パーティー 

 


 その始まりは、偽物のクイーンの挨拶で始まった。


「我が国から、一人の殺人鬼が排除されたことを祝して!」


 乾杯の合図はなされ、舞踏会は始まる。


 隅の方には豪華な料理が並んでいて、早速食べに行こうと思うのだが、ルシルにその道を塞がれた。


「一曲、お願いしますね」


 ルシルは、満面の笑顔を浮かべながらぼくに踊りの誘いをする。


「お断りだ」


 それを、ぼくはバッサリと切り捨てた。


 この会場に入る前に、あるパーティーの参加者の会話が耳に入った。


 その内容はどういう風に聞いても魔法を知っている奴らだと確信できる会話で、このパーティーで世界最高の魔法使いは初めてできた愛弟子を紹介するらしい。


 どう考えても、世界最高の魔法使いとはルシルのことでその弟子とはぼくのことを指すのだろう。


 おそらく誘いに乗り一曲踊った後、このパーティーに参加している偉そうなやつらにぼくを紹介するに違いない。


 そんなものはお断りだ。


 何度も言うが、ぼくが弟子になった条件はルシルの魔法を覚えることであって、晒し物になることではない。


 それに、そんなことをしたら目的を果たしてもルシルの弟子を辞めることが出来なくなっているかもしれない。


 残念ながらぼくは、ルシルの次の弟子が出来るまでの繋ぎでしかなく、用が済んだら魔法の世界とはオサラバする気満々だ。


 ぼくはルシルの次期学院長への道が途絶えないように、一時的な協力をしているに過ぎないのだ。


「今回はよくやってくれたな、パーティーを楽しんでくれ」


 なんか、偉そうなことをいいながら近づいてくる少女がいるなと思ったらクイーンだった。


「丁度いい、踊ろうか」


「う、うん?」


 困惑するクイーンを連れてぼくらは軽く踊る。会場の中では隅の方ではあったが、割と上手に踊れていると思う。


 とにかく、ルシルから距離を取ることには成功した。


 ルシルは知らない人間にダンスに誘われて、不器用に踊っている。


「驚いたな。お主は踊れるのか」


「うん? ……ああ、まあ昔取った杵柄ってやつだなあ」


 別に覚えたかったわけではないが、覚える羽目になった。


 これでもぼくは一応、名家の出なのだ。


 捨てられようがそれは変わらず、ぼくは親戚の兄弟たちと色々な踊りを習っていた。


 当時のぼくは退屈で仕方がなかったのである程度学んだが、身に付いた努力はまだ消えてはいないらしい。


 音楽に合わせて、体がある程度勝手に動いてくれる。


 一曲が終わるまで、ぼくはクイーンと踊った。会場の人間が拍手をすると次の曲が始まった。


 残念ながらこれ以上付き合う気はないので、ぼくは踊るのを止めてとっとと帰ろうとした。


 ルシルは次のダンスを申し込まれているので、簡単に逃げ切れると思う。


「少し話さぬか?」


 だが、クイーンに誘われたことにより目的は変更する。


 そういえば、ちょっとだけ用事があったのだった。



 ☆



 今日は満天の夜空だ。たくさんの星、月などが奇麗に光っている。


 ぼくたちはバルコニーに出ると、人目につかない隅の方で会話を始めた。


「さっきも言ったが、今回はご苦労だったな」


 クイーンは上機嫌にぼくに語る。


「今回の仕事は満点だ。褒美を与えてもよい」


「それよりさ、なんであんたは爺さんをクビにしたんだ?」


「なに?」


「あの爺さんがたとえ両目を失っても、まだ戦えるってわかっていたんだろう?」


 なにせ、その後に人生の全盛期を迎えたらしいのだから。


「奴の才能の限界を感じたからだ」


 クイーンは端的に答える。


「奴は最強になるのが夢になるのだろう。当時、騎士団の中では有名だったからな。無謀な夢、だが希望に溢れた素晴らしい目標だろう。だが、所詮は夢。あれが最強になどなることはない」


 現実の厳しさ、過酷なのはいつものことだ。


「われは長く生きているのでな。才能の有る無しはよくわかる。確かにあれは騎士団の中での最強は目指せただろう。成程、その全盛期を迎えれば騎士団長にすら上り詰めたかもしれないな」


 その才能を、認めていないわけで決してなく。


「だが、それが限界。世界最強には到底なれない。その現実を理解する前にわれは決断を下した」


 理解をするということが、救いになるとは限らない。


「一応は、優しさのつもりだったのだよ。知ってしまえば自死しかねないほどに、あれのプライドは高かった」


 だが、それは絶望から怒りに変えることが出来た。


 そして圧倒的な存在に出会うことによって。


 死ぬことを恐れるほどになれたのだろう。


 目的を叶えるまでは死ねない。どうしても自分は最強になるのだ。


 理解できる友を得たこともその一つかもしれない。


 だが、その夢は結局砕かれた。


 誰が悪かったというわけでもなく、ただの現実の厳しさによって。


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