくないわ! それより、今日も上まで運ばれたいか?」
「ああ」
あの双子よりも話が早いな。
「いいだろう、貴様を放置して家に引き返されるよりはこの俺が連行してやったほうが確実だ」
主席くんはそう言って、昨日と同じように魔法を使うとぼくを階段の上まで連れて行ってくれた。
どうせなら教室まで運んでくれればいいのにと思いつつ、ぼくらは歩きだした。
また休憩時間を見計らい教室に入ると、主席くんは前の方にある空いた席に……。
「あれ?」
ぼくの首根っこを掴まれると、強制的に運ばれ一番前の席に二人で並んで座った。
「おい」
「黙れ、授業中に寝ることは許さん。俺が隣にいることで抑止になるだろう」
主席くんは腕を組みながら威圧的にそう言った。
ぼくは後ろからぶん殴ってでも距離を離してやろうかと思ったのだが、一つ後ろの席からぼくらに話しかけてくる声が二つ。
「おや? ベイカーくん、この方は?」
「世界最高の魔法使い、ルーシー・ホワイミルト教諭の唯一の愛弟子、神崎無限だ」
「へえ? 貴方がそうなんですね、初めて見ました。私はグリム・ヒューストンです」
敬語を使いながら気安く話しかけてくる人物は、どうやらエルフの女性に見える。
ファンタジー小説などに当たり前のように出てくるエルフの特徴である長く尖った耳があるからだ。
「失礼なことを言うなよ、彼のことはシナモンが決闘の仲裁をした時に見たことがあるはずだよ。パーカー先生と仲良く会話をしていた」
へえ、ぼくが学院に登校したのはその日だけだったのに覚えているなんて記憶力がいい。
冷静にエルフの言葉を訂正する男性は、ぼくが一日だけ着ていた魔法使いらしい格好をしている。
実に羨ましい。
ぼくも毎日この格好で学院に通いたかったのだが、時代錯誤だし自分が恥をかくので止めてくださいとルシルに言われてしまったのである。
「おれはギース・カルティット。……この格好は師匠の趣味でね、強制的に着させられているんだ」
趣味のいい師匠で羨ましい、一度会ってみたいな。
その人は魔法使いというもののイメージをよくわかっている。
多少の恥をかいても、飽きるまではこの格好で遊びたかったものだ。
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